人間らしいデジタルマーケティングを事例で学ぶ
前回は「人間らしさ」の構成要素や成果について、調査結果を用いて定量的に示しました。実体が掴みにくく、実務に取り入れにくい側面があった「人間らしさ」を、ある程度具体化することができたのではないかと思います。今回はその解像度をさらに高めていただくために、人間らしいデジタルマーケティングを展開している有名な事例を紹介します。
取り上げるのは、皆さんご存知のバーガーキングが米国で展開したキャンペーン「Whopper Detour(ワッパー・デツアー)」です。本施策は大きなビジネスインパクトを生み、カンヌライオンズ賞を3冠受賞。施策には、筆者が所属するBrazeのテクノロジーが採用されています。
ワッパーとはバーガーキングのハンバーガーのことで、Detour(デツアー)は「寄り道」という日本語が近いでしょう。アプリをインストールしているユーザーが、ライバルであるマクドナルドの店舗から600フィート(約200メートル)以内に近づいたら、バーガーキングのワッパーを1セント(約1円)で食べることができるクーポンを提供するよ、というキャンペーンです。
発想の大胆さ、コンセプトの派手さが注目されがちな本施策ですが、実は緻密な「人間らしさ」の要素が成功を後押ししています。ここからは、その具体的な内容を紐解いてみましょう。
ワッパー・デツアーの成功は「数」だけではない
そもそも、本施策はどれほどの成果があったのでしょうか? まずは数の視点からまずお伝えします。以下が公表値です。
・新規のユーザー獲得数:320万人
・モバイルからの売上:3倍にアップ
・月間のユーザー数:53%アップ
ずいぶんと新規ユーザーを獲得できたのが見て取れるかと思います。これから確認していきますが、筆者はこの数字の実現には、「人間らしさ」の要素が大きく貢献していると考えています。
一方でこのキャンペーンは、ユーザーの「数」だけではなく、「質」にも目を向ける価値があります。その「質」について最初に少し説明します。
まず、このキャンペーンは認知向上やユーザー獲得だけを目的としていません。キャンペーンに参加したユーザーに、今後さらなるコミュニケーションが実現できる基盤を整えることを目指していました。そのためにはユーザーが自身のスマホで「アプリからの通知の受け取り」を「オン」に設定する必要があります。
また、バーガーキングは本施策を通じ、通知のみならず、ユーザーに端末の地理情報(ロケーション)の共有まで「オン」にしてもらうことを目指していました。なぜなら、ロケーションがオンになっているユーザーに対しては、今後そのユーザーが特定のエリアに近づいたタイミングでメッセージを届けることが可能となるからです。実際にバーガーキングは本施策を通して、ロケーション共有を「オン」にしたユーザーを2.5倍に増加させました。
前回紹介した「人間らしい」コミュニケーションの調査結果では「自分の好みのチャネルでコミュニケーションを取って欲しい」という人々の要望が明らかになっていましたが、皆さんのビジネスにおいて、プッシュ通知やロケーション共有をオンにしているユーザーはどのくらいいますか。さらにはSMSやLINEでの通知まで許可をしているユーザーはどのくらいでしょうか。バーガーキングはこのキャンペーンを通して、多くのユーザーにチャネルを横断したコミュニケーションが実現できる基盤を整えたわけです。
「質」の高いユーザーと表現したのは、このようなマルチチャネルでのメッセージを受け入れ、様々な発動タイミングの受け入れ準備ができている状態のユーザーのことを示しています。質の高いユーザーが多いほど、企業は的確な人間らしい柔軟なコミュニケーションが行えます。反対に、たとえばメールの受信だけを許可しており、そのメールを開封しない顧客のリストをどれだけ蓄積しても、価値の高いコミュニケーションは実現できません。
では、バーガーキングはどのようにして、これほど質の高いユーザーを獲得することができたのでしょうか? ワッパー・デツアーの仕掛けをさらに深掘りしていきましょう。