この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.42, No.2の巻頭言を、加筆・修正したものです。
スポーツとマーケティングの深い関わり
オリンピックやプロスポーツの試合観戦で、プレーに一喜一憂した経験や、推しのチームの勝利に熱狂した経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。また、ご自身がスポーツをされ、その楽しさを実感した経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。さらに、同僚に朝の挨拶とともに「昨日の試合結果」で盛り上がる方も多いのではないかと思います。スポーツが私たちの日常に関わっていることは、多くの人が感じているでしょう。
私たちの日常を彩るスポーツは、マーケティングと深い関わりがあります。たとえば、観戦に関しては、チケットや放映権の販売、スポンサーシップ、観戦ツアーの企画・販売、スポーツチームのファン育成・グッズ販売などの活動が挙げられます。また、スポーツ参加に関しては、用品メーカーによる商品の製造・販売、企業によるフィットネスクラブ経営などの活動が挙げられます。このような活動を研究する学術領域として、スポーツマーケティングがあります。2007年には日本スポーツマネジメント学会が設立され、研究の蓄積が進んでいます。
特集号では、近年注目を集めるスポーツマーケティングを取り上げ、最新の研究動向を紹介しています。特集号を通じて、スポーツマーケティングの理解を深める機会や、消費財などのマーケティングを考えるヒントを得る機会を提供したいと考えています。以下、4つの特集論文を紹介します。
スポーツマーケティングの特異性
スポーツマーケティングは、消費財や他のサービスのマーケティングとどのような点で違いがあるのでしょうか。消費財のマーケティングを定義できる方は多いかもしれません。しかし、スポーツマーケティングは、他のマーケティングとどのような点で異なるのかを明確に説明することは難しいと思います。
大阪体育大学の藤本淳也教授の論文「スポーツマーケティングとは何か―特異性の考察―(PDF)」は、スポーツマーケティングの定義の検討に基づき、提供物であるスポーツプロダクトとスポーツ消費者に特異性があることを指摘しています。
まず、スポーツプロダクトに関する「公共性・公益性」、「競争性」、「自発性・自主性」、「時間的制約性」の4つの特異性を挙げられています。「公共性・公益性」とは、スポーツには平和や長寿など社会課題の解決に寄与する側面があることです。「競争性」とは、勝敗や観戦経験は、マーケターもコントロールできないという点です。「自発性・自主性」とは、スポーツ消費者がどの程度主体的かつ積極的にスポーツに取り組んだかにより、経験や勝敗が大きく左右されるという点です。「時間的制約性」とは、観戦者も競技者もスポーツを「見る」あるいは「する」場所が限られるため、時間が制約されるという点です。
また、藤本教授はスポーツ消費者の特異性として、態度と行動の強い関連を指摘しています。ここで態度とは、スポーツチームなどの対象への好き・嫌いなどの全体的評価のことです。態度と行動の関連の例として、スポーツチームに肯定的態度をもつ消費者は累積的な観戦回数が多いことや、チームの好不調を考慮して態度変容や観戦行動の変更を行うことなどが挙げられます。以上の考察をもとに、今後の研究の方向性についても展望を示されています。