エンタメは感動の押し売り。365日中、362日は音楽に向き合う
高橋:以前、音楽を志す方へのアドバイスで、「365日中、362日は音楽の仕事をしなさい」とおっしゃっていたのを聞いて、すごくストイックな方だと思ったのですが、全体の幸せの最大値を探したり、感動の再現性を意識したりして曲作りをされるところからも、ストイックさを感じます。

高橋飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイル株式会社を創業。
ナイルにて、累計1,500社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月10,000円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
杉山:僕たちの仕事は、感動の押し売りなんですよ。たとえば、ゴミ収集の方がいるから街中がゴミだらけにならずに済んでいるし、医療従事者の方がいるから安心して暮らせている。そのようなありがたい仕事がある中で僕たちがやっているのは、「ニューシングルを出しました。感動するから聴いてください」と言って課金していただく仕事なんです。
だからこそ、根っこの部分は相当アツくないといけないと思うんですよね。しかも、競争率が高い世界で成功して音楽で食べていくためには、1年の内362日やるくらい打ち込む必要があるのかなって。
徹底した分析で勝ち筋を見つける
高橋:その姿勢が結果に結び付いていると思います。曲作りでは案件について徹底的に分析されるとのことでしたが、売れている曲の市場調査を行ったりもされますか?
杉山:場合によりますが、ヒットの理由は多岐にわたるので、どのように作られた曲なのか、なぜ人気なのかといった分析を踏まえた上で優れていると感じた曲は解析しますね。あとは、ブームになっているジャンルについても、マーケットやそのジャンルのルーツやしきたり、音の構成などを徹底的にリサーチします。これは、そのジャンルのアーティストに楽曲を提供する際にも絶対に外せない分析ですね。
高橋:分析で流れをくめば、アーティスト自身の魅力をより引き出せるし、そのジャンルを好む新たなファンを取り込むことにもつながりますね。逆に分析から、これまでにない方向性でヒットの道筋を見いだすこともあるのでしょうか?
杉山:もちろんありますよ。乃木坂46の「君の名は希望」がまさにそうでした。乃木坂46には、4曲目となる「制服のマネキン」を提供させていただいたのですが、それまでに出していた3曲とも毛色が違ったので、まだ彼女たちの色が確立していないのかなって感じたんです。それで「君の名は希望」を作って、自ら提案させていただきました。
当時、アイドルと言えばAKB48やももいろクローバーZで、元気で盛り上がる曲がアイドル曲の定番でした。でも、乃木坂46はAKB48の正式ライバルとしてデビューしていたし、容姿もきれいな子が多くて清楚なイメージがあったので、同じアイドル曲で勝負するより、AKB48やももクロがやらないような曲のほうがいいと思ったんです。
それで、乃木坂46が持つ雰囲気に合わせて、バンドサウンドにクラシカルな要素を入れて「君の名は希望」が生まれました。この曲が決まったとき、メンバーにもやっと自分たちの色ができたって言ってもらえたし、2年後の紅白歌合戦も、その年のシングルではなく「君の名は希望」で出場しているんです。
この曲で、他のアイドルとは違うアイドルグループ、乃木坂46が確立できたのかな、と思います。
マーケあり!ポイント
・杉山さんは、AKB48やももいろクローバーZの元気で盛り上がる曲がアイドル曲の定番であった中で、既存のアイドルグループがやらないような楽曲「君の名は希望」を乃木坂46に提案。「君の名は希望」は乃木坂46の代表曲としてグループのポジションを確立しました。
・「普遍的な人の感性」にフォーカスして良い曲を作るだけではなく、アイドル曲の市場を分析し他のアイドルグループが持つ楽曲の方向性や乃木坂46の現状を踏まえた上で、1曲の力で乃木坂46の色を確立させた杉山さんの考え方は、極めて戦略的。こうした戦略思考にも、狙ってヒットを生み出し続けられる理由があるのではないでしょうか。