2022年以降、消費を大きく左右するもの
突然世界中が混乱に巻き込まれた、2020年初頭から約2年。運よく新しい状況に適応できた人もいますし、禁止されていた直接的なコミュニケーションの場も復活しつつあります。ただ、残念ながら、コロナ禍からの脱出はまだ遠く、全体としては環境問題など先の見えない不安もあって、この重くのしかかるようなムードは2022年以降も続くだろうと考えられます。
そのような中、これからは「消費者が製品や体験に対して“どのように感じるか”が消費を左右することになる」と言われています。企業としては、綿密な計画を立てつつも、消費者のニーズや要望、好みに合った製品を作る体制やメンタリティを柔軟な発想で切り替えながら構築することが、かつてないほど重要になってくるのです。
では、肝心の「消費者の未来のニーズや要望とは?」というところから見ていきましょう。
時間の感じ方にバグが起きている? 私たちに起きている変化
おおよそ1年後の消費者が感じるであろう4つのセンチメントとして提示されたのが、こちらにある「不確かな時間感覚」「鈍感力」「希望」「モチベーション管理」です。わかるような、わからないような……といったキーワードが並んでいますので、一つひとつその意味や背景を確認していきたいと思います。
【1】不確かな時間感覚:時間の感じ方にバグが起きている

1つ目は「不確かな時間感覚」です。パンデミックは、社会的“イキモノ”である人間にとっては極めて不自然な状態である「隔離」という厳しい生活条件を日常に持ち込みました。その後、それぞれの地域がそれぞれの状況にあわせたペースで規制解除を行っていますが、感染症騒ぎが引き起こした不安によって、私たちの時間は妙な具合に伸び縮みしています。
たとえば、時間が経つのがやたら遅く感じられたかと思うと、数ヵ月が瞬く間に過ぎていく。そんな感覚に覚えはないでしょうか? また、記憶の順序が入れ替わったり、理想の過去にフォーカスするなど、今私たちの時間の感じ方にはちょっとしたバグのような狂いが生じています。
時間の感覚がなくなるこの状態は、学術的には「隔離パラドックス」と名付けられています。コロナ禍で“時間”は共通の関心事となり、有効活用する方法や時間をどう凌ぐかといったトピックで会話が盛んに交わされるようになりました。人々はパンデミック前の生活に思いをはせながら、お菓子作りやパン焼き(小麦粉の世界売り上げは前年比で238%増に)、ガーデニング、バーチャルパーティー、クラシックなテレビシリーズなどで元気を取り戻したり、ノスタルジックなムードに浸ることで気持ちを落ち着かせたりしています。
加えて、非同期社会(これまで同時に行っていたようなことを、それぞれがバラバラに取り組む状況。たとえば、異なる時間で同じテレビ番組を視聴するなど)も拡大していると言われています。
さらに、仕事がある日とない日の睡眠パターンの崩れによる不調が拡大しており、結果的に睡眠促進のソリューションが大きなビジネスへと発展。前年比プラス8%の400億ドルへと成長する、という現象につながっています。
【2】鈍感力:意識的に物事に反応しないことで心的ストレスを回避する

2つ目に注目しているのは、鈍感、無感覚という心理による「鈍感力」。わざと物事に反応しないことで心を休ませようとする動きです。
これは、自分を安定させよう、ケアしようというマインドが働いているためだと考えられます。心がざわつく2年弱を乗り越え、私たちはある意味でユニークなストレスコーピングの手法として、意識的な“麻痺”“無感覚”状態を選択したようです。
無感覚(鈍感な)状態の背景には、困っている人を助ける過程で起こる二次的なストレス「共感疲労」があるとも指摘されています。他者と共感することは人として大事なですが、一方でそれによって心理的な辛さを引き受けてしまい、疲れてしまう状況です。これを引き受けすぎてしまうと、バーンアウトや精神的な疲労、離人症(麻痺)にもつながってしまうため、自己防衛的な反応から選択的無関心が広がっていると考えられます。
そして、その深層では、選択的無関心によって(思いやりを全く持たないことではなく)、一歩下がって提示された情報一つひとつを客観的に検証し、無条件に反応するのではなく、適切な対応をしようと試みているのです。社会のあらゆる層に属する人々が自分の生きる目的や人生の意義を問いかけている状況がうかがえます。
したがって、ここで使っている「無感覚」という言葉は、普通私たちが思い浮かべる「感覚がない」ということではなく、むしろ表面的に無感覚を生み出している状況と、その状態に陥っている多くの人が心の奥底で求めるアクションを意識することを促すためのキーワードであり、今後はそれを可能にするプロダクトやサービスが重要になるだろうと考えられます。無意識に広がる無感覚のサイクルを断ち切るためにも、意識的なセルフケアを促すアプローチが大事です。