ド級規模のデータを動かすエネルギーインフラ
日本からは見えにくい部分の提示として、医療を筆頭とした重いデータを扱うには「ド級のデータ量」と「ド級の処理速度」に耐え得る力=エネルギーのインフラが必要になる。これなしでは、漏洩なく安全に扱うどころか、診察や処方の精度さえも保証できない。
ド級のデータ量を例えると、患者のDNAデータはスマホやApple Watchなどから収集できる「健康管理(医師免許が不要)」のデータをはるかに超える。「命に関わるデータ」とは、それを束ねる病院ごとに「ペタバイト×万件」の単位で、毎時(毎分)積み重なってくるサイズ感だ。ちなみに、1ペタバイトは5,000億ページほどの書物、記録、過去歴に相当する。
このデータを動かすスパコン、AI、電力の「安定」確保が新たなインフラとなる。この領域に先行投資しているのがMicrosoftやAmazonであり、それを追いかけるのがTesla、さらにこのエネルギーの環(わ)には世界の石油・天然ガスメジャーが加わる。
世界のBIG3の失敗例と次のステップ
2018年、「Amazon=AWS+IT」「Berkshire Hathaway=保険」「JPMorgan Chase=金融、ローン」という世界のBIG3が手を組み、3社合弁でヘルスケア事業会社「Haven」を設立した。各社の従業員と家族(約120万人)に向けて、高品質で透明性がある医療や保険を適正なコストで提供することを目指し、まずは内輪社員からテスト始動させた形だった。が、その3年後に解散している。
解散に至った後付けの理由は山ほど挙げられる。時期尚早、120万人では(でも)保険のディスカウントパワーが足りない、米国医療の逆インセンティブ、COVID-19の発生など、おなじみの理由だ。
欧米では「成功のためのやり直し」が多く見られる。上記座組も何かが欠けていた証で、近々第2弾が登場する「予兆」として紹介した。予兆の幅は医療分野だけに限らず、「保険(金融)機能」の介在はすべてのD2C事業で起こり得る。
たとえば、日本のヘルスケア領域(医療の外側)のスタートアップは、重いデータ側の視点が抜けたまま、商品や提供サービス単体ドリブンになっていないか。スキンケア、サプリメント、歯磨き、ひげ剃り、エクササイズなどのD2Cサブスクモデルも、安定して何らかを保障(補償)するという価値は「保険」に似ているはずだ。「保険」という機能は「定額課金」であるので、サブスクと言い換えれば、機能役割も広げて考えられる。
「重いデータ側」の保険機能はソニーもTeslaも楽天にも、と気づけば身近に存在している。