I-neの強さの理由は「インハウスのマーケティング組織」
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回は、戦略的な人材育成とマーケティング組織の強化について、I-neの伊藤さんと同社を支援するグロースXの津下本さんにお話しを伺います。まずは、I-neのマーケティングについて教えて下さい。
伊藤:I-neは、「BOTANIST(ボタニスト)」を代表ブランドとするビューティテックカンパニーです。創業当時からインハウスのマーケティングを重視し、Idea、Plan、Test、On-line/Off-line、Salesの頭文字を取った独自のフレームワーク「IPTOS(イプトス)」を用いたスピーディな意思決定を行うマーケティング施策を強みとしています。
また、弊社は事業部制を敷いており、ブランドごとにECや営業、企画、リサーチなどの各部署を横串でまとめたチームで動いています。それぞれの部署の担当者が積極的に議論しながらビジネスを進めていく文化が根付いているので、チャレンジしやすい環境がありますね。たとえば、サブスクリプションで展開しているBOTANISTのプレミアムラインは、新卒3年目の社員がプロジェクトリーダーを務めています。
MZ:ヘアケアからメイクアップ商品まで幅広いブランドが次々と登場する背景には、そのような体制があるのですね。その上で、I-neのデジタルマーケティング組織を強化しようと考えた背景を教えて下さい。
伊藤:お話したような特性もあり、I-neには「自分でブランドを立ち上げたい」という思いを持った社員が多くいます。しかしながら、明確に体系化されたキャリアパスがなく、組織内には「自分はこの業務をずっと担当するのだろうか……?」など、キャリアに関する停滞感が少なからずありました。
I-neが定義する「ダイレクトマーケター」とは
MZ:目の前の業務に一生懸命取り組みつつも、先が見えない不安があったんですね。
伊藤:はい。そこで、今後の事業成長を最終的なゴールに、スキルアップをしたいというメンバーの気持ちにも応えられるようなキャリアパスを作りたいと思い、ECの収益化を最大化するマーケターをダイレクトマーケターと定義し、その育成プログラムを設計しました。
MZ:ダイレクトマーケターには、どのようなスキルが求められるのでしょうか。
伊藤:ダイレクトマーケターには、ブランドの起案からKPI設計、流通、リピート率の読みなど幅広い領域を見る、D2Cブランドの経営者レベルのスキルが求められます。ですので、一つひとつのスキルを定義し、ダイレクトマーケターに求められるスキルを体系化するとなると、とても難しいのです。そこで、グロースXの津下本さんにご相談しました。
マーケターのスキルを可視化する「スキルトラッカー」
MZ:伊藤さんのお話にあった課題を解決するために、現在I-neで導入・運用されているのが、「グロースX マーケティングスキルトラッカーβ版(以下、スキルトラッカー)」です。これは、どのようなサービスなのでしょうか?
津下本:スキルトラッカーは、マーケターのスキルを測定して可視化し、スキルアップの指標として活用いただくほか、人材配置の意思決定支援までをワンストップで提供するソリューションです。マーケターに必要な重要スキル50以上を定義し、経験と知識の2軸を用いた独自のロジックで数値化しています。
MZ:経験だけでなく、知識も加味してスコアリングするんですね。
津下本:はい。マーケティングはチームプレーなので共通言語があり、そして、チームメイトが取り組んでいる施策を理解できることも重要です。たとえば、Instagram運用の経験があれば、TikTok運用の経験がなくても目指すゴールはイメージできますし、本質的なところでのサポートもできますよね。ですので、知識があることも評価しています。
MZ:マーケターのスキルは、企業ごとに求められる内容もレベルも異なります。スキルトラッカーは、どのような業種に向いていますか。
津下本:業種や業態は問いません。私たちが定義したベーシックなスキルをベースに、クライアントの業種や業務内容に合わせたアセスメントスキルのカスタマイズが可能です。実際に、現在導入を進めている4社はすべて業種も業態も異なります。導入時のヒアリングで目指すマーケティングのゴールをうかがい、定義するスキルをご提案しています。
人材のポテンシャルを十分に活かし切れているか?
MZ:I-neでは、スキルトラッカーをどのようにカスタマイズされたのでしょうか?
伊藤:まずは、D2Cブランドを立ち上げる上で必要だと思うスキルを30項目ほど作りました。それから、スキルトラッカーのベーシックなスキルとすり合わせ、「ダイレクトマーケターに必要なスキルは何か?」と、津下本さんと議論していきました。
津下本:たとえば、重要スキルの中に「ECモールビジネスの理解」という項目があるのですが、I-neさんは国内トップレベルのモール運用をされています。ですので、「このスキルは配点を高くしてみてはいかがでしょう?」とご提案しました。また、事業計画書の作り方やP/Lの読み方などもスキル項目に入れています。
MZ:上流から下流まで、幅広いスキルが網羅されているのですね。
津下本:そうですね。もともとスキルトラッカーは、「マーケターのスキルを可視化したい」というご要望を受けて開発に着手したものですが、その背景には社内でタレントマネジメントが充分にできていないという課題もありました。特に中途採用が多い組織では、マーケターの潜在的なポテンシャルが活かされずに機会損失が起きているケースも少なくありません。そこで、スキルトラッカーには、マーケター個人のスキルやキャリア設計に合った仕事のアサイン、組織全体のパフォーマンスを高める人材配置に参考となる要素も盛り込んでいます。
成長意欲のある社員は、キャリアの頭打ち・マンネリ化を嫌う
MZ:現在I-neでは、スキルトラッカーをどのように運用されていますか?
伊藤:まず、アセスメントをチームメンバー20人に受けてもらい、スコアのステージ分けを行いました。その後、主にマネジメント層が、このスコアとステージを参考にチームメンバーの状況を把握し、1on1などで利用しています。
具体的には、どのスキル項目を伸ばしていくか、そのためにどのようなアクションをしていくかなど、上長とチームメンバーで現在地と目標のすり合わせをしています。次の1on1の前に再度アセスメントを行い、スコアの差分を見ながら、各人の成長を追っていく形です。
MZ:スキルトラッカーに対する、社内の反響はいかがですか。
伊藤:毎月「ダイレクトマーケター育成プログラムに関するアンケート」を行っているのですが、ポジティブな声が多いですね。導入からテスト運用まで含めて半年ほど経ちましたが、現場からは「自分が身につけるべきスキルや、理解できていない領域が明確になった」「視野が広がり、視座が上がった」という声もあります。
MZ:マネジメント層からは、どのような声がありますか?
伊藤:マネージャー層も、メンバーとの1on1を進めやすくなったと喜んでいます。メンバーそれぞれの目標や伸ばしたいスキル、悩みなどが一目でわかるようになり、フィードバックのイメージも沸きやすいそうです。
MZ:そのほかに、現時点ですでに実感できている変化はあるでしょうか?
伊藤:各メンバーの中で「次にやること」「学ぶこと」への意識が強くなっていることを感じています。「ファイナンスの勉強会をやりたい」といった声が現場から上がってくるほどです。また、新卒で入社した若手メンバーが経営陣に事業計画を提出しており、いくつかブランド起案も通っていますね。
津下本:スキルトラッカーの理想的な活用方法ですね。成長意欲の高い方ほど、職場で自分がどのくらい成長できるか? を重視します。ですので、自分のキャリアが頭打ちになってきた、仕事がマンネリ化してきたと感じると、転職に躊躇がありません。それを踏まえると、自分のキャリアの未来像が描けるI-neさんの環境は魅力的です。
伊藤:ありがとうございます。I-neも300人規模の組織に成長し、自分でブランドを立ち上げたい人だけでなく、今の業務のスペシャリストになりたいと考える人もいるので、個人の考えを尊重し、いろいろなキャリアパスを設計しています。
やはりグロースXさんは、ダイレクトマーケターやECの業務領域を深く理解されている分、一般的な人材開発コンサルでは深掘りの難しい話も相談しやすいです。マーケターの育成やマーケティング組織作りの仕組み化が、理想的に進められていると思います。
「ダイレクトマーケティングを学ぶならI-ne」の第一想起を取っていきたい
MZ:終わりに、今後の展望をお話しください。
伊藤:さらなるスケール化を実現していくためには、事業アイデアを任せられるダイレクトマーケターの存在が欠かせません。今取り組んでいる育成プログラムをよりよく運用し、次のリーダーを育てることによって会社の成長に繋げたいです。
それと平行して、チームのメンバーには、AIの発展により今の自分たちの仕事は簡易化されていく可能性があること、だからこそ学び続けて自分たちの市場価値を高めていかなければならないことなどを話しています。市場価値の話は、転職リスクになるのでは? とも考えられますが、「I-neで働く今が自分のキャリアにとって最も大事な時間だ」と認識してほしいのです。
最終的には、マーケターの間で「ダイレクトマーケティングを学ぶならI-ne」という第一想起を取っていきたいですね。I-neのダイレクトマーケターは、次のステージでも活躍している、と言われるような実績を作れるように、本気でマーケターの育成に取り組んでいきます。
津下本:デジタル化が進んでいますが、その先にある本丸はカスタマーエクスペリエンスの最適化です。様々なツールを駆使しても、人が社会に価値を提供する役目を担うことには変わりありません。変化が激しい時代でも、人の可能性を広げ、持つ能力をアシストし、ビジネスをリードする人を増やすことがグロースXのミッションです。個々人のスキルや経験、仕事への姿勢などが適正に評価されて活躍できる場や、ビジネスが成長するサイクル、環境を作っていきたいです。