消費者行動の変化を正確なデータで捉える
キャッシュレスの推進で、より豊かな社会を実現することを使命に事業を展開している三井住友カード。同社の会員数、加盟店数、トランザクション(販売・購入)数は年々増加し、2021年には会員数1,300万人、加盟店数150万店、月間トランザクション数5億件に達している。
分析できるキャッシュレスデータの量が増えると、消費者理解の解像度も高まっていく。たとえば、新型コロナウイルスが拡大した2020年2月以降の動向を「オンライン」「遊ぶ・学ぶ」「旅・移動」「生活・健康美容」「住」「食」「衣」の7つの欲求区分で分類し、分析した結果、下図・一番上の緑色で示したオンラインが急激に増加し、水色で示した旅・移動が大きく減少していることがわかる。
同社の荒木氏はこの結果を次のように考察する。
「キャッシュレスデータの分析から、高齢者を中心に従来は実店舗で買い物をしていた層のオンラインへのチャネルシフトが起こっていることがわかりました。またコロナ以降、モノからサービス・体験への消費の多様化、サスティナブルが支持される近年の背景もあり、所有から利用への価値観の転換などが起こっています。このように消費行動を正確なデータで捉え、戦い方を再考する必要があると私たちは考えています」(荒木氏)
キャッシュレスデータで自社外の顧客を分析・把握
キャッシュレスのトランザクションデータ活用には、3つの特長がある。1つは、自社顧客のデータ分析だけでは把握しきれない、ターゲット層全体の消費者行動がわかること。2つ目は、競合の利用や購入金額・日時など消費を詳細に把握できること。そして3つ目は、Web閲覧実績やアンケートの回答による興味・関心データではなく、実購買データであるということだ。
同社の会員属性データについては性、年代、居住地のほか、年収、家族構成、職業、勤務地、ファイナンスなどカード会社ならではの属性が把握できる。また同社では加盟店を60種類の業種にカテゴライズし、消費者行動を業種別に可視化している。さらに業種をより詳細にカテゴライズすることで、モノ軸での可視化も可能だという。
同社は、このようなキャッシュレスデータを用いたサービス「Custella(カステラ)」を提供。“カスタマーを照らす”という想いから名づけられた同サービスは、業界最大級のキャッシュレスデータを活用することで、今まで見えてこなかった顧客の購買行動全体を把握することができる。
「自社の顧客把握はできても、それ以外の顧客については把握できないという課題を持つ企業は多いです。Custellaで顧客を詳細に可視化することで、企業のマーケティングを支援していきます」(荒木氏)
Custellaでは、以下の4つのサービスを展開している。以下、4つの概要と事例を順に説明していく。
豊富なデータを活かした4サービスを紹介
1.Custella Trend(無償)
世の中の消費トレンドを業種別、性・年代別、エリア別などで可視化したレポートを、登録したメールアドレスに毎月無料で配信するサービス。43業種の消費動向について直近3ヵ月のコンディションや買いまわりの多い業種など、マーケティング課題を解決していく気づきを得られる内容だ。申し込みページより、登録・利用が可能。
2.Custella Insight(無償)
加盟店向けの無料サービス。顧客の属性やインバウンド顧客の購買動向、業界平均との比較、性年代別の売上の月次推移や店舗別の利用者の年収の構成比など、さまざまな切り口での分析をダッシュボードで提供。
3.Custella Analytics
クライアントが抱えるマーケティング課題やニーズを直接ヒアリングし、三井住友カードのビジネスプランナーやデータアナリストがオリジナルの分析設計から調査分析、打ち手の提案まで行う。
事例1:Custella Analyticsで自社のファンを詳細分析
荒木氏は、まずCustella Analyticsの活用事例を紹介した。自社顧客のファン層を詳細に把握したいというクライアントからの依頼を受け、顧客をコアファン、ライトファン、一般層の3つにセグメント化。これまで見えていなかったそれぞれの特性を可視化した事例だ。
キャッシュレスデータの分析から、コアファン層は男性が7割、20~30代が6割、年収500万~700万円の層が多く、有職者という属性データを把握できた。また、業種別の利用金額を見ると、服飾小物や美容・理容室、百貨店の利用金額が高いということがわかった。
さらにコアファン層の購買データを見ていくと、航空券やホテル利用などが他のファン層と比べて非常に高く、百貨店や服飾小物、貴金属、宝飾品、時計など、自己投資に関わる利用金額が非常に高いということもわかる。
これらの分析を踏まえて年間利用金額とコアファン期間を軸にした4象限で分類し、マトリクスごとにペルソナ像を可視化。例えば、利用金額が高くコアファン期間が長い顧客のペルソナ像は、20~30代の独身男女、年収600万~700万。外出機会が減る中でもバーやナイトクラブを利用したりファッションにこだわりを見せたり、幅広い娯楽や趣味にお金を使う。また、病院や税金、保険サービスなどの支出も増えていることがわかった。
「クライアントからは、『ここまで詳細な分析ができるのか』と非常に高く評価していただけました。この分析結果を基に、今後の戦略方針を策定されるとのことです」(荒木氏)
4.Custella Promotion
企業の商材に合わせて、決済情報や属性情報からニーズのあるカード会員をターゲティングし、DMプロモーションを行うサービス。
事例2:送客とともに深い分析が可能なCustella Promotion
続いて、Custella Promotionを活用した事例を紹介。新規顧客獲得へ向けてプロモーションを実施したいというクライアントの要望を受け、AIによるターゲティングDMを実施し、効果の最大化と反応者の可視化を提案したものだ。Custella Promotionでは、属性データや購買データからターゲティングする「セグメントDM」とAIによるターゲティングの2種類が行える。
この事例では、クライアントが三井住友カードで購買実績のある自社会員の購買データを有していたため、それを“正解データ”としてAIによるターゲティングでDMを実施。非常に親和性の高い顧客像を抽出し、アプローチにつなげた。
キャッシュレスデータをAIによる予測の手がかりとすることで、予測範囲が大きく広がる。たとえばキャッシュレスデータから、顧客が就職や転職、結婚、子供進学、引っ越しなどのライフイベントを予測できる。さらに、引っ越しを機に在宅勤務やカーライフ、ペットライフといったライフスタイルの予測や、車の購入や保険加入、あるいはペット購入や家具購入といった商品・サービスまで予測することができる。
なお、同社のAIによるターゲティングには「アンサンブル学習」と「決定木分析」の2種類がある。前者は分析力や効果が高いものの、特徴が端的でターゲット像の具体化は難しい。一方後者は、ターゲット像の具体化が得意であるものの、精度に関してはアンサンブル学習より劣る。こうしたメリット・デメリットを踏まえた上で、クライアントのニーズに合わせて、提案している。
また、Custella Promotionは効果検証レポートの評価も高いという。
「Web広告やDM、送客サービスなどを実施した際、インプレッションやクリック率、コンバージョン率などの数字結果の共有だけで、考察がないため改善アクションにつなげるのが難しいという企業も少なくありません。これに対し、Custella Promotionの効果検証レポートは、購入者の属性、クリック者の利用業種などの分析結果から得られた考察と、ネクストアクション案まで作成しています」(荒木氏)
先の事例においても、実際に配信したコンテンツへの属性は、高齢の既婚者で子どもありの男性が多いということが見えてきた。さらにコンテンツへのクリック者を業種別に見ていくと、衣食住には必要以上にお金をかけず、そのぶん趣味にお金をかける中高年の男性というペルソナ像を導くことができた。
「比較的高年齢層の男性の関心を得られたというファクトから、さらなるプロモーションの効率化を目指して、セグメンテーションの精緻化やクリエイティブの改善、プロモーション方法の改善まで、具体的なアクション案を提言しています。このように、送客サービスでありながら、深い分析ができることが、Custella Promotionの最大の魅力です」(荒木氏)
データと配信面の拡充で、さらに強力なサービスに進化中
最後に荒木氏は、Custellaの今後の展望について2点言及した。1つはデータ量の拡充だ。
「今後は意識データや検索データ 、SNSデータ、位置データ、 POSデータ、クチコミデータなどさまざまなデータを連携することにより、データの解像度の向上と、消費データのフルファネル化を目指していきます。既にネットリサーチ会社であるマクロミルとの取り組みを介し、意識データの取得が可能となっています」(荒木氏)
2つ目は、配信面の拡充だ。現在送客サービスはメールと紙媒体で行っているが、同社が提供するVpassアプリや公式LINEアカウントへの配信拡大も目指している。
「会員様個々に合ったタッチポイントで適切な情報を伝えることで、会員様と弊社、さらには加盟店様のエンゲージメントを高めていくことを目指しています。自社の顧客データだけを分析していればマーケティングがこと足りるという時代は既に終わっています。しっかりと自社顧客以外のターゲット層も把握することによって、新たなマーケティング活動が実施できるのではないかと考えています」(荒木氏)