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第106号(2024年10月号)
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ヒットの裏にマーケあり

奇抜な食パン屋、ヒットの秘密は徹底した現場の観察

 数々のヒット作の裏側には、どのようなマーケティングが潜んでいるのか――。デジタルマーケティングのコンサルティングでこれまで1,500社を超える企業を支援してきたナイル。その代表で起業家の高橋飛翔が、各界の著名人と対談を行い、ヒットの裏に隠されたマーケティングを深掘りしていく連載企画。ゲストはベーカリープロデューサーの岸本拓也さん。前半では、高級食パンブームを生み出した秘策について伺いました。後半では、実店舗の展開における戦略や個性的な店名に隠された思い、食パンブームの今後についてお聞きします。

 本記事は前半もございます。先に前半をご覧になりたい方は、リンクよりご確認ください。

立地はママチャリでのフィールドワークと勘で見極める

高橋:1つの町に1つの店舗を意識していらっしゃるとのことですが、市場調査などはどのように行っているのでしょうか?

岸本:ママチャリで現地を回っています。人口や市政なども調べますが、やっぱり最後は勘なので。都市部みたいにレンタサイクルがあるところはいいのですが、地方の場合は車にママチャリを積んで向かわないといけないし、坂が多いところだときついしで、結構大変です(笑)。

高橋:ママチャリなんですね(笑)。私もマーケターとして何社か顧客を持たせていただいているので、現地に赴く大切さはわかります。事業を考えるとき、結局は自分がコミットして入っていかないと、勝ち筋は見えないですよね。

岸本:自分でコミットすることは大切ですね。特にパンは生活に同化しているものなので、物件調査も必ず自分でやって、生活に同化していてコストバランスの合う場所を探します。

高橋:パン屋さんですと、どういったところが良い物件となるんでしょうか?

岸本:立地はかなり重視しますね。たとえば、パン屋さんを訪れる9割以上は女性です。そのため、交差点の角や片側3車線の交通量が多い道路に面したところなど、車が止めにくい場所は避けています。あとは、同じ坪数でも間口が広いほうを選ぶようにしています。

 他にも、その地域には年齢層が幅広く分布しているか、分譲と賃貸のどちらが多いのか、といったあたりも、ママチャリで走りながら見ています。

 とはいえ、日照権、立地、形状の全部が二重丸という物件はまずないので、どういう風に店を作っていくかが腕の見せどころになると思っています。

常識外れの店名を付ける理由

高橋:たとえば、幹線道路に面した店舗は小売店向きと言われていますが、不動産屋がおすすめする物件が必ずしも良いとは限らないんですね。どこを妥協してどこで勝負していくかを見極めるためにも、やはりフィールドワークは重要ですよね。

 ただ、地方って大型ショッピングモール社会で、新規出店で成功させるのは難しいと言われています。そのあたりはどう感じていらっしゃいますか?

岸本:確かに、地方は県が違っても決まった光景がほとんどです。そんなショッピングモール社会で私たちができることは微々たるものですが、お客様を楽しませる創意工夫で、その地域はもちろん、他県からもわざわざ人が来るくらい、おかげさまで繁盛しています。

 これはサービスや業種にもよるとは思いますが、やり方次第でまだまだ地方でも勝負はできます。たとえば、さびれた商店街にパン屋さんを作ることで人の流れが生まれ、刺激を受けた方たちがカフェなどをオープンさせてうるおいが戻ってくる。このように地方でフラッグシップを作ることによって、相乗効果で地方活性化ができることが嬉しいんですよね。実際に、釧路の「あの人はナルシスト」は地域のランドマークになって、良い循環が起きています。ですから、地方の店舗こそコストを多くかけていますね。

釧路にあるベーカリー「あの人はナルシスト」
釧路にあるベーカリー「あの人はナルシスト」

高橋:店名や内装が個性的なのも、何もない場所に人の流れや経済圏を作るための戦略だったりするのでしょうか? 「考えた人すごいわ」など、聞いただけでは何の店かわからず逆に気になる気がします。

岸本:店名にも看板にもパン屋っぽさがないから、近所の方もオープンまで何屋かわからないんですよ(笑)。それでも、美味しければ人づてにパン屋として認知されていくので、まずは目立つことが大事。だから、店名にはあえて「パン」のフレーズを入れないようにしています。

高橋:マーケティング業界では、その商品が消費者に与えるメリットは何かがわかるようにネーミングすべきとよく言われるので、岸本さんのネーミングはマーケティング界の常識から逸脱しているんですよね。でも、それが逆に良い効果を生んでいる点が、とても興味深いです。

ここにマーケあり!

・多くの企業において、事業規模が大きくなるにつれて経営者が現場を見なくなり、顧客ニーズがわからなくなっていきます。これに対し、岸本さんは出店エリアの探索を自ら行うなど顧客調査や物件選び、店作りへのコミットメントを欠かしません。こうした徹底した現場主義が、事業の継続的なブラッシュアップと新たな事業アイデアの発見に寄与しているのだと思います。

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この記事の著者

高橋 飛翔(タカハシ ヒショウ)

 1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。

 ナイルにて、累計1,500社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足し「ナイルのマーケティング相談室」「ナイルのコンテンツ相談室」などを運営。2018年より新規事業として月10,000円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/02/25 07:00 https://markezine.jp/article/detail/38398

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