消費者の「既成概念」に着目してインサイトを探し出す
インサイトを見つけ出すには様々な手法やステップがありますが、基本的には、消費者の行動と言動を「観察」することから始まります。直接のインタビューでも、SNSでの言動でも、店頭での購買行動でも何でも良いので、まずは、消費者を何度も観察します。
ここで最も大切なことは、消費者の観察を通じて、「何がニーズなのか」ではなく、「何が既成概念なのか」を見つけることです。繰り返しになりますが、インサイトとは、消費者の中で言語化されておらず、顕在化されていないニーズです。なので、いくら観察を続けてもインサイトが消費者の言動から直接、表現されることはありません。一方、顕在化しているニーズを基にした、消費者の既成概念というものはたくさん出てきます。
たとえば、ヘアケアのインタビューで、「私の髪は、人より細いから、乾燥しやすく、ツヤが出ない。二つの悩みがある髪質なんです」という発言があるとします。この言葉を率直に捉え、ベネフィットを設計していくと、“髪が細い人向けの乾燥をケアしながらツヤを与える”、というどこにでもある一般的なプロダクトになります。しかしこの発言をよく見ていくと、消費者の中にいくつかの既成概念があることがわかります。
一つは、「自分の髪が細いことが、髪悩みを発生させている」と考えていることです。事実として、髪が細いことが髪悩みを招くことはもちろんありますが、一概にそうとは言えません。この消費者の髪悩みを発生させている要因は、他に存在する可能性もあります。他にも、「乾燥とツヤの二つの悩みがある」という発言ですが、実はそれぞれ異なる悩みではなく、乾燥しているが故にツヤがない場合もあります。そうするとこれは二つの悩みではなく、一つの悩みに集約する可能性があるのです。
なぜ既成概念がインサイト発掘に使えるのか?
消費者の発言の背景には、一定の根拠や情報元があります。それはインターネットの記事かもしれませんし、美容師からのアドバイスかもしれません。これらの情報はどれも“顕在化されたニーズ”を基に、様々な人や媒体が発信してきたことが元になっています。つまり消費者が話す内容というのは、一般的な情報を基に構築された知識なので、そこから“顕在化されていないニーズ”が出てくるはずはなく、むしろ既成概念によって凝り固まっている可能性すらあるのです。
だからこそ、これらの既成概念を逆手に取り、その背景を探っていくことがヒントなります。マーケターは「この消費者はなぜ、細い毛は髪悩みを引き起こすと思っているんだろう?」とか「乾燥した髪とツヤのない髪って、この消費者からするとどう違うのだろう?」という視点を持って観察を続けると、面白いインサイトが見えてくる可能性が高まります。
ここまで、抽象的な話が中心になってしまいましたが、具体例を挙げながらさらに説明を続けます。例として、男性用の新しいスキンケア製品を開発する際のインサイトについて考えていきたいと思います。