プライシングはブランド戦略の一環
ここで改めて強調したいことがある。それが、「プライシングは単独で語るべきではなく、ブランディングやプロモーション戦略との整合性を常に意識した上で検討すべきテーマである」ということだ。

なぜ、プライシングをブランド戦略の一環として考えるべきなのか。たとえば、とある商品に対して「ゆくゆくは看板ブランドに育てたい」という構想があったとする。そのための市場参入価格が決まったとしよう。しかし、販売の最前線で大幅な値下げやリベート(※3)が乱発され、値崩れや安売りがまん延してしまったら……。肝心のブランド力を高める目的が、プライシングでご破算となることもあり得るわけだ。これは極端な例ではあるが、プライシングは常にブランディングや販売戦略、プロモーションなどマーケティング戦略全体を踏まえた上で解を出す必要がある。
※3 卸売業や小売業の取引高に応じて、メーカーがその仕入れ代金の一部を払い戻すこと
そもそも価格の改善、つまりプライシングを通じた利益の拡大は、プライシング単体でどうこうできる話ではない。正しくプライシングを行うためには、商品・サービスの価値を正しく見極めるところからスタートする必要がある。
商品・サービスの価値を高めるために「どのようなブランドに育てていきたいか」「どのようなターゲットに利用してもらいたいか」「どのようなチャネルで販売するべきか」など、マーケティングの他の要素とプライシングの考え方を整合させて初めて、利益拡大につながる価格改善が実現できる。
売上至上主義から持続可能な利益志向へ
日本ではバブル経済崩壊後の1990年代を「失われた10年」と呼んでいる。しかし2000年代に入って銀行の不良債権問題などが解消されてもなお、1970年代や1980年代に遂げていたような経済成長は見られない。次の表に示したGDPの国別推移を見ても、日本は米国、中国に次ぐ世界第3位ではあるものの、成長率は横ばいの状態が続いている。
国の経済が成長しているフェーズであれば、企業は売上を増やし、それに連動して利益も増やすことができる。しかし現在の日本のように市場が成熟した状況において「売上至上主義」に固執することは、必要以上の値下げや販管費の増加を生み、むしろ利益率を悪化させるだろう。
経済が縮小均衡していく中で重要なことは、売上を追い求めることではなく持続可能な利益を志向することだ。帝国データバンクの全国社長年齢分析によると、2021年の社長の平均年齢は60.3歳だという。また、60代以上が全体に占める割合は52%と過半数を超える。つまり、現在の経営層は30代、40代までバブル経済の真っただ中を生きてきたわけだ。
その当時は売上が右肩上がりで伸び、それによって株価も上がっていった。常に前年以上の売上を達成することが企業の成長と株主の期待に応えることにつながっていたのだ。そのような時代を生きてきた経営層の目が売上に向くことは致し方ないだろう。企業の中期経営計画や事業計画、個別の月次の業績管理を見ても、まずは売上を起点にスタートしている。このことは、売上至上主義を如実に表しているだろう。
しかし、前回のナイキの例を通じて、企業の時価総額は「その企業がどれだけ利益を稼ぐ力があるか」を示すものだと伝えた。そして、利益を上げるにはコストダウンや無理な営業活動ではなく、価格改善の余地がないかを検討することがより有効だとも述べた。
したがって、プライシングを駆使して利益を拡大させるためには、マーケターが持続可能な利益志向を率先して啓蒙し、経営層の売上至上主義を変えていくことから始めなければならない。
本連載の第3回では、「市場均衡型」「心理効果型」「ブランディング型」「プロモーション型」など、私が編み出した24の価格戦略のうち、特にマーケターに有用なプライシングのフレームワークを紹介する。
