幅広く捉えた「食」の魅力を届けるサービス
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずはお2人のご経歴と現職でのミッションからお聞かせください。
毛利:今回協業させていただいたサイバーエージェントのグループ会社に新卒入社し、デジタルマーケティングの総合プランナーを経験しました。その後スタートアップ企業への転職や独立を経て、2020年にグッドイートカンパニー立ち上げのタイミングでジョインし、今に至ります。
毛利:現在はマーケティングマネージャーとして、Web広告やCRMなどデジタル関連のマーケティング施策全般を担当しています。
羽片:私は2009年にサイバーエージェントへ新卒で入社したのち、2010年にスマホアプリ事業を展開する子会社の代表を務めていました。
羽片:2014年に広告部門へ戻ってからはアドテクノロジーの責任者を務め、現在はInstagramなど主要プラットフォームのメディア売上責任者として、広告売上の拡大に取り組んでいます。
MZ:グッドイートカンパニーで運営されている「GOOD EAT CLUB」とはどういったサービスなのでしょうか?
毛利:GOOD EAT CLUBは新しい食のEC事業です。docomo社と、店舗やコミュニティ作りに強みを持つカフェ・カンパニー社がタッグを組み、2021年7月から本格的に事業を開始しました。
毛利:単なる食品(FOOD)ではなく食体験(EAT)を届けることを大切にしていて、「作り手や紹介者のストーリー」「おうちでの楽しみ方」など、おいしさだけにとどまらない食の楽しさを見つけていただけるサービスです。特徴は「Tabebito」と呼ばれる食の偏愛者たちが、大好きなお店や商品をパーソナルなストーリーとともに愛情たっぷりに紹介していること。ユーザーさんは気に入った商品をすぐに購入することができます。
「Instagram×食」は好相性
MZ:GOOD EAT CLUBではInstagramを通じた情報発信に力を入れているとうかがいました。
毛利:200点以上ある取り扱い商品の紹介のほか、GOOD EAT CLUBが大事にしている“食のシーン”を切り取り、「●●な時に食べたいもの」のようにユーザーの感情に訴え自分ごと化してもらえる発信の仕方を意識しています。
毛利:Webマーケティングに長く携わっているので、認知獲得の場やエンゲージメント向上の場としてのInstagramの重要性は理解していました。サービスの開始当初から「力を入れていきたい」と社内で話していましたね。
羽片:「Instagram×食」って、相性がとても良いんです。発見タブなどで新しい情報に出会えるのがInstagramの特徴なので、相性の良いプラットフォームで新しいお客さんにGOOD EAT CLUBの情報を届けられるのは魅力ですよね。
MZ:アカウントの開設当初から、運用パートナーとしてサイバーエージェントに協力を仰いでいらっしゃるそうですね。
毛利:弊社の役員がサイバーエージェント出身で、私自身もサイバーエージェントグループにいたため、施策のスピード感や実績の部分で絶大な信頼を寄せていました。InstagramやFacebook運用の知見は相当持たれているんじゃないでしょうか。
羽片:役員の方から、グッドイートカンパニーの立ち上げ前にサービスの構想を聞いていたんです。「ローンチ以降サービスを拡大したいからマーケティングを手伝ってもらいたい」というパスをもらったのが協業のきっかけです。
現在はInstagramのオーガニックの投稿や動画コンテンツの企画制作に両社で取り組んでいて、私と毛利さんは主に広告まわりを担当しています。
「商品タグ付き広告」で買い回りの促進を狙う
MZ:GOOD EAT CLUBではInstagramのコマース系機能も積極的に活用されているとうかがいました。ショップ開設の構想はいつごろからあったのでしょうか。
毛利:アカウント開設当初から商品タグ機能を利用していました。日々のアカウント運用でエンゲージメントを高め、購買の出口としてショップを活用するのは効率的だと感じたからです。
羽片:日本ではInstagramのユーザー数が非常に伸びているので、これだけ人がいる場所でものを売れるとなれば「すごいことになるぞ」という期待感を持っていました。
MZ:2021年11月2日(火)~11月18日(木)の期間で取り組まれた「商品タグ付き広告」の活用施策についてお聞きします。そもそもなぜ商品タグ付き広告を活用しようと思われたのでしょうか。
毛利:広告運用において、ある課題を抱えていたんです。一般的に食品の“シズル感”を押し出したクリエイティブはCTRが高いので、広告も単品商品にフォーカスした内容に寄っていたのですが、弊社としてはいろんな商品をサイト内で買いまわっていただきたいと考えていました。
「Aという商品を食べたいからサイトを訪問する」というモチベーションの場合、商品が手に入ればそこで終わってしまいます。そうではなく「GOOD EAT CLUBで買い物をする」という体験を広告経由でも作っていきたいと考えていました。
商品タグ付き広告では1つの画像に複数のリンクを設定できる点が大きなメリットだと感じました。通常のInstagram広告では、複数商品のカットを使ったとしても1画像につき1リンクしか入れられません。商品一覧など、ややわかりにくいページヘの誘導をするしかなく、お客様の購買モチベーションを維持することが難しいと感じていました。
また、広告を見たユーザーに「GOOD EAT CLUBにはいろんな商品がある」という印象を与えることもできますし、複数商品の中からご自身の好きな商品をクリックしてもらえるので、買い回りの促進にもつながると踏んでいました。
CTRは通常広告の1.37倍! 獲得効率の良いUGC風クリエイティブ
MZ:具体的にどのような内容で検証を進めていったのですか。
毛利:まずはシンプルに商品タグ付き広告と通常広告で比較を行ったところ、商品タグ付き広告は通常広告に比べてCTRが1.37倍、CVR(購入率)が1.95倍、カートから購入への転換率が2.07倍と、かなり高い数値を示しました。
毛利:商品タグ付き広告の効率があまりにも良く、途中から通常広告の倍の予算を投じて配信したのですが、それでもこの数値に着地しましたので相当な成果を得られたと言えます。また当初の課題であった買い回りについても、ページパーセッションが15%程度増加していることから、解決の兆しが見えました。
次に複数リンクの効果を測るため、1画像に複数商品を写し、リンクも複数設定したクリエイティブと「1画像・1商品・1リンク」のクリエイティブを比較したところ、複数リンクのCTRが平均値の1.1倍と、商品タグ付き広告同様に良い結果が得られました。CVRは1リンクの方が高かったものの、企画によるところが大きいのでそこまで気にしていません。
毛利:商品タグ付き広告や複数リンクの効果は先の検証で見込めたので、次はそれらの効果を最大化させるクリエイティブと企画の検証を行いました。「プロ撮影のシズル写真」「UGC風の温かみがある写真」「イラスト+画像のデザイン」の3素材を比較したところ、CTRが最も高かったのはUGC風でした。
パートナーとともに新しい広告プロダクトを試す意義
毛利:企画軸の検証では、切り口を3つ用意しました。「#おうちバル」「#ご褒美スイーツ」などのハッシュタグ別企画、アイスやカレーなどの商品カテゴリ別企画、そしてスタッフのお薦め企画です。この中でCVRが最も高かったのは、ユーザー自身が商品を探す手間のないスタッフレコメンド企画でした。
毛利:CTRはハッシュタグを使った企画が最も高かったので、商品のラインアップやクリエイティブによって、ふさわしい企画軸を探る必要があると感じました。細かい数値の良し悪しはあるものの、全体を通して商品タグ付き広告の有用性を実感できたのは大きな収穫でしたね。
MZ:ここまで細かく検証内容を設計されていたことに驚きました。羽片さんから見て、マーケターが毛利さんの姿勢に学ぶべきポイントはどこにあると思われますか。
羽片:第一に、商品タグ付き広告のような新しい機会をいち早く捉える先見性が大事だと思います。「Instagramでものを売る」という取り組みは、まだ白地の領域です。競合他社が参入してくる前に、いかにナレッジを貯めておけるかが成功のポイントではないでしょうか。
第二に、PDCAサイクルをしっかり回すことのできる社内の体制作りです。売上最大化を目指すには、検証内容や予算配分などをグッドイートカンパニーと我々の両社でハンドリングしていかなければなりません。毛利さんとは細かいところまで議論しながら取り組めたので、良い成果につながったのだと思います。
毛利:羽片さんをはじめサイバーエージェントチームのメンバーには、知らない情報を教えてもらえたり、私が思いついたぼんやりとしたアイデアに具体的な肉付けをしていただけたりするので、とても助けられています。
売上が上がらなければ何の意味もない
MZ:最後に、お2人の今後の展望をお教えください。
毛利:今回の検証によって、GOOD EAT CLUBにおける買い物体験の向上を商品タグ付き広告で実現できる兆しが見えました。今後はさらにCTRの向上を目指し、CPCをどれだけ下げられるかに挑戦していきたいです。
食のECは、どれだけ短時間でマイクロモーメントを引き上げられるかが鍵だと思っています。「美味しそう!」と思った瞬間に購買へ促すためには、インプレッションからクリックまでのボトルネックを解消していく必要があるので、そのためにも商品タグ付き広告などの新しいフォーマットを積極的に取り入れて効果を検証していきたいですね。
羽片:消費者側が新しいものにどんどん手を伸ばす今の時代において、Instagramという場所を売上につなげていくことが我々の最重要課題だと思っています。逆に言うと売上が上がらなければ何の意味もないので「ユーザーをどう動かしていくか」「ユーザーにどう買ってもらうか」を考えながら、広告でもオーガニック投稿でもコミュニケーションを図るサポートを続けたいです。