肩書きではなく、今の自分に何ができるか
MarkeZine編集部(以下、MZ):島袋さんには過去にもご転職のタイミングでお話を聞かせてもらっていましたが(参考記事)、今回は驚きました。まずは経緯を教えていただけますか?
島袋:元々転職の意思はなかったのですが「42歳の自分には、今どんな選択肢があるんだろう」とぼんやりと考えることはありました。そんな中プリファードネットワークス(以下、PFN)の富永さんに声をかけていただき、通常の選考を受け、お互いをよく知る時間を数ヵ月設けた上で、このタイミングで挑戦しようと決めました。
MZ:タイミング、といいますと?
島袋:40代にもなると、プレーヤーか、マネージャーかの選択を迫られてきます。そのうえで、僕はまだまだプレーヤーとしてマーケティングを突き詰めたいと思っていたんです。お話ししていくなかで、富永さんやPFNはそれを求めてくれているような気がして。今の僕じゃないとできないなと感じました。
富永:どんなポジションで入ってもらうか、ということはまったく気にしていません。ポジションって飲み会の場を回す幹事みたいなもので、その時々の状況に応じて、いろいろな人がなっていくものだと考えています。役割もタスクもダイナミックに変化していく、アメーバみたいな組織が理想。そういう動き方をするにあたって、しまちゃん(編集部注:島袋さん)と一緒にやっていきたいと思いました。
島袋:そうだったんですね。僕も肩書きにはこだわりはなく、何が僕にできるのかが大切でした。もっと言えば、「マーケター」と自認することもほとんどなくて。その時々で、企業と企業、企業と人、そして人と人を繋いでいくコミュニケーターみたいな動きをしていくのが、自分の仕事だと思っています。
マーケターとしてのポータブルスキルって?
MZ:2019年に、富永さんがPFNさんにジョインされたことも話題となりましたが(参考記事:日経クロストレンド)、組織や業種を越境して活躍したいと考えるマーケターは多いと思います。お二人は、マーケターが場所を変えても持ち運ぶことができるスキル、つまりポータブルスキルはどのようなものだとお考えでしょうか?
富永:僕が欠かせないと思うのは、「いかに自分の中に人間のプロトタイプを持ち、シミュレーションを重ねられるか」というものです。人間にどう働きかけたらどう反応するのか、なぜそうなるのかを理解しておく。学問の領域では、行動経済学や心理学で深掘りされていますね。そういった勉強や実務での経験を蓄積していって、自分のなかに仮想の人間像を構築していくんです。それがあると、さまざまな施策に対して、逆算や設計ができるようになります。
自分なりの人間像は、社内でのコミュニケーションに応用することもできるんですよ。ある企画をやりたい場合、この人にはこう説明しようとか、この人には泣きつこうとかね(笑)。
MZ:なるほど。島袋さんはいかがでしょう?
島袋:なかなか難しいですね。ポータブルスキルって、環境が変わっても自分は何者かを表すような、ハッシュタグみたいなものですよね。僕にとっては、一体どんなものなんだろう。
富永:しまちゃんのハッシュタグは、経験して学ぶ「アクションラーニング」なのでは? マーケターにはあまりいないタイプでユニークだと思う。多くのマーケターは、まず誰と勝負するか考え、次にポジショニングを決めて、その次に戦略を練って、最後にアクションプランに落としていきます。マーケティングの王道で、これを極めていくのも、もちろんすごいことです。
でもしまちゃんのやり方は違っていて。興味のある「点」を見つけて、それを広げながら事業に貢献し、自らのポジションを確立していますよね。自分の興味と仕事をうまくクロスオーバーさせている。ヤプリさんでのウェビナー運営も、そんなふうに見えていました。あとは、表によく出ているとも思います。自分やチームのマーケティングが上手です。
島袋:表に出たのは、それが会社としてもチームとしても必要だと思ったからですね。特にリテール企業にいたときは、メーカーと比べると存在感が薄かったから、「リテールのマーケターもがんばってるぞ!」と伝えたかったんです。その時々に応じたハッシュタグを見つけられるところが、僕のハッシュタグ、ポータブルスキルなのかもしれません。