本記事は『デジタル時代の実践スキル Webライティング 読者が離脱しない、共感&行動を呼ぶための最強メソッド』の「Chapter1 成果につながる記事を書くための「絶対の掟」」を抜粋したものです。
Section01 まずは記事を書く前に方向性を整理する
記事を書く前の「絶対の掟」として、まずはメディアの目的やターゲットなどの確認をしましょう。私がよくヒアリングしている内容をまとめた「メディア設計シート」をもとに、詳しく紹介します。Section03のメディアテーマの確認までは手間がかかりますが、まずは一回だけ行えば大丈夫です。非常に重要なので、ぜひとも力を入れてください。
なぜ、すぐに文章を書き始めないのか
さて、せっかくの文章本なのに、なぜ「メディア設計シート」から作り始めるのでしょうか。それは、文章にとっては手法・書き方よりも「文章の“手前”こそが命」だからです。そもそも個人であれ法人であれ、ビジネスを目的としたメディアは何らかの成果を上げるために運営されています。「記事を読んでもらえるだけでOK」のように、ボランティア精神で時間やお金をかけて記事を作っているわけではないはずです。
だからこそ、ライティング担当は「ただ記事を書く」のではなく、メディアが求める成果を把握すること、その成果にちゃんとつながる記事を書くべきだと考えます。ただ、慣れないうちはなかなか難しいもの。そこで、誰でも成果につながる記事が書きやすいように、穴埋め式のメディア設計シートや記事設計シートを用意しました。それらができあがってから記事の骨組みを作り、その後にやっと文章を書き始めます。これらのステップを1つずつ踏むのは面倒だと思うかもしれません。ですが、上から記事をざっと書いていくよりも実はよっぽど楽ですし、何より成果につながりやすいです。記事作成のイメージは、次の通りです(図1-1)。
なお、「上からすべて一貫性をもって準備をすることで、成果を出す」ことをこの本では目的としています。そのため、1つの章だけ読むような「つまみ食い」に向く本ではないこと、ご容赦ください。
それでは、まずはメディア設計シートから、詳しく紹介していきます。
メディア設計シートで方向性をつかむ
メディア設計シートといってもシンプルなもので、メディアの目的・ざっくりのターゲット・メディアテーマ・記事テーマリストの4つを整理する表のことです(図1-2)。
いきなり記事を書き始めるのではなく、最初にこのメディア設計シートから埋めていくことで、メディアの全体像や方向性を事前につかむことができます。結果、記事が書きやすくなるだけでなく、「せっかく書いた記事が、的外れで役に立たない」といった悲しい結末を避けることもできます。
上記のメディア設計シートの項目について、1つずつ説明していきます。
メディアの目的を確認する
まずは、メディアの目的から確認をしていきましょう。メディア設計シートでいうと、以下の★の部分です(図1-3)。
メディアの目的とは、「メディアを何のために作ったか」とも言い換えられます。
例えば、「GOH会計システム」を販売する「株式会社GOH会計」という会社が、会計システムの販売促進のためにメディアを作ったとします。この場合、メディアの目的は「会計システムの申込みを増やすこと」です。これが「内容」の欄に入ります。もし「会計システムの申込みを増やす」目的の部分が変わり、中途採用のためにメディアを作るとしたら、メディアに必要な記事の種類は大きく変わります。「GOH会計システムを買いたい人」と「株式会社GOH 会計に入社したい人」では、欲しい情報が全然違うからです(図1-4)。
ターゲットに適切な情報を届けるために、メディアの目的は非常に重要です。では、どのようにメディアの目的を確認すればよいでしょうか。この部分は、会社のマーケティング戦略、ひいては営業上の事業戦略に大きくかかわってきます。そのため、記事のライティング担当となったらまずメディアを作った人(例えば上司やメディアの統括をしている人)にメディアの目的を確認してみてください。
なお、メディアの目的は時期によって若干変わることもあるので、「現在の会社のマーケティング方針からすると、こういった目的なのではないかと思っています。実際のところ、今は何を目的としてメディアを運営していますか」と今の状況についてまっすぐ聞くことが重要です(図1-5)。
責任者に目的を確認するときの注意点
責任者に目的を確認するときは、必ず「自分なりの考え」を持ちましょう。「現在の会社のマーケティング方針からすると、こういった目標なのではないかと思っています。実際のところ、今は何を目標としてメディアを運営していますか」と、このマーカー部分が重要です。最初のうちは相手の考えがわかっていませんし、自分が根拠とする内容も合っていないことが多いので、見当違いになることがほとんどですが、それで問題ありません。
しかし、自分なりの根拠と考え方をぶつけるからこそ、相手は「そうではなく、別のこういった根拠から、こういう考えで進めているんだよ」と答えてくれます。そうすることで自分の間違いにも気づきやすくなるわけです。
一方で、いきなり「目的を教えて」と聞くだけでは、相手は答えを教えてくれてもその答えにいたるまでの根拠や考え方などの「答えの素」まで教えてくれるとはかぎりません。それではいつまでたっても考えを理解することは難しいままです。相手の思考の過程を理解できないと、いつまでたっても同じ認識違い・同じミスを繰り返すことになり、それでは「成長しない人」とレッテルを貼られることになりかねません。自分なりの考えを持つこと、これは仕事をする上でとても重要なので、常に意識してみてください(図1-6)。
ちなみに、私はどうしても自分なりの意図を持つことを忘れたまま上司やクライアントへの確認をしてしまいがちでした。そこで、「△△(結論)でよろしいでしょうか? 背景としては、○○(根拠)なので、□□(自分の意見)だからです」という穴埋めシートを用意してから確認をするようにしたところ、忘れることが激減したのでおすすめです。
穴埋めをしたときの例
「記事の確認スケジュールを、3日遅らせていただいてもよろしいでしょうか? 背景としては、リサーチ担当のAさんの進捗が遅れていること、そして記事の公開予定日までに5日余裕があるので、3日くらいの遅れは問題ないと考えるからです」
よくあるメディアの目的のパターン
メディアは様々な目的を達成するために使えるものです。ターゲットによって、目的は大きく変わりますし、それに付随する目標も変わります。そうなると、目的を自分なりに考えてみるにも、何もヒントがないと難しいと思います。そこで、メディアの責任者などに確認をしやすいように、よくあるメディアの目的とそれに付随する目標を、ターゲットごとにいくつかのパターンに分けて記載しました(図1-7)。この内容を参考に、メディアの責任者に目的を聞いてみてください。
まずは目的を確認するところから
メディアの目的を確認するべき理由、そして確認の仕方について紹介してきました。メディアの目的によって、どんな記事を書いていくかが今後大きく変わってきます。まずはメディアの責任者に、自分なりの考えをもって確認してみましょう(図1-8)。
Section02 ざっくりとしたターゲットの確認
メディア、そして記事を作っていくにあたって「そのメディアの記事を誰に読んでほしいか?」=「想定読者(ターゲット)」を把握します。詳細なターゲットは記事ごとに違ってくるので、まずはメディア全体に共通するざっくりとしたターゲット像を確認しましょう。
メディアのざっくりターゲットを確認する
まず考えるのは以下の★の部分です(図1-9)。
メディアの目的が決まったら、次に確認するべきは「そのメディアの記事を誰に読んでほしいか?」=「想定読者(ターゲット)」です。メディアのターゲットが定まっていないと、読んでほしいわけではない相手に向けて一生懸命記事を書いてしまうおそれがあります。
例えば、「目的:法人向けのGOH会計システムを販売すること」だとした場合、「私の父(タカシ、ギターが好き)が読むような家計簿の付け方の記事」を書いたとしたらどうでしょうか。父が法人の経理にかかわっているという背景でもなければ、いくら父のような人がたくさん記事を読んでくれても目的を達成できません(図1-10)。
この場合は「法人の経理担当者」を想定読者とするような記事があるべきです。
ただ、もし逆にメディアの目的が、「個人が使う家計簿のアプリを販売すること」だった場合、法人の経理担当者に向けた細かい会計システムの話をしても意味がありません。
ターゲットによって書く内容が変わる
「誰に読んでほしいか」によって専門用語の使い方や文章表現の仕方なども大きく変わります。例えば法人の経理担当者であれば、「キャッシュフロー」や「バランスシート」のような言葉でもスムーズに伝わる可能性が高いです。むしろ、この場合はいちいち「バランスシートについて」をすべての記事で細かく丁寧に説明していたら、法人の経理担当者にとっては冗長で読みにくい記事になってしまいかねません。
一方で、普段家計簿を使っている人にどうしても「バランスシート」と伝えたい場合は、「会社の家計簿のようなもので、詳しくは~」とかみ砕いて説明したり、適切な言い換えをしたりする必要があります(図1-11)。このように、ターゲットによって適切な伝え方は大きく変わってくるため、「ざっくり」でもターゲットを確認しておくことが重要です。
自分でターゲットを考える場合
ターゲットの考え方としておすすめしたいのは「目的からの逆算」です。「売上アップを目的とするメディア」であれば、購入する可能性がある人は読者として外せないですよね。それなら、最初から買ってくれそうな人を読者として設定すれば少なくとも間違いはないということです。
「法人向け」の会計システムを販売している会社であれば、ターゲットは「法人における会計の担当者」になります。「個人向け」の家計簿アプリを販売している会社であれば「個人」がターゲットとなります(図1-12)。困ったときは「その商品を提供している相手がそもそも誰なのか?」を考えてみてください。
理想的には、「買ってくれる可能性がある人々の中で、最も人数の多い分け方」となります。ただ、メディア運営に慣れていない段階でそれを考えるのは難しいため、まず「法人に属している人なのか(ビジネス)」「個人で使う人なのか(プライベート)」くらいの分け方から考えてみてください。なお、記事を書くときには、記事ごとにもう少し詳細なターゲットを定めるので、安心してください。
記事は「誰に読んでもらうか」で、「何を、どう伝えるか」が大きく変わります。誰に読んでもらうべきかがうまく定まらないときは、まずは少なくとも法人か個人かは決めておきましょう。この後、詳細なターゲットは設定するのでこの時点ではこれくらいでも問題ありません(図1-13)。
Section03 メディアのテーマを確認する
メディアの目的とざっくりターゲットが決まったら、次に確認するのは「どんなテーマのメディアか」です。成果を出すために、どのようにテーマを考えるべきかについて紹介します。
メディアのテーマ=全体の方針
ここで考えるのは、以下の★の部分です(図1-14)。
次に決めるのは「メディアのテーマ」です。例えば「経理の業務を楽にするための会計システム活用情報」のように、粗けずりでよいのでざっくりとした方針を作ります。
なぜメディアのテーマを確認すべきか
メディアのテーマを確認すべき理由は「メディアの目的や方針からズレた記事」ができてしまうのを防ぐためです。いきなり個別の記事テーマを考えてしまうと、アイデアばかりが先行してしまい、本来の目的とは違う記事になりがちです。そのような事態を防ぐために、テーマは事前に押さえておきましょう。
また、メディアのテーマを確認することで、記事テーマのアイデア枯渇対策にもなります。1つのメディアで100記事以上になることもある中、いきあたりばったりで記事のアイデアを考えるのは大変です。ですが、前提となる大きなテーマがあれば、それをもとに新しいアイデアを考えやすくなります(図1-15)。
なお「SEO的な観点で記事テーマを設定する」ときには、また少し別の考え方があります。SEOについてはChapter7で解説します。
自分でメディアテーマを考える場合
さて、「メディアのテーマ」はどのように考えればよいのでしょうか。悩むようなら、基本的には「売りたい商品・サービスに関連するお役立ち情報」をテーマとして設定してみましょう。なぜなら、現時点で自社の商品には興味がない(もしくは知らない)人も記事を読みにきてくれる可能性があるからです。
例えば「経理担当者のための会計お役立ち情報」であれば、GOH会計システムのことを知らない人でも、そのお役立ち情報自体を求めて読みにきてくれるかもしれません。その人が「会計を担当する経理担当」であれば、会計システムのお客様候補に十分なりえます(図1-16)。
Section04 個別記事のテーマ設定
メディアの目的・ざっくりターゲット・メディア全体のテーマまで確認できたら、ようやく個別の記事について考え始めます。ここでは、記事ごとのテーマの考え方と、成果に対して効率的かについて紹介します。ここからは、ライティング担当が記事テーマの案を出すことも多いです。
記事テーマのリストを考える
最後は以下の★の部分です(図1-17)。
メディアテーマが決まったことにより、1つひとつの記事テーマを考えやすくなります。目的が「法人向けの会計システムの申込みを増やすこと」で、メディアテーマが「法人の会計お役立ち情報」と定まれば、記事のテーマを考えるとき「少なくとも法人における会計・経理に関して役に立つ情報を出そう」と考えやすくなりますよね。記事のテーマに悩まずに目的・成果につながる記事テーマを考えられるようになるわけです。
記事テーマリストの考え方
記事テーマリストには、ターゲットが興味を持ってくれそうなテーマの候補を出していきます。ぽんぽん出てくれば問題ありませんが、悩んだとき売りたい商品の「カスタマージャーニー」をヒントに考えるのがおすすめです(図1-18)。
カスタマージャーニーとは、商品・サービスを買ってくれるお客様が「どういう流れで自社の商品を知り、比較し、購入し、そして活用しているか」を時系列に並べたものと理解してもらえればOK です。
カスタマージャーニーのそれぞれの段階で出てくる「お客様の悩みを解決してあげる」視点で考えると、次のように記事ごとのテーマが考えやすくなります。
- 会計システムでできることと効果
- 会計システムの選び方
- 導入時に気をつけること
- 効率的な運用方法
実在しないお客様や悩みを作りださない
カスタマージャーニーを考えるにあたって欠かせないのは、以下の人たちに直接話を聞くことです。
- お客様に詳しい社内の人(営業担当やカスタマーサポート担当)
- お客様本人
もしお客様と直接接点がないマーケティング担当がカスタマージャーニーを想像で作りあげたら、「実在しないお客様」や「実際はお客様が悩んでいないような課題」などをもとに記事を作ることになりかねません。そのため、お客様や営業担当などの「現場」のことを知っておくことが重要です。また、自分自身が現場の肌感覚をつかむためにも、普段から営業へ同行したり、お客様からの問い合わせに対応したりすることもおすすめしています。
「業界トレンド」や「よくある質問」も参考になる
記事のテーマを考えるときは、カスタマージャーニーの他にも「業界内でのトレンド」や「営業担当・カスタマーサポート担当がお客様からよく質問される内容」が参考になります(図1-19)。
業界内でのトレンドをつかむには、普段から業界内の他社のSNS発信やメルマガ、ウェビナーをチェックしておきましょう。
他社サイトを参考にするときは
記事テーマを増やすときに「同じような商品・サービスを提供している会社のメディアや、領域の近いサイト」を参考にする方もいますが、内容をそのまま真似するのはもちろんNGです。倫理的な問題だけではなく、他社から「あそこはやめたほうがいい」と業界内で悪い評判をたてられたり、取引先から信用を失ったりすることにもつながりかねません。参考にする場合は、記事の切り口やテーマ・どういった悩みの人に向けて書いているかなど、大きな枠の部分に留めておきましょう。