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次世代サービスをどう作るか。電通デジタルに聞く“アドバンステック”の活用で意識すべきこと

 VUI、VRといった次世代テクノロジーの登場により、CXの価値向上の可能性が広がっている。一方で、これらの技術を活用するための課題は多く、参入障壁が低いとはいえないのが現状だ。本稿では、幅広い領域でクリエイティブディレクションとサービス開発に携わった電通デジタル泰良氏、クリエイティブと次世代テクノロジーを組み合わせ、新たな体験づくりに取り組んでいる川村氏の両名に、アドバンステック活用の流れや開発事例について、詳しい話を伺った。

フリクションレスな体験と感動が求められる

MarkeZine編集部(以下、MZ):生活者の行動変化や次世代テクノロジーの登場により、新たなサービスやプロダクト開発の機会が生まれています。世の中のテック活用の流れをどのように見ていらっしゃいますか。

泰良:大きく分けて2つあります。1つは、フリクションレスのためのテック活用です。

電通デジタル CXクリエーティブ事業部 事業部長/クリエーティブディレクター 泰良文彦氏
電通デジタル CXクリエーティブ事業部 事業部長/クリエーティブディレクター 泰良文彦氏

 通勤・通学からコンビニでの買い物まで、スマホをかざすだけで完結する世の中になりました。便利さが当たり前になったことで、手数の多い体験は支持されなくなってきています

 たとえば、ガソリンスタンドでの給油時に、わざわざ専用のカードを出すのは面倒じゃないですか。IoT端末を導入すれば、コンビニ同様タッチするだけで支払えるようになります。

 今ある世の中の煩わしさをショートカットできるようにするのが、重要なポイントだと思います。

 もう1つの流れは、人の心を動かすことへの活用です。たとえば、観光地訪問の疑似体験です。富士山への旅行を考えたとして、事前に春夏秋冬ごとの景色を疑似体験できれば、自分がどの季節の富士山を見たいかわかりますし、行きたい気持ちがより高まるかもしれません。

川村:VRや立体音響などは、まさに心を動かすための活用です。造作を作らなくても、ヘッドマウントディスプレイを被るだけで新しい刺激が得られます。人間の五感を拡張することで、日常では得られない体験を実現するのも、アドバンステックが生み出す価値の1つだと考えています。

電通デジタル クリエーティブ部 クリエーティブディレクター 川村健一氏
電通デジタル クリエーティブ部 クリエーティブディレクター 川村健一氏

事業レイヤー規模でのアドバンステック導入

MZ:アドバンステックを導入したい企業は多い反面、実際に取り組むとなると難しい印象です。所感をお聞かせいただけますか。

泰良:そうですね。我々がクライアントの企画を考える際、対面する方は企業の社員であることが多いです。いち担当者としてプロジェクトを行う場合、やはり失敗はしたくないですよね。

 今までにない新しい取り組みにはリスクがありますし、数字的な結果も求められます。他社が既に実施して効果や反響のあった前例がないと、なかなか手を出しづらい背景があると思います。

川村:一方で、新しい価値の創造にトライした企業が、大きな結果を生み出すのも事実です。ダイソンが5,000台以上のプロトタイプを作って、新しいプロダクトを生み出したのは有名な話ですよね。

 いきなり価値の創造に着手するのは難しいかもしれませんが、既存事業の効率化にアドバンステックを活用するのであれば、取り組みやすいと思います。

 コールセンターを削減して年間予算を何%削減する取り組みや、チャットボットの導入であれば、数字として把握しやすく決済も取りやすいのではないでしょうか。

泰良:次の段階として、さらに大きな価値を目指すのであれば、レイヤーを事業レベルにまで上げて取り組むプロジェクトの方が、アドバンステックを導入しやすいと考えています。

 DX領域において顧客体験を向上させるには、ユーザビリティを少し改善した程度では不十分で、大きな体験の変化が求められます。そのためには、事業そのもののレイヤーからテクノロジーをアップデートしていくのが、今後の流れになるのではないか、と思っています。

アドバンステック活用の好事例

MZ:アドバンステックの活用事例についてご紹介いただけますか。

泰良:ドコモが提供している『my daiz(マイデイズ)』という音声ナビゲーションを開発段階から担当させていただきました。いわばSiriやGoogleアシスタントのようなシステムです。

泰良:従来のAIのように最短最適な回答を返してくれる機能はもちろん、ユーザーの行動や経験を元に、新たなエクスペリエンスを提案することができます。

 残業のない日に「帰りに映画に行ってみてはいかがですか」と提案したり、雨の日に「早めに家を出ませんか」と提案したりすることで、ユーザー一人ではたどり着けない新たな選択肢を生み出すような仕組みです。

 ただ、コミュニケーションがフランクすぎたり、過度に干渉してきたりするとうっとうしいですよね。VUIはパーソナリティを感じやすいインターフェイスなので、my daizの口調やキャラクターについては、心理学やコミュニケーションモデルを活用し、かなり綿密に設計しています。

 親密度が上がると、ある程度距離感の近いキャラクターに進化したり、提案の精度が成長したりするのも、my daizの特長ですね。

川村:私が紹介したいのは、Isobar Brazilが手掛けた『Fiat Live Store』です。実施時期が2014年とかなり前の事例ですが、今の時代に非常にあっているプロモーションだったと思います。

 オンライン上に実際の店舗がデザインされたイベント会場があり、ユーザーがブラウザ越しにアクセスすると、現地のスタッフに直接つながります。スタッフはカメラとマイクのついたヘッドセットを装着しており、ユーザーの希望通りに実車を見てくれるシステムです。

Fiat Live Store / Case Study (English) from Isobar Brasil on Vimeo.

川村:Webサイト上のカタログでは得られない、質感や手触りなどの情報まで得られる点が注目を集めました。結果的に45万人の方が利用して、そのうちの67%が試乗予約を行ったプロモーションです。

 従来、ブラウザの中では達成できなかったユーザー体験を、新たに作り出した功績は非常に大きいと思います。

「ペイン」の解消と「ゲイン」の提供

MZ:アドバンステックの活用事例を踏まえ、優れた体験を届けるサービスやプロダクトの共通項について教えてください。

泰良:冒頭の内容と重なりますが、時間のかかることが瞬時にできたり、外出せずに自宅で完結できたり、ユーザーの「ペイン」を的確に解消していることがポイントの1つだと思います。

 もう1つは、人間には処理できない膨大なデータを処理したり、見つけられない独自のパターンを提案したりするような「ゲイン」の提供です。NetflixやYouTubeなどでレコメンドされた、全然知らない動画が思いのほかおもしろく、関連動画まで見てしまった経験は、皆さんあるかと思います。

 優れたアドバンステックの活用とは、ユーザーの利便性を高めるペインレスな体験か、新たな出会いや驚きを得るゲインな体験の、いずれかを作れることではないでしょうか。

川村:アドバンステックが、ユーザーにとって「空気のような存在」になっていることも意識する必要があります。テクノロジーを主張しすぎず、体験の中に自然に溶け込んでいる状況が、理想的なフリクションレスの実現だと思います。

泰良:テクノロジーを意識せず、無自覚に使えるものが、本来最も優れたテクノロジーの活用です。PASMOなどがまさにそうですよね。仕組みを知らなくても、誰でも使えるサービスにまで仕立て上げられるかが重要です。VRはまだ、そこまでの次元には到達していないですよね。

川村:エンタメ領域で刺さっているにも関わらず、日常には浸透していないのがVRの現状です。だからこそ、現時点でのチャレンジが今後生きてくる領域だと考えています。

開発に取り組む企業が意識すべき3つのポイント

MZ:企業がアドバンステックに取り組む上で、意識すべきポイントについてお教えください。

川村:大まかに、3つのポイントがあると思います。

 1つ目は、技術の未成熟さです。未成熟な技術の活用には、試行錯誤を前提で取り組む必要があります。1つのテクノロジーに固執しすぎず、他のソリューションと組み合わせる工夫や、柔軟さが求められる領域であるという理解が求められます

 2つ目は、デバイスの普及です。先ほど、顧客体験のために独自のヘッドセットを開発したFiatの事例をご紹介しました。最近になって、Fiatと同じことをスマートフォンで実現したのが「HERO」です。

 HEROはECと実店舗をつなぐオンライン接客ツールで、ユーザーが問い合わせると近くの店舗の販売員と遠隔でつながり、商品の実物を見せてもらったり、詳しい説明を受けたりできるサービスです。

 FiatもHEROもやっていることはオンライン接客ですが、HEROはスマートフォンが普及したからこそ、実現できたサービスです。

 Fiatのように莫大な予算をかけて新しい価値を作り出す取り組みは、社会に大きな影響を与える反面、簡単にできることではありません。デバイスの普及が実現の可能性を上げ、企業が参加しやすい状況を作ったといえます。

川村:3つ目は、ワークフローの見直しです。企業がパートナーに企画を発注する際、ウォーターフォール型の開発になりがちですが、アドバンステックは、実際にやってみなければわからないことの多い領域です。

 アドバンステックのプロジェクトでは、プロトタイピングによる体験の模索、関係者間のイメージ共有、フィジビリティ担保などを、アジャイルで進めていく必要があります

泰良:そういう意味では、企画の構想段階からユーザーに届けるエンドまで、企業と一体となってプロダクトを作ってくれるパートナーの存在が、アドバンステックの活用において非常に重要だと思います。

固定概念に囚われず「三方良し」を目指す

MZ:アドバンステックとマーケティングの両面に強みを持つ電通デジタルとして、今後のどのようなCXを実現したいとお考えでしょうか。

泰良:CXの実現において、我々はよく「三方良し」の話をしています。当社に仕事を依頼してくれた企業、サービスを享受する顧客、そして社会全体にとって価値のある、所謂ソーシャルグッドの実現です。

 たとえば、中国のタクシー配車アプリ「DiDi」は、ソーシャルグッドの好事例です。

 元々中国のタクシーでは運転が荒い、遠回りする、過剰な料金を請求するなどの問題が多発していました。DiDiは、タクシーの運転状況をセンサーで監視しつつ、乗車したユーザーが運転手の対応を評価できる仕組みを導入しました。

 運転手側としても、評価次第で給与が上がる仕組みになっているため、無謀な運転をしなくなります。結果として運転手の人柄も良くなり、社会全体が穏やかになったそうです。

 DiDiは極端な例ですが、我々がアドバンステックを通じて目指す方向性は同じだと思います。

川村:固定概念に囚われないチームでありたいです。

 今回のコロナ禍で私が一番「やられたな」と感じたのは、「黙食」のポスターです。「静かにご飯を食べましょう」のようなプロモーションが沢山実施されたにも関わらず、最も世の中を動かしたのは、福岡のカレー屋さんが作成したポスターだった訳です。

 アドバンステックの領域はまさに日進月歩。テクノロジーを使うことで、今まで不可能だったことが可能になることから、我々はテクノロジーを積極的に活用していますが、目的を実現するための手段は何でも良いと思っています。フォーマットに固執せず、課題解決のために柔軟な打ち手を提供できるポジションを、電通デジタルとして目指していきたいと考えています。

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この記事の著者

坂本 陽平(サカモト ヨウヘイ)

理系ライター、インタビュアー。分析機器メーカー、国際物流、商社勤務を経てフリーランスに。ビジネス領域での実務経験を活かし、サイエンス、ODA、人事、転職、海外文化などのジャンルを中心に執筆活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/12/28 11:00 https://markezine.jp/article/detail/37910