DXの全体最適を目指す、部門横断の横軸組織
――DX戦略を推進する組織としてCDOユニットが新設されたと伺いました。このCDOユニットはどのように機能していくのでしょうか?
石戸:DX戦略を策定した2021年、経営企画部が旗振り役となりDX推進委員会という組織が設けられました。私も同年の夏頃からこのDX推進委員会に社外のアドバイザーとして参画していた形です。また、DX戦略を実行する中で、データ/人材育成/AI活用など複数のテーマごとにワーキンググループも形成されていました。ワーキンググループでは社員が各々で主体的に議論しながら、多数のプロジェクトを走らせており、その中から特に重要度の高いものをDX推進委員会で取り上げていたんですね。こういった委員会やワーキンググループを正式な組織とし、社長直下に新設されたのがCDOユニット(ユニット長は石戸氏)で、ワーキンググループはDX推進グループという正式な部署となりました。
DX戦略を掲げる企業の多くは「経営陣がDXを推進しようと旗を振っても、社員に火が付かない。スイッチが入らない」という課題にぶつかります。その点、小林製薬は社員のギアの入り方が素晴らしく、DX推進の1つ目の壁はとうに乗り越えている印象です。ですので、CDOユニットでは俯瞰的な視点を持ってこれまで進めてきた個々のプロジェクトを調整したり、協調させたり、足りていないところを補ったりして、小林製薬のDXをステージアップさせることを目指しています。私の最初の役割は、それをリードしていくことです。加えて、現状社内で分散してしまっているデータやITシステムを一元化し、全社のスキルや知見を統一していくということも行っています。
――全社のハブとなるような横軸組織を設けるパターンはよくありますが、部門外の社員を巻き込み、部門横断で物事を進めていくというのは簡単ではなく、苦労している企業も多い印象です。横軸組織を上手く機能させるために大事なことは何でしょうか?
石戸:とても難しいポイントだと思います。概念的な回答になってしまいますが、私が大事だと思っているのは“人間関係”と“傾聴”です。
やはり事業部や部門ごとなど縦のラインで動くほうがスピーディに動けますし、意思決定のスピードも速くなりますよね。会社の規模が大きくなればなるほど、この傾向は強くなると思います。加えて、組織ごとに年間単位など比較的短期の目標が設定されていますから、優先順位は組織ごとに変わってきます。そうなると、組織間で話す機会が減れば、システムやルールもバラバラで、コミュニケーションが限定的な状況になってしまうこともあります。そんな中で横断組織を上手く機能させていくには、お互いがお互いの事情を傾聴し、部門間を越えた人間関係を作るというのが、初めに必要なポイントになってくると思うのです。
実際、パイオニアに入社したときも、小林製薬に入社したときも、最初は部門部署関係なく100人以上の方と1on1やミーティングを設けることから始めました。ここで傾聴するのは、その事業・組織の歴史や現在に至るまでの経緯、皆さんが持っている思いについてです。共通のシステムやデータ基盤が使われない、組織横断で動けていないといった実態の裏にどんな背景があるかを知ることから始めるとよいと思います。
