タレントではなく「メッセージ」が主役となるクリエイティブ設計
──具体的に実施した、取り組み内容について教えてください。
竹内:まずテレビCMでは、プロスケーターの羽生結弦さんの「雪肌精に男性用はありません」というメッセージでジェンダーレスを、女優の新垣結衣さんの「おすすめの年齢はありません」というメッセージでエイジレスを訴求しました。
テレビCM冒頭のモーションロゴは、お二人に「雪肌精」を一緒に読み上げていただくことで、性別、年齢に関係なく全ての方にご使用いただけるブランドであることが伝えられたと思います。
通常は、商品の効果効能をメインにした表現にすることが多いのですが、今回は、「雪肌精」のブランドメッセージそのものを主役にしました。

エグゼクティブ クリエイティブ ディレクター 竹内麻弓氏
吉岡:「雪肌精」の販売チャネルがドラッグストアと量販店がメインであるため、店頭で想起していただく必要があるのでテレビCMに軸を置きました。経営陣に見てもらった際には反響も良く、放映量をもっと増やすよう決裁がされたほどでした。
また、店頭では「こういった肌質の人にはこれです」と、それぞれの違いがきっちり分かるように陳列設計を考えていきました。
砥川:Webなどのプロモーションでは、手に取っていただくために「きき化粧水」という企画を実施しました。テクスチャーが違う、3つの化粧水をサンプリングし「あなたはどれが好きですか」と選んでもらう企画です。
内容としては羽生さん、新垣さん、女優の永野芽郁さんにチャレンジしてもらう動画を作成しました。それぞれの個性が出た面白いものになり、それを見た方々も「きき化粧水」をやってみたいと、キャンペーン応募につながりました。

砥川:また「つくり方にも、透明感を。」というコピーで、成分である和漢植物の産地や環境に配慮した商品設計の話など、サステナブルな取り組みもブランド価値としてオープンにしていきました。
竹内:元々、「雪肌精」は青い地球を守るため、雪肌精「SAVE the BLUE」プロジェクトという自然保護活動などにも長年にわたり取り組んでいます。新たなものを付け足すよりも、持っている資産を見つめなおして丁寧に伝えることができました。
ジェンダーレス発信において雪肌精が気を付けたポイントとは
──以前から、「雪肌精」は羽生さんを起用されていましたよね。
竹内:雪肌精のジェンダーレスへの取り組みは、羽生さんを起用した2019年から開始しています。
コーセーでは、男性の広告起用自体は、随分前から行っていたのですが、当時は「女性が美しくなると男性もうれしい」といった、女性を称賛する役割として出演していました。今回は、2019年からの取り組みをさらに前に進めて「これからは男性も化粧品を使うことで、肌も心もうるおわせて幸せになってほしい」というメッセージを強く込めていった形です
先ほどユーザーの割合が男性1割と話しましたが、普通の化粧品の中ではかなり男性の比率は高い方だと思います。
砥川:社会課題に対して取り組もうとする企業さんは、時流もあって増えてきていますが、広告表現のメッセージにまで踏み込んでいくなんてすごい会社だと思いました。
ただ、「雪肌精」のプロモーションは時流に乗ったから話題になったのではなく、メッセージが商品にきちんと反映されていて、ブランディングと機能訴求が同時にできているからだと思います。
──「雪肌精に男性用はありません」と言い切るのは、かなりチャレンジングだったのではないでしょうか。
竹内:はい。「男性も使えます」ではなく、言い切るメッセージに決めたのは勇気のいる決断でした。実際、「男性用はありません」という表現は不快でないかどうか、有識者に意見を伺うだけでなく、アンケート調査も行いました。
ジェンダーレスの発信は非常にデリケートな面もあるので、打ち出すタイミングを探っていたところはあります。世の中の多様性に関する意識が、一気に進んできた今だからこそできた表現だったと思います。
吉岡:機能押しではなく、ブランドメッセージを前面に押し出した広告は、「雪肌精」では初めての取り組みだったので、それもチャレンジングでした。