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ヒットの裏にマーケあり

既存住民の90%が「流山市に住み続けたい」と回答!「町=自分」になるインナーマーケティング

 数々のヒット作の裏側には、どのようなマーケティングが潜んでいるのか――。デジタルマーケティングのコンサルティングでこれまで1,500社を超える企業を支援してきたナイル。その代表で起業家の高橋飛翔が、各界の著名人と対談を行い、ヒットの裏に隠されたマーケティングを深掘りしていく連載企画。ゲストは15年で5万人以上の住民誘致を成功させた流山市の総合政策部 マーケティング課 課長の河尻和佳子さん。前半では、ターゲット層に刺さる施策を立てるポイントや、日本初のマーケティング課を浸透させた方法について伺いました。後半では、行政としてのマーケティングの難しさやインナーマーケティングについてお聞きします。

税金で町を動かす市のプロジェクトだからこそ、住民の理解は絶対必要

高橋 飛翔(以下、高橋):具体的なイメージや実績でマーケティングの理解を広め、町の方と意図的に接点を持って潜在的なニーズを拾うことで、ターゲット層に響く施策を立ち上げてきたとのことですが、「30代の共働き子育て世帯」という明確なターゲットに絞ることは、市として弊害などはなかったのでしょうか?

 市の職員の中には変化や仕事が増えることを良しとしない方もいるでしょうし、地域住民にしても、子供が増えることに好意的ではない方もいるなど、様々な声があって当然かなと思うんです。

河尻 和佳子さん(以下、河尻):やはり様々な意見があり、中には反対的な声もあります。ただ、町を悪くしようと思っている方はいないので、表面上は対立するような意見であっても「町を良くしたい」という根底の思いは同じなんですよ。

 登山に例えるなら、山の登り方が異なるだけなんです。ルートは違っても目指す山頂は一緒なので、視野を広げて山全体を見せるような対話を重ねることで、互いに理解を深めていけるように努めています。なかなかわかってもらえなかったり、いろいろ言われたりすることもありますが、あきらめずに粘り強く向き合っていますね。

河尻 和佳子(かわじり・わかこ)

 流山市 総合政策部 マーケティング課 課長。流山市の町をプロモーションする公募で採用され、民間企業を退職。メディアプロモーション広報官を経て課長に。前職で培ったマーケティングのノウハウと、自身も流山市の魅力に惹かれて移住してきた住民としての目線を活かしたマーケティング施策で、年間で5,000人以上の住民誘致を成功に導く。

高橋:あきらめずに説得を続けることが大事なんですね。町を動かすとなると、住民の人生をも変える巨大なプロジェクトになりますから、たくさんのアイデアが寄せられる一方で、やりたいことが簡単には実現できないというジレンマもありそうです。

河尻:そうですね。だからこそ理解が大切な反面、難しいと感じるときもあります。しかも地域コミュニティは組織と違って上下関係もなく、協力したところで賃金が出るわけでもありません。その中で町の皆さんの気持ちを動かせるのは、志しかないんですよね。

 それだけに、やめたくなるほど辛いときもあります。それでも、町の中で個々の活動や気持ちに伴走しながらサポートさせていただく中で、人が変わる瞬間に立ち会えたり、企画をきっかけに起業して成長していく過程をそばで見られたりと、大きな喜びもたくさんあるんです。

税金の重みを感じ、絶対失敗しないよう徹底的に検証 

高橋:企業では貢献すれば給与が上がる、上司・部下という関係性もあるなど人を動かす要素がありますが、金銭的なインセンティブや上下関係がない中で住民の協力を得ていくのは至難の業ですね。

 一方で、志で人を動かすというのは民間企業も似ており、志だけではダメだけど、重要な場面や他社が気を抜いてしまうような場面で、志のある組織では踏ん張りが効いたりして、それが差を生み出すこともあります。

 河尻さんは前職の民間企業でもマーケティングに携わっていたとのことですが、住民を動かすこと以外にも、民間と行政の違いを感じる場面はありますか?

河尻:財源が大切な税金という点で、事業化はより慎重になりますね。先程もお話ししたように、たくさんの方を動かすのには時間がかかりますし、予算化するのも民間よりハードルが高いです。

 そのため、予算をかけずに小さなテストを繰り返して、「行ける!」となってから事業化するなど、綿密にやる必要はあります。税金を使うので、検証を通じて「こうすればこれだけの効果が見込める」といった根拠を出した上で見合った予算の企画書を作らないと、通らないんです。それだけに、絶対に失敗できないというプレッシャーもありますね。

 たとえば、待機児童解消を目的に駅前のバスステーションで子供を預けると、バスが市内の保育園へ送迎する「送迎保育ステーション」なども、ニーズとコストを見合いながら事業化したと聞いています。

マーケあり!ポイント

・市政においては上下関係や金銭的インセンティブが薄い分、人に動いてもらうことは民間企業よりも難しいと感じました。そんな中でも、前半記事のような関係者にとってのメリットを提示するほか、目標を明確にする、撤退ラインを定めるなど、丁寧なコミュニケーションをとることで少しずつ物事は動いていきます。これは民間企業においてチーム運営で問題が発生した際にも参考にすべき行動であると感じます。

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この記事の著者

高橋 飛翔(タカハシ ヒショウ)

 1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。

 ナイルにて、累計1,500社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足し「ナイルのマーケティング相談室」「ナイルのコンテンツ相談室」などを運営。2018年より新規事業として月10,000円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/07/28 09:00 https://markezine.jp/article/detail/39494

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