時間と方法をパーソナライズし受け手のストレスを減らす
美濃氏は、企業と顧客のコミュニケーションでよくあるケースとして、次のようなシチュエーションを例に挙げる。
【登場人物】
Aさん:アパレルECサイトを運営する企業のマーケティング担当者
Bさん:生活者
Aさんは、Bさんが近頃、青いワンピースの商品ページを頻繁に訪れていることをサイトへのアクセスログから掴んでいた。そこでAさんはメールとLINEを使い、毎朝9時に青いワンピースの販促情報を送り続けた。ところがBさんは朝の多忙な時間帯にしつこくアプローチが来ることに嫌気が差し、送られてきたメールは迷惑メールフォルダに移動。LINEのメッセージもブロックしてしまった。
このようなシチュエーションで、Aさんが最適なコミュニケーションを図るにはどうすればよいのか。美濃氏は上述のシチュエーションがWOW engageの活用によりどう変化するのかを説明する。
「WOW engageではAさんに『Bさんは青色よりも黒色を好む傾向がある』『Bさんが最も頻繁にメールやLINEを確認する時間帯は朝の9時ではなく夜の9時頃』『Bさんは、同じ内容の情報が何度も送られてくるのを嫌い、週に2回以上メールを送るとドロップアウトする傾向にある』と情報提供します。この情報に基づき、Aさんは黒いワンピースのおすすめ情報を夜の9時に、あえて少ない頻度で送るとしましょう。すると、Bさんの購入促進だけでなく、LTVの向上を果たすことができるのです」(美濃氏)

「消費者ファースト」が巡り巡って企業の益につながる
会見の後半では経済アナリストの森永卓郎氏と美濃氏が対談。森永氏は自身の体験から「企業から1日に何百通もメールが来るのですが、しつこく連絡されると見なくなりますね」と率直に語る。

森永氏の発言を受け、美濃氏は自社のこれまでの取り組みを自省気味に振り返る。
「当社は元々メール配信システムの提供を通じて、企業が消費者と1to1のコミュニケーションを図れるよう支援していました。企業のデータベースと連携して仮説を立てながら、全ての消費者にパーソナライズした内容のメールを高速かつ大量に配信する──この点に注力してやってきたのです。しかしながら、今後も高速かつ大量という方向性でサービスのアップデートを続ける場合、受け手の消費者が『迷惑だな』と思う世界を助長してしまうと考えました。それでは本末転倒ですよね」(美濃氏)
美濃氏の発言を受け、森永氏は企業が目指すべき方向性を消費者視点で次のように述べる。
「新幹線と一緒ですよね。何年か前までは新幹線もスピードの向上に全精力を注いでいました。今はスピードの競争をやめて、快適性を改善する方向にシフトしています。私は毎週、新幹線で名古屋に行きますが、弁当を食べてチューハイを1本飲むともう名古屋(笑)。1時間半くらいがちょうど丁度よいスピードだと思います」(森永氏)
今後、顧客体験のさらなる向上を目指して「店舗予約システムや位置情報管理システムを開発する企業との協働も視野に入れている」と美濃氏。新社名の由来である“WOW”にかけ「嬉しい驚きがあふれる世界を自分たちの技術で作りたい」と語り、会見を締めくくった。