パーソナライズをニッチなものにはしたくない
磯山:Spartyさんはマーケティングに力を入れているように見えますが、これまでどのようなマーケティングを展開してきたんですか?
深山:最初のうちはPRのみで勝負しようとしていました。しかし、イベントや店舗出店をしてしばらく盛り上がっても、すぐに落ち着いてしまうんですね。それで、資金調達のタイミングで広告にも力を入れることにしました。
磯山:最初はどのような広告を?
深山:LPに髪質や肌質の診断コンテンツからコンバージョンにつなげる仕組みを置き、そこに広告で誘導しました。
磯山:2020年からはテレビCMの出稿も始めましたね。今年1月からの新しいクリエイティブもとてもインパクトがありました。
深山:パーソナライズを特定の人だけが使うニッチなものにはしたくなかったので、クリエイティブには「パーソナライズを民主化していくんだ」という世の中への宣言をメッセージとして込めました。ポジティブな反響が数多く集まっています。
磯山:パーソナライズに対する認知はここ2、3年で大きく広まった感覚があります。wevnalでも接客のパーソナライズを実現するチャットフォームを提供していますし、だいぶ民主化は進んでいるのかなと。
深山:僕らの調査では、パーソナライズという用語の認知度はまだ10%強なんです。Webや広告界隈で働いている人にとっては当たり前でも、ターゲットとなる生活者の方々にとってはまだまだ一般的なワードではありません。もっと啓蒙していかなくてはいけないし、逆に言えば伸びしろがあると思っています。
磯山:テレビCMでブランド認知は獲得できたけど、パーソナライズ自体の認知にはまだ課題が残っているというところでしょうか。
深山:そうですね。ただ、言葉が知られるようになるだけではダメなんです。パーソナライズはあくまで手段。僕らが独自の価値を作り、いかに「パーソナライズっていいものだね」という認識を持ってもらうかが大事だと思っています。
アーリーアダプター以外にも届けていく
磯山:Spartyが目指すブランド体験とはどんなものでしょうか。
深山:リアルの体験をデジタル上で実現することです。たとえばHOTARU PERSONALIZEDは、信頼する美容部員さんに会いに化粧品売場へ行って商品を選ぶ体験を、デジタルで再現しようとしています。
またSpartyでは、MEDULLAを「スマホの中の美容室」、HOTARU PERSONALIZEDを「スマホの中の美容部員」、Waitlessを「スマホの中のパーソナルトレーナー」と位置付けており、美容に関するあらゆる体験をデジタル上で行えることを目指しています。
リアルで行われていた行為をデジタルの力で再現できれば、低コストで世界中の人が体験できるようになる。実現するのは大変ですけどね。
磯山:今の課題に感じているのはどのような点ですか?
深山:「商品を届ける」ことの難しさを痛感しています。お客様との接点はwevnalさんをはじめ様々なパートナーさんと一緒に作っていけるんですが、製造や物流などのバリューチェーンをアップデートしていかないと中長期で成長できないので、そこが今の大きな課題ですね。
一方で、テック領域、マーケティング領域、処方開発などは外部に委託せずすべて自社で回しているので、それが我々の競合優位性にもなっています。カートシステムも自社開発です。
磯山:他社と協力すべき部分は協力してスピーディー、コアな部分は絶対に自社でという感覚でしょうか?
深山:外注できるものはしたいんですが、やりたいことを実現できるものがないんですよね。だから自社でやる、という志向性です。
磯山:SpartyさんのサイトのUI・UXって汎用的なツールじゃ難しそうだなと思っていたんです。自前だからこそああいう表現ができるんですね。
インタビューの最後に、今後の抱負をお聞かせください。
深山:パーソナライズというコンセプトの珍しさや、D2Cが話題になったという外部環境のおかげもあり、アーリーアダプターの方々に使ってもらってブランドが成長してきました。しかし本質的にミッションを実現してブランドを広げていくには、マジョリティ層にも届けていく必要があります。そのためにはSparty自身が変わっていかないといけません。
ブランドをリリースしてから4年、ユーザー層は広がってきていると感じています。新たにブランド体験やブランドのあり方、価格帯を見直し、より多くの層に「パーソナライズっていいな」と思ってもらうのが今の目標です。

対談を終えて……
パーソナライズ×D2Cで急成長中のSpartyさんに、テレビCMの話からマーケティングや顧客への向き合い方まで、お話を伺いました。「色気のある時代を創ろう」というミッションのもと、パーソナライズという新たな体験価値を実現したことが、消費者の「わかってくれている」や「自分に合ったブランド」というブランド体験の向上につながり、若い女性を中心に支持が広がっている要因の一つであると感じました。