売ることはゴールではなく、ブランドとお客様との関係のスタート
磯山:FABRIC TOKYOさんと他のブランドとの違いはどんなところにありますか。
森:リアル店舗が EC での販売をサポートする場になっている点が、まず一つの特徴です。リアル店舗で採寸していただいたサイズデータをお預かりし、保存データをもとにしたオーダーメイドの洋服をECサイトでいつでも購入できるという仕組みです。ITとリアルをかけ合わせたOMO型のデータの持ち方をしているので、顧客が自身のデータをもとに購入できるスムーズなUXを実現しています。
磯山:OMOという考え方が出てきたのも最近ですね。たとえばどういうデータを持っているんですか。

森:サイズデータの他に、eコマースのログイン頻度やSNSとの連携状態、アンケートの回答状況などです。たとえば、LINE連携しているとコミュニケーション量が増えてLTVが上がりやすいとか、アンケートに回答しているとエンゲージメントが高いとか、データ分析によって傾向も見えてきますよね。
アパレル業界で消費者の一貫した購買、行動データが取得され始めたのはここ数年の動きなんです。それ以前は、どのお客様がどのタイミングでどの商材をどうリピートするのか、わからずにビジネスを行っているのが一般的でした。
磯山:POSレジで今日いくら売れたのか、どういう年齢層がどのぐらいの単価だったか、くらいしかわからなかったわけですね。
森:お客様の行動を追うことができれば、これまでは「月の売上〇〇%アップ」のような目標しか立てられなかったところに、リピート率やLTVなどの「人」を起点にしたKPIを設定できるようになります。
一人ひとりの顧客と長期的に向き合えるようになったのはD2Cの革命だと思います。売ることはゴールではなく、ブランドとお客様の関係のスタートです。SaaSと一緒ですよね。販売してからカスタマーサクセスへの道が始まるんです。
磯山:私たちは、消費者とブランドのすべてのタッチポイントで、一貫性を持ってお客様に合った心地よい体験やコミュニケーションを提供していくことをブランド体験(BX)と呼んでいますが、売ることはゴールではなく、カスタマーサクセスのように寄り添っていかないといけないというのはそのとおりですよね。
生地の産地と共同で作り上げたオリジナルブランドがヒットシリーズに
森:自分たちでもの作りを行っていることも我々の特徴の一つです。仕入れて売るのではなく、完全にFABRIC TOKYOというオリジナルブランドなんです。
工場はパートナーさんの関連工場ですが、企画はすべて自社で行っていて、全国各地の工場と一緒にもの作りをさせていただいています。だからここでしか買えない商品ばかりなんです。
磯山:OEMではないんですね。FABRIC TOKYOでしか買えないものにはどういったものがあるのでしょうか。
森:たとえば、日本人でもあまり知らないんですが、愛知県から岐阜へまたがる尾州地域はイタリアのミラノ北部やイギリスのヨークシャー地方と並ぶ世界3大ウール産地の一つなんです。そういうすごくいい産地があるのにあまり知られていないのはすごくもったいない。
私たちは産地の方々と協力しながらオリジナルラインナップを出させていただいています。工場に眠っているビンテージ生地を発掘して、お客様に販売する「WHITE FRIDAY」という取り組みもやっています。
また、尾州から西にいった岐阜県大垣市は、日本で一番地下水がきれいで「水の都」と呼ばれている街で、生地作りに最適なんです。大垣市で作るとそもそも生地の品質が上がるし、染料の発色も良くなります。弊社の人気商品である「AUTHENTIC」という生地のシリーズは、糸から生地まですべて大垣市で作っています。
磯山:産地をブランドにしちゃったってことですね。
森:それがヒット作になったことが、我々としてはすごく嬉しいんです。今までウールといえばイタリアやイギリスだったのが、日本の産地と共同開発したウール生地を選んでいただいている。開発にかけた思いやこだわりが伝わっているということだと思います。
磯山:製品そのものの素晴らしさとともに、製品の裏にあるストーリーやコンセプトへの共感がヒットにつながっているんだなと感じました。