heyのデザイン組織のこれから 注力したいトピックとは
最後に、heyのデザインとプロダクトの今後について3者の視点から語られた。井出氏は、注力したい取り組みとして、「コンテンツデザイン」「プロダクトマネジメントの実践」「デザインシステムの運用」の3つを挙げた。
UIやデザインシステムが整っても、そもそもコンテンツを磨き切らなければ意味がない――。そんな観点から、「コンテンツデザイン」は優先度の高い課題だとした。また、プロダクトデザイナーの理想は「ビジネスも理解したうえでデザインの意思決定ができること」だとしたうえで、事業や顧客にとっての価値創出やどのように利益を得ていくかといったプロダクトマネジメントの領域をもデザイナーが担えるような体制を目指していくという。「デザインシステムの運用」は継続して改善を行う考えだ。
続いて松本氏は、「ブランドマネジメントをいかにスケールさせるかが課題」であると話す。従来の規模ならすべてのブランドやプロダクトを中央に集めてレビューすることができたが、規模が拡大するにつれボトルネックが生まれてしまう。「いかに分散させながら質を維持するか」に焦点を当てていくという。
荒木氏は、部門としてのミッションづくりに着手していきたい考えを明かしたほか、スキル向上のためのコンテンツ・サポートの整備など、人材育成にまつわる仕組み改善に意欲を示した。
「デザイナーひとりが生産性を2倍に上げるより、チーム全体で1.2倍にしたほうが強い。全員が自分のやるべきことに集中できるよう、効率化していくためのプロジェクトを始めたところなので、この部分でももっと成果を出していきたいです」
ウェビナーの終盤には、参加者から寄せられた質問に回答。最後にその様子をお届けする。
――デザインが見た目のことだと思っている個人や組織への認知拡大はどのように行っていますか? また、上層部はクリエイティブの力が持つ会社への影響力に関心がなく、ブランディングが二の次です。この状況を皆さんならどう打破しますか?
荒木 僕らの場合はまず「事業に向かう」ことが先にあって、デザインやクリエイティブは事業にヒットさせるためのツールのひとつとして捉えています。もちろんデザイナー個々人の研鑽やこだわりはむしろ強すぎるぐらいありますが、事業とユーザーを中心に置いてどう動くかを意識していますね。事業やユーザーに対してしっかりと成果をだすことができたら自然と周りからも「任せておけば何とかなるはず」という評価が得られるかもしれません。
――リモートでのコラボレーション方法やデザイナー育成に関する工夫について教えてください。
井出 レビューというより「相談する会」の割合が多いです。僕のカレンダーの午後4~5時間ぐらいは相談枠としており、そこで各デザイナーが他職種とのミーティングを設定し、プロジェクトやデザインについて話しています。すべてのプロダクトについて、そのように共有する機会がありますね。結局、そういった場でフィードバックをすることが、育成にもいちばん効果があると思っています。
あとは、デザイナー同士でもほかの職種とも、Slackではあまりデザインの話をしないこと。そもそも「デザインの言語化は難しい」という前提に立って、同期的にコミュニケーションをするように伝えています。
――toBのSaaSプロダクトでデザイン組織の組成を検討しています。エンジニアにデザイン認識を深めてもらう方法や組織づくりの注意点はありますか?
井出 heyの例を挙げると、「STORES 予約」をつくっていたCoubicには当初デザイナーがいなかったため、会社を統合した後に私たちの組織からデザイナーをアサインし、もともと開発していたエンジニアと一緒につくり始めました。
その時はエンジニア自身もプロダクトに課題感を強く持っていたので、デザイナーはそれに対して解決策を出しつつ、UIの統一に取り組みました。プロダクトに対してエンジニアが抱えている課題を一緒に解決していきながら、デザインとしても整ったものへ改善していくというアプローチが、もっともハレーションなく進めることができるのではないでしょうか。
荒木 レフェリーとしてのプロダクトマネージャーの存在も大切だと感じています。heyも初期の頃はデザイナーとエンジニアリングマネージャー、プロダクトマネージャー三者の週次会議がありました。チーム全員で意思決定するのが難しい時は、最終的にそこで決める。最後は代表が話す場所を設けておくと、困ったときに良いかもしれないです。
――デザイナーのキャリアマップについてはどのように考えていますか?
荒木 キャリアマップや評価はかなり属人的です。向こう半年~1年のスパンで見たときに重要になるいくつかの領域があり、それを各メンバーの特性ややりたいことと接続して説明するようにしています。たとえば「このあたりが重要だし好きだと思うから、今ここを特に頑張っておくとあまり見かけないタイプのデザイナーになれるよ」みたいなイメージです。ただ説明コストは高くなる側面もあるので、今後はもう少し仕組みとして整備していかなければならないと思っています。
井出 もちろん、デザイナーは1人ひとり違います。だからこそ定型化した何かに落とし込むべきなのかどうなのかも含めて、より良い方法を考えていきたいと思います。