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生活者データバンク

マーケターに求められる「データ倫理」

 本記事では、令和2年個人情報保護法の改正の施行によってマーケターに求められる「データ倫理」について解説する。

※本記事は、2022年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』76号に掲載したものです。

 マーケティングに携わる方々は、この4月に施行された令和2年個人情報保護法の改正に向けて、自身の業務が関連する事項を中心に準備を進めてこられたと思う。

 法令遵守に努めることは必須のことではあるものの、そこだけに終始していると、データ利活用がもたらすプライバシー侵害や差別的なプロファイリングといった“ネガティブな影響”に対する対策が疎かになり、結果として致命的な問題を引き起こしかねない、という点を認識する必要がある。

 本稿では、企業のあり方として真に求められる「データ倫理」という視点を、具体的なツールを交えてご紹介していきたい。

令和2年個人情報保護法改正の背景

 平成27年改正個人情報保護法から社会情勢などの変化を踏まえて3年ごとの見直しが求められることになり、今回が初めての見直し改正となった。改正内容については本記事の本題ではないため割愛するが、重要な点として今回の改正法では「本人の権利保護の強化」が進められ、特に多くの企業に影響があると考えられるものとして「不適切な利用の禁止」が新たに定められた。

 今回の改正に関する背景の一つとして、人材採用サービスにおける内定辞退率問題があり、このサービスを提供していた企業に勧告・指導した個人情報保護委員会は、同社が個人情報保護法の趣旨を潜脱していた(法の網を潜り違法とならない方法をあえて選んでいた)ことがこの事件の大きな問題点であると指摘した。

 個人情報として取得し第三者に提供する場合には、利用目的を説明した上で本人の同意を得る必要があるが、この際の目的であった「あなたの内定辞退率を算出し、あなたがエントリーした企業に提供する」ことを提示して、果たして学生からの同意を得られたのだろうか。多くの学生は拒否をするはずであり、利用目的が不適切であったことは否めない。

 この問題については、今回の改正法で定める「不適切な利用」には当てはまらない。しかしながら、個人情報の利用において利用目的が適切か不適切かを考えることの重要性を再認識させる法改正となった。

法改正への対応とデータ倫理・ELSI

 法改正に対応するため、多くの企業ではコンプライアンスの強化が推し進められている。ただ、日本ではコンプライアンスが「法令遵守」の意味合いで使用されることが多く、法律以外の社内規定や社会規範、倫理規範などに対応する言葉とはなっていない。その中で、法律以外の観点も配慮する言葉として注目されているのが「データ倫理」だ。

 「データ倫理」とは、データの収集・利用・共有などのデータの取り扱いにおける規範で、「直接的もしくは間接的に人々や社会に対して“ネガティブな影響”を与える可能性がある場合に意識するべきこと」とされている。このデータ倫理の必要性を考えるために、近年では「ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)」という概念が注目されている。

 ELSIとは元々は医療分野で出てきた概念だが、データビジネスの進展にともなって他の分野においてもその考え方が応用できるとして、主に大学と企業との間で共同研究が進んできた。たとえば、2020年には大阪大学、2021年には中央大学がELSIセンターを設立した。大阪大学ELSIセンターは、LBMA Japanによる「位置情報等の『デバイスロケーションデータ』利活用に関するガイドライン」の策定への関与や、最近では学習データを利活用するEdTechにおける論点にも取り組んでいる。

 特に日本においてはELSIの重要性が説かれており、その理由を欧米との相違点として示したのが図表1だ。

図表1 ELSIの視点でみた欧米と日本の相違(タップで画像拡大)
図表1 ELSIの視点でみた欧米と日本の相違(タップで画像拡大)

 欧米(フランスや米国など)では、市民団体における議論が活発に行われており、各国における人権などの権利を確保するために「何が問題なのか」「企業がどのように対応するべきなのか」がボトムアップで上がってくる。それをもとに共通の倫理観が醸成され、企業における自主規制ルールの策定や法案に向けた政策提言などが行われるため、大きな倫理的問題が社会問題に発展する前に立法で規制される。

 一方日本は欧米と比較すると、市民団体におけるIT分野での議論が少なく、データ利活用における倫理観を育てる土壌が十分にできているとは言えないのが現状だ。そのため、法令遵守さえしていれば問題はないと考える企業が少なからず存在してしまう。その結果、ユーザーに届いた後に倫理的な問題が表出して社会問題にまで発展し、新しい法規制の必要性が議論され、規制強化につながってしまう。

 どちらのあり方が望ましいかは自明であるが、日本において倫理観をどのように醸成できるのか、そして企業がどのように倫理観を汲み取り業界団体や自社の原則としていくことができるのか、その議論は始まったばかりだ。

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この記事の著者

伊藤 直之(イトウ ナオユキ)

株式会社インテージ 事業開発本部 先端技術部 エバンジェリスト

2008年、インテージに入社。 クライアント企業の社内外データ利活用基盤構築やマーケティングリサーチ、デジタルマーケティング領域での新規事業開発に従事した後、現在は主に個人起点のパーソナルデータ流通領域における啓蒙・啓発活動や、「情報銀行・PDS」...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/04/27 07:30 https://markezine.jp/article/detail/38848

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