デザイン組織で直面した3つの「難しいこと」
ブランド統合から約2年、デザイン部門が誕生して約半年が経過したが、その過程ではデザイン組織のさまざまな「難しいこと」に直面していた。
1.デザインシステム
そのひとつとしてまず荒木氏が挙げたのは「デザインシステムの導入」だ。導入の背景にあったのは、複数のプロダクトをひとつのプラットフォームに統合するとき、一定の“基準”が必要になったことだ。レビューや意思決定がそれぞれ別の尺度になってしまうと、品質も効率も向上しにくいためだ。
現在では「ほとんどのプロダクトで導入できている」とポジティブな面を語りつつ、課題もあると井出氏は語る。
「デザインのアップデートの影響範囲が広いことが課題にも影響しているでしょう。ボタンを少し直したいときに、どのプロダクトでアップデートを行うのか、といった運用体制がまだ整っていません。本来はUIコンポーネントライブラリで管理し、ひとつを更新したらライブラリのアップデートで追従できる形が理想ですが、事業部制をとっている今の体制ではすぐの実現は難しいと考えています」
品質を担保するための議論をCTOと進めているが、担当するエンジニアやデザイナーなど現場の温度感も確かめながら乗り越えていくべき課題だからこその難しさがあるのだ。
2.他職種・経営陣からの理解
「デザイン領域はほかの職種からの理解が得られづらい」という課題は、事前に参加者たちからも多く寄せられていた質問のひとつだ。荒木氏は共感しつつ、「僕らがデザインチーム以外の役割や取り組みを理解できているかのほうが明らかに大切だと思います。たくさん話すしかないですね」と相互理解を積み重ねることの重要さを強調した。
そして正攻法のひとつとして挙げたのは「一緒にやる」こと。デザイナーも他の職種も、一緒に話して実際にやってみて、上手くいった、もしくはいかなかった体験を共有することが解決の糸口になっている。
実際に「デザインレビューの場に他の職種を呼んで一緒に議論することは多い」と井出氏。最初は同氏が橋渡しになるが、プロジェクトを進めるにつれ、ほかの職種のメンバーとデザイナーの担当者間で円滑にコミュニケーションがとれるようになっていくと言う。
経営陣のデザインへの理解も、多くの組織が抱えがちな課題のひとつだろう。しかしheyでは「幸いにも、経営層がデザインを最初から重視していたこともあり、『経営層に理解してもらえない』ために奮闘した経験はない」と荒木氏。とはいえ経営層との意思疎通では、「こちらから解像度を上げた提案を準備する必要はもちろんあります」とそのマインドセットを語った。
井出氏と松本氏は「(経営陣と)デザインの話はあまりせず、ビジネスやカルチャー、ブランド戦略などデザインに留まらない大枠の話をすることが多い」と補足する。
「それらを『デザイン的視点で捉えるとこうなります』と伝えて、お互いの認識をすり合わせていく。デザイン組織や作っているものに関して直接的なフィードバックをもらうことはしていないですね」(井出氏)
3.デザイナーの採用・育成・評価
続いて挙げたのは、デザイナーの人事面の難しさについて。採用は、YOUTRUSTやWantedlyなどの媒体を通したスカウトをかなり“やり切った”と言う。その結果順調に採用が進んでいるものの、「多くがリファラルとエージェント経由であることが課題」だ。
そこで、デザイン組織のブランディングを昨年2021年から開始。きっかけは、入社したデザイナーに「そもそもheyのデザイナーが何をしているのか、さっぱりわからない」と言われたことだ。ポッドキャストとメディア運営による発信を強化した結果、「ある程度heyに興味のある方を後押しする効果はあるらしい」ということがわかってきた。ただ、オンライン上のスカウトやブランディングだけでは不十分なため、イベントで接点をもつことの重要性も荒木氏は強調した。
また、育成・評価についても課題意識が大きい。初期の頃は定性的な目標に振り返りコメントを書く形だったが、現在はより定量化すべくOKRを設定している。しかし「デザイナーの目標をどこまで定量化するか、どのように成長につなげるかは本当に難しいですし、成功事例があれば僕らも知りたいです」と今もなおトライアンドエラーを繰り返している様子ものぞかせる。
デザイナーの役割とレベルを定義した「ロールサイズ表」も制作し、各ロールにオススメのブックリストを公開するなど新たな打ち手を講じることも怠らない。これをより細かく、かつ具体的にすることが目下の課題だ。
評価は、そのメンバーと関わっているマネージャー全員で良かった点や期待することを話し合っている。現在デザイナーは25名。かなり工数がかかる方法のため、荒木氏は「さらに人数が増えた場合の方法も考えなければいけない」と課題に感じていることをのぞかせた。