「送迎保育ステーション」事業化までの道
高橋:企業の場合は失敗しても溶かした資金が勉強代になることもありますが、税金だとそうはいきませんね。でも、テストを繰り返して企画の方向性を定めるといった点など、本当にスタートアップそのものですね(笑)。「送迎保育ステーション」はとても良い取り組みだと感じますが、どのような経緯で実現に至ったのでしょうか?

河尻:つくばエクスプレスが開通する際、子育て担当課が保育園を運営する社会福祉法人、ビル建設のデベロッパーなど関係各所と調整しながら生まれました。
共働き子育て世帯が転入してくるときに保育園は絶対必要ですが、自宅近くの園に空きがなく、空いているのは送迎が現実的ではない遠いエリアだと、結果として待機児童になってしまいます。
みんなが家の近くの希望する保育園に預けられることが理想ですが、すぐに実現することは難しいので、それまでの間、バスを出すことで待機児童を解消しようとなったようです。系列の園同士をバスでつないでいる保育園があり、そのナレッジを活かして実現しました。
高橋:公共サービスとしてやるべき重要な施策だと思います。月額2,000円の負担が必要だったかと思うのですが、民間ではその価格で実現するのは難しいでしょうね。税金の使われ方として異を唱える方もいると思いますが、きちんと目標を伝え、永久的ではないといった点もアピールすることで、反対意見の方の理解も得られているというのもすばらしいですね。
市外の住民誘致×市内のインナーマーケティングのハイブリッドに
高橋:住民誘致を成功させるターゲット向けの施策はどれも本当に成果を出していると感じますが、順調に人口が増え続けているのは、移住後に転出している方が少ないということでもありますよね。そのようなインナーマーケティングに力を入れるようになったきっかけはあるのでしょうか?
河尻:おかげさまで、住民アンケートで流山市に住み続けたいと答えてくださった方は91.4%でした。
ただ、マーケティング課がプロモーションを始めて5年くらいは市外に向けた住民誘致に力を入れていて、取材が来たり、人口が着実に増えたりして成功したと喜んでいたのですが、その間市内の方に対しては特に何もしていませんでした。
SNSをチェックしていたときに、「流山はプロモーションはうまいかもしれないけど、そんなにすごくないよ」といった書き込みを見つけて、ようやくインナーマーケティングの必要性に気づいて反省しました。
それを機に、市民の方たちのやりたいことを町で叶えられる仕掛けを作ってサポートしていこうと、新規の転入プロモーションをしながら既存の方々の愛着度を高める取り組みをバランス良くやっていく方向にシフトしました。
高橋:事業と同じですね。お客様に契約いただいた後も継続的にフォローアップしていかないと、一時的な消費で終わってしまったり、マイナスな印象を与えて、それが周囲に広がって事業がネガティブな方向に振れたりします。そのため、インナーマーケティングの重要度は高いと感じています。住民のやりたいことを町で叶える仕掛けというのも、やはり対話から生み出しているのですか?
河尻:はい。ただ、インナーマーケティングではファン作りとなる方向性が大切だと思ったので、町の方がやってみたいという企画をその方が中心となって進められるように、後方支援させていただくスタンスでいます。
自分のやりたいことが住んでいる町で叶えられれば、町とアイデンティティが一緒になって、好きというレベル以上になると思うので、「町=自分」になる思考を作るにはどうすればいいか、試行錯誤した末にマーケティング課はそのような立ち位置での実現となりました。