ありたき姿の自己表現の場を提供するNARS
資生堂アメリカ シニア・バイス・プレジデントのディナ・フィエロ氏は、傘下の大手化粧品ブランドNARS(ナーズ)のメタバース活用事例を紹介した。
「NARS Color Quest(ナーズ・カラー・クエスト)」では、メタバース空間上で自分のアバターが身につけられるコスメやウィッグ、ファッションを購入したり、それらを自由に組み合わせNARSの写真スタジオでモデルさながら撮影したり、SNSに投稿したりできる。リアルの拡張空間で、リアリティを持った体験と自己表現の場として機能している。

リアル/オンラインの枠を超えたメタバース空間上でのブランド体験を、どのようにユニークにできるかという事例は未知数だ。しかし、スマートフォンが世に登場したての頃のように、いまや生活者が既にそれらに触れている事実は変わらない。リアル/オンラインを拡張してブランドとしてどんな価値を提供するのかを考え続けることに意味がある。
Breakthrough(突破口)を見出すために
第1回では人間に寄り添ったエクスペリエンスの重要性について触れた。困難で複雑な時代を背景に、テクノロジーも体験も、従業員・顧客を含めて人に寄り添った体験の設計がこれからの時代に改めて重要だ。
また第2回では、人や社会に着目するサステナビリティについて、特に生活者が参加するために違和感のない体験を作ることの重要性について触れた。そして第3回となる今回は改めて顧客体験に焦点を当て、オンラインとオフラインの価値と、その拡張空間についてそれぞれどのような価値を置くかについて触れた。
最新テクノロジーを活用した便利な顧客体験はますます進化していく。生活者の選択肢が増えていくこの世界で、オンライン/オフライン問わず、そこにどのような役割や価値を置くかが重要だ。それは生活者にとって利便性の極めて高い店舗かもしれないし、あらゆる角度から体験できる店舗や、はたまた様々な切り口で偶発的な出会いができる場かもしれない。
どんな変化であれ、改めて生活者の意識に寄り添った体験の設計が重要であることは変わらない。社会情勢も日々変わり、これまで以上に変化が激しい世界の中で、インサイトを捉えるのは難しい。ただ、この状況を”Breakthrough”するためには日々、不断の努力が必要だ。NRF2023オープニングで、自らの出自ゆえの困難な状況と昨今の世界に重ねてジェームズ・キャッシュ博士が送った激励のメッセージを思い出す。
“信念があれば耐え抜くことができ、最終的にはずっと良い場所にたどり着けるからです。短期的なネガティブな話や、私たちが直面する困難に振り回されて、この世界をより良い場所にするための軌道から外れないようにしてください。”(ジェームズ・キャッシュ博士)