統計的なデータ利用もプライバシーポリシーで公表すべき
有園:先ほど、消費者の感覚の話がありましたが、確かに法律とは別に「ユーザーの不安や懸念がないか」は考えるべき観点ですね。「群」のデータだから大丈夫です、といっても伝わらないとは思いますが……。

簗島:そうですよね。なので、消費者にとって「IDが特定されていない」「広告が出ても個人はわかっていない」という状態を作り、かつ理解してもらうことは、僕らも含めてネット広告業界のプレーヤーにはとても重要だと思います。よりプライバシーを守って、消費者に安心してもらえる環境を整える必要があります。
とはいえ、クライアントに提供するソリューションなので、ターゲティングの精度は高くないといけない。その間をうまく見つけようと、試行錯誤しています。
有園:なるほど。消費者からすると「情報を統計的に扱うなら、自分のデータを同意なくどれだけ利用してもかまわない」というわけではないですからね。そうした部分への配慮を、広告主企業やメディア企業が伝えるためには、どのような策があるのでしょうか?
簗島:統計的なデータはそもそもそれをもとに相手を特定できないので、個別の連絡はできないですよね。なので「個人を特定せずにデータを使っている」ことを、サイト内で公表することを推奨しています。使っているデータの種類、マーケティングツールやマーケティング効率を上げる各種仕組みを公表する。プライバシーポリシーに記載するのが一般的だと思います。
個人情報保護の観点から考える3パターンのマーケティング
有園:統計的に消費者のデータを使うことは法律上は問題ないけれど、御社ではツール導入企業に「どんなデータ活用をしているか」を公表することをお勧めしているわけですね。オプトアウトの提示も同じように推奨されている?
簗島:はい。オプトアウトされると使えるデータ量は減りますが、統計的にだったとしても「自分のデータを使われたくない」「それに基づく広告は要らない」と思っている人に望まないアプローチをしないほうがいいだろう、と。そういう人に広告配信すると、無駄打ちにもなりますし。
僕らも、元々の考えは「同意取得を促して個人情報をたくさん集め、精度の高いターゲティングを実現しよう」という方向性だったのですが、1年ほど模索して意識が変わってきて。「個人を特定してマーケティングする必要がそもそもあるのか?」と思うようになりました。

有園:先ほどのコホート的な、コンテンツターゲティングでもいいんじゃないかと。
簗島:そうなんです、むしろそちらのほうが世の中に受け入れられるのでは、と。クライアントの要望も増えているので、当社としては今、この統計的な方法に寄ってきています。
前段を踏まえて整理すると、現状のマーケティングには3パターンあります。CMPなどでしっかり同意を取った個人情報を使う方法、各人の同意の範囲に基づいて生成したIDを使う方法、そして個人を特定せずコホートを使う方法です。
細かい個人情報に基づくターゲティングのほうが、平均すると広告効果は上がりますが、どんな業界でもCMP上で「自分の個人情報活用に同意する」人って20%くらいなんですね。つまり同意取得率は約20%。しかも、その取得のためにポップアップを出したりするので、ユーザーが好まないことも多い。それなら、ユーザーが特定できずターゲティング精度は少し下がっても、コホート単位のターゲティングのほうが導入しやすく、ユーザーも安心ということなんです。