デジタルマーケティングの転換点はどこにある?
今回紹介する書籍は、『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』(太田出版)。著者は、博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所上席研究員である森永真弓氏です。
森永氏は通信会社を経て博報堂に入社し、現職。コンテンツやコミュニケーションのデジタル活用を構想・構築する他、テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っています。
企業だけでなく生活者も含めた様々な欲望は、互いに交錯することで、広告業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)につながってきました。今やデジタルでデータを取得・分析・活用してマーケティング全体を統合していくデジタルマーケティングは企業にとって欠かせないものの1つになっています。
今後のマーケティングには、マスの強みやデジタルの強みなど、様々な強みを取り入れていくことが必要となってきます。新聞広告やテレビCMを主戦場に発展したマスマーケティングなど、他の強みと掛け合わせていくにはどのようにしたらいいのでしょうか?
森永氏は「まず歴史を知ることが重要」と語っています。さらに同氏は、「流行のテクノロジーや当時の社会情勢も一緒に振り返ることで、その強みと課題、今後の変化のベクトルが明らかになるでしょう」と続けました。
本記事では「欲望」をキーワードにデジタルマーケティングの転換点の一部を紹介します。
インターネット広告はどのように生まれたのか?
インターネットは1969年に米国で誕生しましたが、社会的に認知されるようになったのは、1995年頃でした。実際1995年には「その年の最も流行した言葉を選ぶ、新語・流行語大賞で『インターネット』がトップ10入りを果たすなど世間的に注目されていた」と森永氏は解説しました。また、インターネットの世界を大きく前進させたのは「Windows 95」の存在だと続けました。
インターネットを大きく後押ししたのはWindows 95の発売です。(中略)Windows 95搭載パソコンは、はじめからインターネットに接続できる機能を搭載しており、大ヒットした結果、世界中で一気にインターネットの利用人口が増えました。日本でもこの頃からインターネットのユーザーが一気に増えていきます。
また1998年には、ディスプレイ一体型デスクトップ機でボンダイブルーの色が特徴的な、Appleの初代iMacが登場したことにより、グレー色で事務的というパソコンのイメージが刷新されました。
加えて、接続が簡単なUSB端子の採用によって、パソコン業界全体のUSB端子の導入が加速。機械に弱いユーザーでも周辺機器などが扱いやすくなりました。また価格もよりリーズナブルになったうえ、専門知識がなくてもWebページが作れるようになりました。森永氏は「これにより今まで興味がなかった層にまでインターネットが広まった」と解説しました。
では、インターネット広告はどのように誕生したのでしょうか? 森永氏は次のように説明しました。
こうして始まったインターネットの世界ですが、「ここに人が集まっているのだから、広告枠を作って広告費を取れば、ビジネスになり収入が得られる。そうすれば自分たちのインターネット環境を維持・向上できるのでは?」と考える人が出てきました。
そのように登場したのが「バナー広告」です。
世界で初めて掲載したバナー広告として知られているのは、テックカルチャー・メディア『Wired(ワイアード)』のデジタル版だった「Hot Wired(ホットワイアード)」で1994年に掲載された広告です。通信会社のAT&Tなどが出稿していました。また、日本でも1996年に「Yahoo! Japan」がサービスを開始し、バナー広告の取り扱いがスタートしました。
このバナー広告の登場に関する欲望について、森永氏は以下のように同書で述べています。
人が集まるところには、必ずそこを広告メディアとして使いたいというニーズが出てきます。インターネットユーザーの増加にともなって、インターネット広告メディアが生まれる土壌ができていたのです。
スマートフォンの主流化
日本のスマートフォン元年は、2008年のiPhoneの上陸と言われていますが「ビジネスやマーケティングにその影響がはっきりと現れてくるのは、2013年頃」だったと森永氏は説明しました。この頃になると、スマートフォンの大画面化が進み、日常的にYouTubeや映画などの動画コンテンツを楽しむユーザーが増えていました。
スマートフォンは2008年当時、普及に10年以上かかると想定されていました。しかし、東日本大震災でインフラが寸断される中、情報を届け続けたTwitterやFacebookなどのSNSと、既読機能・無料通話・スタンプで手軽にコミュニケーションが取れるLINEのおかげでスマートフォンの普及が「かなり早く進行した」と森永氏は言います。続けて、スマートフォンは購買行動を変えた象徴として、次のように解説しました。
スマートフォンは、生活の購買行動も大きく変化させることになります。その特徴を象徴的に表した言葉が、2011年にGoogleで提唱されたZMOT(ジーモット:Zero Moment of Truth)という理論です。ZMOTは、2004年にP&Gが提唱したFMOT(エフモット:First Moment of Truth)理論に基づいています。
FMOTは「店頭で陳列棚を見て、その商品を買うか買わないかを決める瞬間」のことを指します。つまり、パッケージやディスプレイなどのインストアマーケティングにお金をかけるべきだという考え方です。GoogleのZMOTの提唱に、スマートフォンがデジタルマーケティングの主流となる兆しがあったと続けました。
それに対しZMOTは、「生活者は、来店前にインターネットで調べて、すでに買うものを決めている」という考え方です。インターネットが“当たり前”になったことで、多くの生活者は購入したいものをインターネットで調べ、さらにその商品をECか実店舗か、どこで購入するのかを決めるのが普通になりました。だからこそ、「インターネット接続時間」を狙うデジタルマーケティングが大切だと提唱したのです。
本書ではデジタルマーケティングの歴史が、事例や当時の状況などを交えた解説とともに理解でき、近年のインフルエンサーマーケティングやマスなどと連動したデジタル活用の流れを俯瞰で見ることができます。また、図やフレームワークが収録されています。今までマーケティングに携わってきた方はもちろん、最近マーケティングに携わり始めた初心者の方にもお薦めの書籍です(「はじめに」のあとにある年表も必見です!)。
同書を通して、デジタルマーケティングの流れを見直し、実務のヒントを探ってみてはいかがでしょうか。