ブランドマーケティングに投資する理由
木村:前回に続き、Uber Japanの中川さんにお話をうかがいます。これまでの話をまとめますと、オンラインフードデリバリーは市場が拡大している段階であり、ユーザーのハビット(習慣)を作り、定着させることが大きなミッションになっている、そのためにはセグメントごとにより響くメッセージを出し分けることが重要、ということでした。
続いて、D2Cやデジタルマーケティングの文脈で質問させてください。私自身、ラフラというD2Cに近いブランドでデジタルドリブンのマーケティングをやっていると、目に見えて結果が出るのが面白いですし、評価の指標もわかりやすいと感じます。デジタルバナーがその最たる例で、いくら使って何回クリックされたのか、そのうち買ってくれたユーザーが何人だったのか、はっきりと可視化できますよね。そうすると利益率をはじき出して、ユニットエコノミクスを計算して、このままいくと目標達成できるかどうか見通しを立てて、投資するかどうかを判断できます。事業規模がまだまだ小さいフェーズではどうしても、こういう「すべて計測・可視化ができる」ところでマーケティングを完結させたい、そのほうが安心できると思ってしまうところがあります。
一方で、事業がある程度大きくなっていくと、ユーザー獲得の効率が落ちてしまったり、認知を取っていかないとビジネスの拡大が見込めなくなったりしますよね。このような、測定がしにくい領域への投資判断や予算配分をどのようにしていくか、マスとデジタルをいかにシームレスに取り入れていくかという点について、ぜひおうかがいできればと思います。
中川:ありがとうございます。解決にならないかもしれないのですが、私のやり方をお話ししますね。
木村さんのおっしゃるとおりで、ショートタームのコンバーションという尺度だけでブランドマーケティングを測ろうとすると、絶対見合わないので、100万年たっても「やる」ということにならないと思うんですね。プロモーションのオファーリングやディスプレー広告などでCPAをどんどん最大化していったほうが、効率はいいんです。
ではなぜブランドマーケティングに投資をするか。これについてはPeter Field と Les Binetの著書でも触れられていますが、プロモーションで獲得していくとショートタームでは伸びていくものの、ロングタームではなかなか伸びないため、延々とプロモーション値引きを続けざるを得なくなる。投資比率が下げられないので、P&Lが改善しないんですね。長い目で見て、だんだんとプロモーション投資のパーセンテージを下げてグロースしていくことができるようになるために、ブランド投資はやっていくものなのだろうと思っています。
グラフが掲載された参考記事:'The wrong and the real of marketing effectiveness' “Marketing Week”
ここからのことは、今お話ししたような考え方が土台にあって初めて実現できることなのですが、Uberの場合は、ブランドマーケティングと、コンバージョンを追い掛ける部分の投資は、完全に分けて考えています。後者はパフォーマンスマーケティングという呼び方をしているのですが、いわゆるROASがどれぐらいで、獲得単価がどれぐらいで、といったことを追い掛けていて、獲得人数を最大化しながら、費用対効果はこの範囲で収めましょう、という形で運用をしています。木村さんがおっしゃる「完全に可視化できている」状態だと思います。
一方でブランドマーケティングのほうは、先ほどお話しした考えに基づいて、基本的にはブランドとしてのファネルの指標である、アウェアネス(単純想起)やトップ・オブ・マインド・アウェアネス(第一想起)、パーチェスインテント(購買意欲)、ブランドアトリビュート(ブランドに関する特定のイメージ)などを一つないし複数追いかけています。