「スキミング・プライシング」と「Wholesale Price」
ナイキでは、商品が新しいコンセプト、デザインである場合、原則として「スキミング・プライシング(上澄み吸収価格)」を適用する。これは、ナイキのブランドイメージをフルに活用して競合よりも高い初期価格を設定する方法だ。たとえば大学駅伝で一世を風靡した厚底のランニングシューズは記憶に新しい。

ナイキの価格戦略を考察する上でもう一つ重要なのが「Wholesale Price(仕切り価格)」である。この計算は非常にシンプルであり、MSRPからナイキの取り分となる利益を差し引き、そこに卸先ごとの取り引き量などに応じたディスカウントレートを適用する。
ナイキの商品の入れ替えサイクルは春夏秋冬の3ヵ月単位だ。直営店やECをはじめ、商品発売後3ヵ月間は正規価格であるMSRPで販売する。3ヵ月を過ぎると30%オフしたセール価格で販売し、さらにその先は在庫をアウトレットに集約する。この流れを徹底しているのだ。
実際に直営店やセレクトショップ、スポーツ量販店でナイキ、アディダス、アンダーアーマーのアパレルやシューズの価格をチェックしてみると、ナイキは最も値下げの程度が小さい印象を持つ。これは価格の統制が他社よりもとれている証拠であり、高い利益率を生み出すポイントになっていると言える。
利益を上げたいなら、まずは「価格」の改善を
別の文脈からも価格の持つ力について述べたい。企業のコスト構造は一般的に「価格を1%アップすれば利益が10%以上改善する」と言われている。プライシング界隈で「1%効果」と呼ばれる考え方だ。
価格のほかにも「変動費」「販売数量」「固定費」などを改善すると、利益創出につながる。しかし、利益への影響度には差があるようだ。トヨタ自動車の2020年度、2021年度の財務諸表を基に、1%の改善効果を計算してみた結果が以下である。

価格を1%改善すると10%、変動費を1%改善すると8%、販売数量を1%改善すると2%、固定費を1%改善すると1%の利益アップにつながっている。この結果から、商品価格の改善が利益の向上に最も貢献することがおわかりいただけたと思う。
日本企業はコストダウンや販売数量の拡大に目を向けがちである。シェア拡大のために値段を下げることまでしている。しかし、最も優先すべきは価格であり、価格を改善できる余地がないかを常に考えていかなければならないのだ。まずは目の前の商品・サービスが本当に適正価格なのか否か、考えてみるのも手だろう。
次回は、利益向上につなげるためのプライシングの基本的な考え方について解説する。