マーケティングについて考えるうえでは、世代から消費者層の特徴を分析することも大切です。現代においてもっとも若い消費者層にあたる「Z世代」は、消費に対する考え方、商品やサービスを選択する動機、情報収集のプロセスなどに独自のスタイルがあります。
今回は上の世代にあたる「X世代」や「Y世代」との違いや、Z世代の基本的な消費傾向について詳しく解説します。そのうえで、Z世代に向けたマーケティング施策のポイントや事例も見ていきましょう。
Z世代とは
適切なマーケティング戦略を考えるうえでは、世代ごとに顧客層の特徴を分析していくことも大切です。ここではまず、Z世代の定義を確認したうえで、ビジネスの市場において注目される理由などを解説します。
Z世代の定義
Z世代とは、「1990年代半ば~2010年頃生まれ」の若者を指す言葉であり、2022年現在においては10代から20代前半の年齢にあたります。「デジタルネイティブ」や「ソーシャルネイティブ」と呼ばれることもあり、生まれながらにしてデジタル機器やインターネット環境に触れてきているのが大きな特徴です。
少子高齢化が続く日本においては、Z世代が人口に占める割合は約14%とされていますが、世界的に見れば人口のおよそ1/3を占める主要な消費者層でもあります。そのため、ビジネスの分野においては決して無視できない世代といえるでしょう。
Z世代が注目される理由
Z世代は将来的に消費の中心となっていく世代であるため、ビジネスの分野においても注目されています。Z世代は今後数十年、ライフステージを進めるごとに消費規模を広げていくため、マーケティングの優先度も必然的に高くなると予想されているのです。
また、それまでの世代とは消費行動や情報収集の方法が大きく異なる点も、Z世代に注目が集まる理由といえます。
Z世代は生活の大部分をスマートフォンなどのデジタルデバイスで完結させる傾向があるため、それまでのマーケティングが通用しないケースも少なくありません。既存の営業スタイルに依存している企業は、Z世代を中心とした消費者の価値観や生活様式の変化に伴って、大幅な転換が求められることになるでしょう。
さらに、SNSやその他のオンラインツールが身近にあるZ世代は、「個人の発信力が高い」傾向にあります。Z世代にサービスや商品が受け入れられると、個人の消費者が発信によって宣伝効果をもたらし、企業側としては思ってもみない形で認知が広がることも珍しくありません。
世代ごとの年齢と特徴
Z世代の特徴を掴むために、それ以外の世代とも比較しながらイメージを捉えていきましょう。
アメリカでは、1960年中盤~1980年頃に生まれた世代を「X世代」と名付けたことをきっかけに、「Y世代」「Z世代」「α世代」と、生まれた年代ごとに世代の区分けが行われるようになりました。
なお、Z世代を指す範囲は国によって異なっており、たとえばカナダでは1993年~2010年頃に生まれた世代を、アメリカでは、1997年~2012年に生まれた世代をZ世代と呼んでいます。
このように分類は国によって異なり、厳密に年代が決められているわけではありませんが、各世代にはおおまかに以下のような特徴や傾向が見られます。
生年 | 消費行動の傾向 | インターネットとの関わり | |
---|---|---|---|
X世代 | 1960年代半ば~1980年頃 | ・ステータスを表現するための消費 | ・10代後半以降にからインターネットが普及 |
Y世代 | 1980年頃~1990年代半ば | ・「モノ消費」よりも「コト消費」 | ・インターネットの普及とともに成長 |
Z世代 | 1990年代半ば~2010年代初頭 | ・「モノ消費」よりも「コト消費」 ・所有にこだわらない |
・生まれたときからインターネット環境が存在 |
α世代 | 2010年代初頭以降 | ・2030年代から社会進出 | ・幼少期からプログラミング教育が行われる |
触れてきたインターネット環境の違いによって、消費に対する考え方や価値観にも大きな違いが生まれていることがわかります。
Z世代を考える際は、「生まれたときからインターネットが普及していた」という点を特に強く意識しておく必要があるでしょう。
Z世代に見られる5つの特徴
Z世代の特徴について、ここでは5つのポイントからさらに詳しく掘り下げて見ていきましょう。
情報収集はWebが中心である
Z世代は基本的な情報リテラシーが高く、インターネットから入ってくる情報を細かく精査しながら、自在に扱うことができるといわれています。
また、価値観の多様性も大事にしているため、多くの人を対象としたマスメディアよりも、SNSなどで情報収集をする傾向が強い点も特徴といえるでしょう。
たとえば、テレビCMや新聞広告といったマスメディアは、ターゲットをある程度幅広く設定しておく必要があるため、対象人数が多い世代に向けた内容になりがちです。
一方のSNSは、リアルタイムで多様な意見を参照できるうえ、情報収集のスピードや範囲も個人の状況に応じて調節可能なため、Z世代の価値観と高い親和性を持っているといえます。
スピードや効率を重視する
デジタルデバイスを活用する生活に慣れているため、日常生活においてもスピードと効率性を重視する傾向があります。
紙文化やハンコ文化に代表されるアナログ体質には疑問を抱き、合理的でないルールを疑う人が多いため、企業においては業務の効率化に寄与する人材としても注目されています。
個人の価値観やライフワークバランスを大事にする
Z世代の価値観を示す重要なキーワードとして、「多様性」が挙げられます。性別や人種といった属性にとらわれず、他者の多様な価値観を尊重し、大切にするという考え方が当たり前になっているのです。
また、他者の多様性を重んじるとともに、周りと同じではない「自分らしさ」を大事にする傾向も強いといえます。
さらに、個人の価値観にもとづいたライフワークバランスを重視している点も特徴的です。仕事よりもプライベートを優先させるなど、自分自身の価値観にもとづいた考えを発信できることから、それまでの世代と比べると興味や関心の幅も広い傾向があります。
承認欲求が強い傾向がある
Z世代は自分らしさを大切にする一方で、SNSやWeb上でのコミュニケーションが当たり前になっていることから、他者からの評価を気にする傾向もあるといわれています。また、周囲の評価を気にするあまり、保守的になってしまう一面も見られることもあるようです。
社会的な問題に関心がある
インターネットによる情報収集が手軽に行えるようになったことで、Z世代は社会問題にも強い関心を持っているといわれています。成長の過程でリーマンショックや東日本大震災といった大きな出来事を経験していることも、価値観の形成に大きな影響を与えている要因といえるでしょう。
さらに、SNSなどを通じて自分の価値観や考えを手軽に発信することもできるため、社会問題を他人事だと思わず、身近な課題として行動に移せる人が多い点も特徴的です。
Z世代の消費行動
続いて、Z世代の消費行動の特徴についても、調査データなどをもとに詳しく見ていきましょう。
体験価値や共感を重視している
Z世代を上の世代と比較すると、「みんなと同じものを欲しがる」といった画一的な消費傾向はあまり見られません。前述のように多様な価値観が存在しているため、自分がどう感じるかを大事にしているのです。
また、特定の物質を対象とした「モノ消費」ではなく、習い事や旅行のように体験を重視した「コト消費」を大切にする傾向もあります。コト消費自体はY世代にも見られる傾向ですが、Z世代はさらに社会貢献や共感を意識した「イミ消費」に重きを置いているのです。
具体的には、SDGsやフェアトレードに着目した購買行動など、商品やサービスの奥にあるテーマにまで着眼して消費行動を決定する傾向があるといわれています。
ブランドよりもコスパが大事
ほかの世代と比べて、Z世代はハイブランドへのあこがれよりも、コストパフォーマンスや実用性を重視して商品やサービスを選ぶ傾向があります。単に知名度が高いという点よりも、「自分にとってどのような価値があるのか」を重要視するのです。
また、Z世代にはコスパとともに「時間対効果」を意味する「タイム・パフォーマンス」を重視する側面もあります。お金だけでなく、費やす時間に対してどのくらいの満足感が得られるのかについて、シビアに考える傾向もあるのです。
自分らしさを優先している
さまざまな価値観に触れていることから、多様性への理解を求める部分が多く、商品やサービスについて自分なりの向き合い方を持っている点もZ世代の特徴です。他者が特定の商品を所有していたとしても、所有するほどまで価値を感じていなければ、レンタルやサブスクリプションサービスの利用に留まる傾向が見られます。
とはいえ、倹約思考が強いというわけではなく、自分が価値を感じれば支出を惜しまないといった一面も併せ持っています。気に入った商品やサービスがあれば、リピーターになったり他者に共有したりと、消費行動に特有の柔軟性が見られる点は、Z世代の特徴といえるでしょう。
Z世代に向けたマーケティング施策
ここまで、Z世代が持つ価値観や消費行動について詳しく見てきました。ほかの世代と比べると、より多様な価値観が大事にされているため、幅広いターゲットを想定した「マス・マーケティング」では、消費行動につなげにくい面もあります。
それでは、Z世代に対してはどのようなマーケティング施策を実行すればよいのでしょうか。ここでは、特に重要となるポイントを3つに分けて解説します。
商品開発の思いやストーリーを伝える
前述のように、Z世代は消費行動そのものに「意味」を求める傾向が見られます。商品の購入であれば、「利便性が高い」「安くてお得」という点だけでなく、どのようにして製品が生まれたのか、購入することで自分や社会にどのような影響をもたらすのか、などにも目を向けようとしているのです。
このようにZ世代は、商品やサービスのバックグラウンドに共感できるかどうかで消費行動を決定するため、マーケティングにおいては、背景にあるエピソードや思いをストーリーとして伝えることが重要となります。
また、企業自体の信頼性も重視されるため、社会問題に対する考え方や地球環境との関わり方を積極的に発信することも大切です。
リアルな体験を提供していく
Z世代は単に商品を購入するだけでなく、そこから生まれる体験価値を重視する傾向があります。たとえば、購入後に商品を使っている姿をSNSに投稿したり、気に入った商品を他人と共有したりすることも大きな価値のある体験となります。
また、Z世代の購入ルートには、実店舗以外にもさまざまな選択肢があります。それだけに実店舗へ足を運ぶ際は、心地よい空間や良質な接客など、実店舗ならではの付加価値が重要となります。
そのため、マーケティング戦略を考えるうえでは、顧客にどのような体験を提供できるのか、イメージとして丁寧に伝えることが大切です。
さまざまなチャネルでアクセスできるようにする
Z世代の多くは個人で複数のSNSを利用しており、豊富な情報収集ルートから自分に合った商品やサービスをセレクトしているといわれています。
そのため、Z世代と接点を持つには、企業側も複数のチャネルを用意する必要があります。商品販売であれば、実店舗とオンラインストアのどちらにも力を入れ、リアルとオンラインを両立させることが大切です。
また、情報を発信する方法も1種類のみに限定せず、公式サイトとTwitter、Instagramのように、複数のツールを組み合わせると効果的です。特にSNSを通じたオープンなコミュニケーションは、Z世代に対して企業の信頼性を高めるきっかけにもなるでしょう。
SNSは一方的に発信するだけでなく、ユーザーの要望を募ったり、ユーザー同士が意見を交換し合ったりできる双方的なコミュニケーションの場でもあります。企業が積極的に運用していくことで、自然と消費者との距離が縮まり、Z世代に効果的に訴求できる可能性が高まるのです。
Z世代向けの事例紹介
2022年現在において、Z世代の一部はすでに社会進出をスタートしており、消費の中心を担い始めています。そんななか、すでにZ世代を意識した施策を実行して一定の成功を収めている企業も多くあります。
最後に、Z世代向けのプロモーションやマーケティング施策のモデルケースとして、3つの企業の事例を見ていきましょう。
I-ne×Natee
I-ne(アイエヌイー)は、主力商品の「BOTANIST」に代表されるヘアケア用品やメイク品、飲料などの幅広い市場で独自のブランドを築く会社です。
I-neでは、もともとのコアターゲットを20代前半~中頃に設定していましたが、実際に購入した顧客層を分析した結果、10代後半の割合が増えていることを発見しました。
そこで、Z世代を対象としたアプローチの一環として、2018年頃から盛り上がりを見せていた「TikTok」のプロモーション活用に乗り出したのです。しかし、当初は少額のテスト配信で思うような結果につながりませんでした。
そのため打開策として、TikTokに特化したマーケティング事業を担うNatee(ナティ)にプロモーションを依頼することにしました。このとき、戦略を練るうえで具体的に着目した点が、Z世代が持つ「情報をかじる」という特徴です。
「情報をかじる」とは、1コンテンツあたりの消費時間が短く、複数の情報に接触しながら核心を掴んでいく方法を指します。そこで、I-neとNateeは広告に1人の影響力を持った個人を起用するのではなく、複数のクリエイターを起用して、キャンペーン期間中に何度も異なる角度から情報に触れられる仕掛けを用いました。
また、「商品レビュー系の動画」と「製品を用いたビフォーアフター系の動画」の2種類のクリエイティブを用意し、ユーザーがコメントをしたくなる設計を心がけながら作成していきました。
その結果、Z世代を中心に製品が浸透していき、売上は通常時の約150%増となりました。
ドン・キホーテ
ドン・キホーテは、2022年5月にZ世代をターゲットとした新業態「キラキラドンキ」をお台場にオープンしました。
キラキラドンキは通常の店舗とは異なり、プチプラコスメやアジア系のお菓子など、SNS映えするものを中心に取りそろえており、オリジナルのドリンクや軽食をテイクアウトできる仕組みも有しています。
キラキラドンキではZ世代の従業員の意見を重要視し、同世代の顧客に受け入れられやすいアイデアを豊富に取り入れています。具体的には「SNSで話題のアイテムを取りそろえる」「従業員が実際に試した感想をSNSのタイムラインのような親しみやすいPOPで展開する」といったものがその例です。
そして、戦略上のもう1つの特徴としてあげられるのが「リサーチのきめ細かさ」です。話題の商品についてチェックする際には、「トレンドになった理由や背景、きっかけまでさかのぼって調べる」という点を基本姿勢にしています。
これは、商品のストーリーやバックグラウンドを大切にするZ世代の消費行動と一致した取り組みです。「流行しているから乗る」という表面的なアプローチではなく、きちんと分析をしながら向き合う点は、Z世代を対象とした商品展開のカギといえるでしょう。
無印良品
「素材の選択、工程の点検、包装の簡略化」という3つのモノづくりの視点からスタートした無印良品では、比較的早くからSDGsと一致した価値観が社内はもちろん、顧客にも根付いていました。
そんな無印良品のシンプルで良質な生活用品を取り扱うブランドの信頼性を活かし、社会課題の解決の方途として取り組まれたのが、「いつものもしも」という活動です。
これは、2011年の東日本大震災をきっかけにスタートしたものであり、日常生活で使うものをもしもの防災にも使うという啓蒙活動です。「防災」という比較的ハードルが高いイベントにもかかわらず、多くのZ世代や親世代と参加したα世代でにぎわいました。
社会課題の解決に向けたイベントに信頼性の高いブランドが間に入ることで、Z世代にも受け入れられる親しみやすさが生まれた理想的な事例といえるでしょう。
まとめ
Z世代はデジタルネイティブとも表現されるように、生まれながらにしてインターネット環境に囲まれた世代であり、情報収集や情報発信の方法に強い独自性を持っています。日本においては人口比率から見ると数が少ない世代ではありますが、今後の消費を担っていく中心世代であり、決して無視できる層ではありません。
また、個人が確かな発信力を持つ世代でもあるため、信頼を得ることで商品やサービスが大幅に展開していく可能性もあります。Z世代は上の世代と比べると、それぞれの多様な価値観を重要にする傾向が強いため、マーケティングもそれに合わせて内容やチャネルを柔軟に構築していく必要があります。
しっかりと価値観や消費の傾向を理解し、丁寧にリサーチをしながら有効なマーケティング施策を検討しましょう。