動画制作やAIツール開発で協業
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずはお二人の業務やミッションを伺えますか。
磯野:私はアルファアーキテクトのプロダクトマネージャーとして、動画マーケティングの企画制作から配信、分析までをワンストップで提供するサービス「VeleT」と、AI事業のプロダクトを担当しています。
鈴木:私はフラッグシップオーケストラのマーケティングの責任者としてビジネスデベロップメントとプロダクト開発を担っています。また、昨年末まで弊社の動画広告のクリエイティブを量産するサービス「ムビラボアド」の事業責任者として立ち上げを担当しました。また、アルファアーキテクトさんのAIツールと弊社のシステムをつなぐプロダクトのフロント役も担っています。
MZ:今回の協業の背景も簡単にお伺いできますか。
磯野:元々フラッグシップオーケストラさんには、「VeleT」事業で動画制作の依頼をしてきました。弊社は特にアウトストリーム広告に強みを持ち、フラッグシップオーケストラさんはYouTubeの中で流れるようなインストリーム広告がお得意なので、これまでも両社のシナジーを発揮してきました。
また、弊社がリリース予定のAIサービスの一つに、動画クリエイティブの改善や企画に活かせる「Adaup(アダップ)」というものがあります。その開発の過程でご利用いただいたり、データをご共有していただいたりしています。
クリエイティブ改善でCPAを3分の1まで削減
MZ:フラッグシップオーケストラさんは動画クリエイティブの量産に強みを持っていらっしゃいます。動画広告のクリエイティブの制作・改善には何が大切だとお考えですか?
鈴木:「ムビラボアド」では動画マーケティング用のクリエイティブを数多く制作しています。
動画のクリエイティブにおいて非常に重視しているものは幅と深さです。幅とはクリエイティブの表現方法で、深さとは数値的なデータです。表現方法は数多く存在しますが、商品やサービス、ターゲットなどによって適した表現は広告ごとに異なります。様々な表現方法を用いて広告を出稿し、どれだけのトラクションが取れるか見ていくことでクリエイティブの良し悪しがわかり、広告効果の改善ができます。
たとえばクリエイティブAとBにおいて、AはCPAが高い一方でインプレッション単価が安いとします。この場合は、冒頭の目を引くクリエイティブはそのままで、内容をしっかり理解させるクリエイティブ変更することで視聴者に納得感を持っていただき、効果改善を行うことを提案できます。またBは、CPAは安いけれどインプレッションが少ないとします。この場合は、同じような訴求を別ターゲット、別属性の人たちに向けて配信することでインプレッション数を増やせると考えられます。
MZ:テレビCMなどマス向けに作ったクリエイティブをWebに流用するケースもありますが、動画広告の量産はその逆というイメージですね。どう使い分けるといいのでしょう?
鈴木:目的によりますね。ブランド認知や好印象を持たせるための動画と、獲得効果を求めてユーザーの根源的な欲求に訴える動画、また、商品の価値を理解してもらい購入や申し込みに進んでもらうための動画では、有効なクリエイティブはまったく違います。
たとえば、テレビCMのクリエイティブをWebでも展開していた企業が、動画広告の目的に合わせてクリエイティブを制作し改善を繰り返した結果、3~6ヵ月後には当初の3分の1程度のCPAで獲得が進められるようになったケースもあります。獲得や購入といった行動を促す動画広告の場合は、表現方法によって本当に結果が変わってきます。クリエイティブの幅をどれだけ広げて試せるかが重要ですね。
一方で、動画は映画やテレビから始まっているので、動画は「高い・時間がかかる・効果がわからない」といったことがまだ通念として残っています。動画を作る時は、全身全霊、全力で取り組まないといけないと思っている方もまだまだいらっしゃいます。しかし、動画も以前より安価に、様々なパターンのクリエイティブを作れるので、広告主様にはぜひチャレンジしてもらえればと思っています。
定量×定性でクリエイティブのPDCAを回す
MZ:アルファアーキテクトさんも動画広告の制作から配信までワンストップで実現可能なソリューション「VeleT」を提供されていますね。御社は動画クリエイティブについて、どうお考えですか?
磯野:弊社では、「実際にそのクリエイティブが受け手にどう伝わったのか」を定量と定性の2軸で分析してPDCAを回しています。いわゆるCPA軸、視聴率やCPC、視聴完了はもちろん、ビュースルーCVやサーチリフトをメインに、動画を見た人がその後どういう行動を起こしたかを定量化しています。
定性面ではアンケートやインサイト調査、動画視聴後の態度変容調査など数値には出にくいユーザーのリアクションを可視化して、クリエイティブの良し悪しの判断をしています。その繰り返しですね。クリエイティブが少し違うだけで評価にかなりの差が出てきます。クリエイティブの要素を可能な限り分解して、各動画のポジティブな部分を組み合わせたらどうなるかなども考えています。
インサイトからクリエイティブを改善した例では、美容系の脱毛エステの広告について「女性が脱毛したいシチュエーション」を調査しました。すると、「恋人ができそうだからお手入れしなきゃ」というインサイトが見えてきました。脱毛やエステなどの広告はキラキラしたきれいな女性で訴求するクリエイティブが多いのですが、趣向を変えて男性とデートをする前のシチュエーションなど、少しユニークでエッジの効いたクリエイティブを用意したところ、良い結果が出ました。
このように、良かった点はしっかり踏襲した上で、それまでの配信実績の数値を見て、次のアプローチを提案し、しっかり最適なクリエイティブ動画の制作をする。この一連の流れを繰り返すのが弊社のPDCAですね。
この取り組みをさらに細分化してPDCAを回されるのがフラッグシップオーケストラさんの強みだと思っています。普通はそこまで量産するのは難しいですから。そこで弊社の場合は、様々なマーケティング調査ができるツールやAIツールのようなソリューションによって大きな方向性やシフトチェンジを提案して、クリエイティブの制作や調整をフラッグシップオーケストラさんに依頼しています。パターン化するのが得意な企業様と組んで質と量の両軸でしっかりとクリエイティブのPDCAを回すことが一番の理想ですね。
MZ:クリエイティブのPDCAについて、クリエイティブは良くてもパフォーマンスが落ちているというケースもあると思います。そこはいかがお考えですか?
磯野:そうですね。デジタル広告の性質として、時期によって1インプレッションあたりの価値が大きく変動します。仮にクリエイティブパワーが上がっても、その時期に競合他社の出稿が多くなると1広告の1インプレッションあたりの買付単価が倍に跳ね上がることもあります。結果として、「クリエイティブはいいかもしれないけどパフォーマンスは落ちている」というケースはあり得ます。ですからクリエイティブのPDCAで重要なことは定点観測だと思います。デジタル広告の特性も鑑みて、初月のみの評価ではなく少なくとも2~3ヵ月はレートなども含めて追っていく必要があると思います。
「動画の何秒目にどんな要素があると効果的か」がわかる強さ
MZ:動画広告のクリエイティブは様々なパターンを試し、定点観測することが非常に大事だとわかりました。その中で、アルファアーキテクトさんの「Adaup」はクリエイティブ改善にどう関わってくるのでしょうか。
磯野:先ほど申し上げたとおり、弊社では定性と定量の2軸で分析してPDCAを回しています。定量的な領域においては、個々の企業のクリエイティブ評価だけでなく、近しい業種同士でもクリエイティブの比較や評価が気軽にできないかと考えました。広告主様からすると、成果が出ているクリエイティブの良いところが欲しいわけですから。
また、「VeleT」で、蓄積した広告配信側のアクチュアルデータをうまく活用したいと思っていました。データ資産を使って動画をロジカルに分析し、市場でヒットしている動画や、好評な動画のクリエイティブと比較して評価を可視化できるツールがあれば良いのではないかと考えました。そこで開発したAIソリューションの機能の内の一つが動画広告の制作PDCAを支援するツール「Adaup」です。要素の分析比較と、配信後のクリエイティブ効果の予測がツールとしての主な機能です。
動画は静止画バナーよりも構成要素が多く複雑です。パラパラ漫画をイメージしていただくとわかるかと思いますが、動画広告の15秒や30秒といった尺の中に、人物やロゴ、キャッチコピーやテキストなどの構成要素が大量に含まれています。その構成要素を自動的にAIで解析して、データベースに蓄積されたパフォーマンスの良い動画の要素同士を比較分析します。これにより、広告配信のKPIにおいて、各構成要素がどれぐらい重要なのかを把握できるのです。また、実際にそのクリエイティブを動画広告配信した際のインプレッションやCPCなどのパフォーマンス予想が可能です。
MZ:「Adaup」を使うと、どういったことが実現できるのでしょうか。
磯野:広告主様が最終的に気になるのは、その動画広告のパフォーマンスです。ですが、広告を作って配信してみなければ結果はわかりません。AIツールを使うことで、制作予定の動画の構成要素が他社と比較して不足がないか、もしくは過剰すぎないかなどがわかります。また、決まった尺の中でどこにどの構成要素を出せば効果的かといった企画構成のヒントも提示できます。
離脱率の改善をロジカルに提案
鈴木:現在の動画制作現場の課題は、動画の企画や構成、分析のクオリティが広告やクリエイティブのプランナーの能力に委ねられている点です。属人性が高いのです。動画に深い知見を持つ、動画広告クリエイティブの専門家を増やさなければ事業もスケールできません。
一方でアルファアーキテクトさんのAIツールを使用すると、たとえば「動画の6~10秒で急に離脱率が高くなるのは、アニメーションから実写に切り替わっているからだ」「過去のデータから見ると、アニメーションを続けたほうがよさそうだ」など、詳細な原因と改善案を教えてくれるのです。
広告動画は効果の高低や、その原因をデータとしてどんどんAIに蓄積していけます。将来的には、お客様に出すアウトプットが担当者によって変わることなく、平準化できる可能性もあると思います。
MZ:AIに必要な構成要素を割り出してもらうことで、プランナーは「では、どんなアニメーションで訴求するといいか」といった具体的なクリエイティブを考えられるわけですね。分析はどのように行われているのでしょうか?
磯野:分析の仕方としては、企業を業種カテゴリーに分け、その大カテゴリーにおいてベンチマークとしている同業種または近しい業種の特に良い結果が出ているクリエイティブとタグ要素で比較します。要素の出現数(秒単位)×出現範囲(サイズ)×出現時間(何回)などでポイントを振り分け、ターゲット企業と類似したKPIを設定しているクリエイティブとの差異を見るのです。
たとえばクライアントの動画広告と比較対象のクリエイティブを比べた時に、最もギャップが大きかった点が「人物」だとします。さらに比較を進めるとクライアントの動画は「女性」要素がかなり少ないことがわかりました。この結果から、数字的根拠を持った上で「次回は実写で女性をメインキャストにしましょう」といった提案ができます。
テストケースでは、次の動画で女性をメインキャストにした結果、KPIが全体的に前回に比べて向上しました。その企業様には「ここまで具体的なロジックに立ったクリエイティブの提案は受けたことがない」とおっしゃっていただきました。
鈴木: ロジカルな点は営業面でも意義深いですね。「これから動画マーケティングをやってみようか」というお客様に対して、過去のデータや実績を活かして、想定されているクリエイティブの効果見込みをお伝えできます。ロジックがあるので広告主様の判断基準となり、納得感をもって取り組んでいただけますし、企画の軌道修正も可能です。動画広告を出稿してみないと効果が見えないという不安が解消でき、最初の一歩が踏み出しやすくなります。
今後はCRM領域にも拡充を
MZ:今後、このAIツールを活用して、動画マーケティングにおいてどのような価値を提供していかれるご予定でしょうか。
磯野:Adaupは、広告主様が直接ツールを使用される場合と、フラッグシップオーケストラさんのようなベンダーサイドの企業様が活用される場合を想定しています。どちらのケースでも定量的な根拠を可視化し、判断材料のロジックを強化できると思っています。お客様のクリエイティブ企画が進行しやすくなったり、ベンダーサイドの提案がしやすくなったりするでしょう。仮説をもって制作に入れる点でバリューを出せると思います。
MZ:競合他社によるAdaupの活用も予想されますが、フラッグシップオーケストラさんは動画制作でどのような価値を出していかれたいですか。
鈴木:我々の強みは、やはり量産です。低コストで大量の広告動画を制作できる面にプラスして、Adaupによって、広告出稿のPDCAの中で一定のクオリティを担保しつつもテストの本数自体を減らせています。効率化によって得た時間で年齢層、性別、年収、地域などの属性に合わせてクリエイティブを変えることも可能となりました。クリエイティブの幅と深さに配信対象という変数も加えることで、一層バリューを出していけると思っています。
磯野:弊社は配信もしていますので、広告主様にとって最適なパフォーマンスのメディア配分、メディアアロケーションの部分でのAI機能もリリース予定です。また、オーディエンスターゲティングとして、購買行動のデータを蓄積することで、実際の購買客はどのセグメントなのか、お客様のCRM領域にも取り組める新しい機能を提供していければと思います。ソリューションの提供によって、動画広告のクリエイティブ改善を様々な角度からご支援していきたいですね。