フリクションレスな体験と感動が求められる
MarkeZine編集部(以下、MZ):生活者の行動変化や次世代テクノロジーの登場により、新たなサービスやプロダクト開発の機会が生まれています。世の中のテック活用の流れをどのように見ていらっしゃいますか。
泰良:大きく分けて2つあります。1つは、フリクションレスのためのテック活用です。
通勤・通学からコンビニでの買い物まで、スマホをかざすだけで完結する世の中になりました。便利さが当たり前になったことで、手数の多い体験は支持されなくなってきています。
たとえば、ガソリンスタンドでの給油時に、わざわざ専用のカードを出すのは面倒じゃないですか。IoT端末を導入すれば、コンビニ同様タッチするだけで支払えるようになります。
今ある世の中の煩わしさをショートカットできるようにするのが、重要なポイントだと思います。
もう1つの流れは、人の心を動かすことへの活用です。たとえば、観光地訪問の疑似体験です。富士山への旅行を考えたとして、事前に春夏秋冬ごとの景色を疑似体験できれば、自分がどの季節の富士山を見たいかわかりますし、行きたい気持ちがより高まるかもしれません。
川村:VRや立体音響などは、まさに心を動かすための活用です。造作を作らなくても、ヘッドマウントディスプレイを被るだけで新しい刺激が得られます。人間の五感を拡張することで、日常では得られない体験を実現するのも、アドバンステックが生み出す価値の1つだと考えています。
事業レイヤー規模でのアドバンステック導入
MZ:アドバンステックを導入したい企業は多い反面、実際に取り組むとなると難しい印象です。所感をお聞かせいただけますか。
泰良:そうですね。我々がクライアントの企画を考える際、対面する方は企業の社員であることが多いです。いち担当者としてプロジェクトを行う場合、やはり失敗はしたくないですよね。
今までにない新しい取り組みにはリスクがありますし、数字的な結果も求められます。他社が既に実施して効果や反響のあった前例がないと、なかなか手を出しづらい背景があると思います。
川村:一方で、新しい価値の創造にトライした企業が、大きな結果を生み出すのも事実です。ダイソンが5,000台以上のプロトタイプを作って、新しいプロダクトを生み出したのは有名な話ですよね。
いきなり価値の創造に着手するのは難しいかもしれませんが、既存事業の効率化にアドバンステックを活用するのであれば、取り組みやすいと思います。
コールセンターを削減して年間予算を何%削減する取り組みや、チャットボットの導入であれば、数字として把握しやすく決済も取りやすいのではないでしょうか。
泰良:次の段階として、さらに大きな価値を目指すのであれば、レイヤーを事業レベルにまで上げて取り組むプロジェクトの方が、アドバンステックを導入しやすいと考えています。
DX領域において顧客体験を向上させるには、ユーザビリティを少し改善した程度では不十分で、大きな体験の変化が求められます。そのためには、事業そのもののレイヤーからテクノロジーをアップデートしていくのが、今後の流れになるのではないか、と思っています。