今改めて「インフルエンサー」に着目すべき理由
さて、推しマーケティングを説明する上で、最も重要なのが「インフルエンシューマー」という概念。これは、インフルエンサーとコンシューマー(消費者)を掛け合わせた造語で、「情報を発信する消費者」を意味しており、私が開発した概念です。もともと、プロデューサー×コンシューマーの造語「プロシューマ―」がありますが、その発展形態として捉えていただければよいかと思います。
プロシューマ―:生産する消費者。たとえば、裁縫が得意なお母さんが作った体操服バッグを他の何かを作った別のお母さんが買う、といった学校のバザーで見られるようなコミュニティ的な生産と消費の行動。生産者と消費者が同じで、モノを作り合いながら同時に消費しあう形で、マーケティング的には、P2Pのプラットフォームビジネスや、ユーザーのアイデア参加型の商品開発、SNSマーケティングとして発展してきた。
インフルエンシューマー:プロシューマ―の発展形であり現代版。インフルエンサーとコンシューマーを掛け合わせた造語で、「情報を発信する消費者」を意味する。
「いやいや、AISASの時代から、消費とともに情報発信(シェア)はあったよ?」という声が聞こえてきそうです。あるいは、「アンバサダー」や「アドボケーター」とどう違うの? なぜ今「インフルエンシューマー」なの? と。
その答えは、少し乱暴な言い方をすると、「Z世代総インフルエンサー時代」を迎えているから。SNSネイティブなZ世代が20代を迎える中で、社会全体の情報発信者の絶対数が増加しており、消費者でありながら、情報発信者であるということが当たり前になっているからです。
ブログなどのUGCに始まり、SNSの登場によって、企業主導の情報発信は輪をかけて信頼度を下げていった。結果、「いかにユーザー主導の発信を促進するか」がひとつのマーケティング上のテーマになっていました。シェアやアンバサダーは、その中で育ったマーケティングの発想です。
同時に成熟社会を迎え、新規獲得からユーザーの囲い込みが重要になり、CRMブームの中でNPSという“推奨してくれるほどの熱狂的なファン”を作ることがリピートにつながるという理論も生まれました。
しかし、そうした概念がもてはやされていたころ、実際に口コミを書いたりコメント付きでシェアしたりする行動層は0.1%以下と言われ、有名口コミサイトも1,000~2,000人に1人の口コミで成り立っている、と実際に運営していた知人が話していたのが印象的でした。
そのため、ユーザーの情報発信にマーケティング的な力を持たせるためには、フォロワー数が多くリーチ効果は見込めるが、実際にはブランドユーザーと少し距離のある「インフルエンサー」や、有名タレントを起用する形での「アンバサダー」に着地するしかなかったのです。「バイラル」というアプローチも流行しましたが、“ネタ”が前提となってしまうため、ブランド認知やブランド好意とはどうしても遠くなってしまい、ブランドへの貢献や届かない情報拡散がほとんどで、今ではあまり用いられる手法ではなくなってしまいました。

それから数年経った現在、10~30代のInstagram利用者のうち、フォロワー数1,000人以上の人は30%を超えており、数千人以上のフォロワーを有するマイクロインフルエンサーは15%弱という調査データ(※)もあるほど。これをZ世代に絞れば、さらに高い数値になるでしょう。
目が合えば、その人はちょっとしたインフルエンサー。今、そんな状況にあるのです。
だからこそ、企業は改めて「自社のブランドユーザーの多くが、ブランドを愛しているということを発信・表現したいと思っている」と考えるべきです。自社ブランドのファンと向き合い、好きな気持ちを気持ちよく発信してもらい、繋がり合ってもらう。それが、さらなる顧客作りやファン育成に繋がる、というループを作るのです。
(※)出典:ジャストシステム実施の『SNSとCGM(消費者生成メディア)に関する実態調査』より。