本当のインサイトを知るために必要なこととは
ここで、本当のインサイトを知るためのアプローチについて少し触れておきたい。代表的な調査手法の一つにインタビューがある。インタビューで引き出したいのは、顧客自身も認識している顕在化した課題ではなく、顧客が自ら語らない(語れない)潜在的な課題や問題意識だ。インタビュー設計を工夫することで、新たな情報や貴重なコメントを得られれば、大きな手応えを感じるだろう。しかし、インタビューで得られる情報はあくまでも課題やニーズである。インサイトとは複数の情報や視点から、頭を働かせて類推した先に出てくるものだ。
インサイトを得るのにおすすめなのは、複数の手法を組み合わせて読み解くことである。たとえば映像・画像を使った分析、SNS分析、エスノグラフィ調査(観察調査など)といった特性の異なる手法を適宜組み合わせて解釈すると良い。
たとえば、とある小売店のインタビュー調査では「駐車場が利用しづらい」という課題が浮かび上がったが、それだけでは根本的な原因までは読み取ることができない。そこで、さらに行動観察を組み合わせてみると、「駐車場が利用しづらい」背景として、駐車場内が暗くそれが原因でスペースや動線に問題があるように感じられていたことが判明……。このように複数の調査を組み合わせれば、単一の調査では知り得なかったことが見えてくる。
また、調査結果からインサイトを発掘する際には多様なメンバーが参加するほうが良いと考える。同じ本を読んでも一人ひとり異なる感想を抱くように、同じ調査結果を見ても、人それぞれの価値観や感性を通すと解釈が変わってくる。開発部と営業部とマーケティング部でまったく違った発想が出てくる可能性もあるだろう(図表2)。

さらに、インサイトを探るフェーズと、インサイトに基づいて考えるアイディエーションのフェーズを分断しないほうが好ましい。企業によっては担当部署が分かれ、次の部署に引き継いだ後は関与しないケースが少なくないが、それではもったいない。アイディエーションで何か仮説が浮かんでからデータを読み返すと新たなインサイトが見えてくることもあれば、インサイトを考えるメンバーがアイディエーションの議論に加わることで違った視点のアイデアが生まれることもある。
インサイト発掘とアイディエーションを同時並行で動かすことで、新たな発見や気づきにつながっていく。部署が分かれている場合は、相互に良い刺激を与えるべく、コミュニケーションを密に取ることをおすすめする。