三菱UFJ信託銀行が情報銀行に参入した理由
三菱UFJ信託銀行は、MUFGグループの中核を担う企業の一つとして、「銀行業務」の他に「信託業務」「併営業務」を担っている。サステナビリティの方針として「安心・豊かな社会」を創り出す信託銀行を掲げており、その一環として情報銀行サービス「Dprime」をリリースした。
昨今、個人並びに企業のデータの使い方・使われ方に対する課題が浮き彫りになっている。デジタル化が急速に進み、個人にとっては「自身の意思に関係なくパーソナルデータが利用・販売されている」という不安がある。一方、企業は個人情報に関するルールの変化に対応しきれず、保有しているデータの活用も上手くいっていないケースが多い。その結果、顧客インサイトの探索や最適なターゲットへのリーチができていないという課題を抱えている。
三菱UFJ信託銀行は個人・企業の課題解決を目指し、個人のプライバシー保護と企業のパーソナルデータ活用の両立が可能な情報銀行サービスに参入することを決めた。また、同社が情報銀行サービスへの参入を決めたのには、これまでのビジネスで培ってきた信頼と実績があるからだという。
「三菱UFJ信託銀行には、株主名簿や年金加入者データなど、あらゆるお客様の個人情報を管理してきた信頼と実績があります。そして、パーソナルデータを活用することは、個人と企業の双方にメリットがあると思い、参入しました」(森本氏)
信頼性の高いデータでのリサーチ・プロモーションが可能に
三菱UFJ信託銀行が提供を始めた情報銀行サービス「Dprime」は、個人にとってはパーソナルデータの提供先を自分でコントロールできるメリットがある。そして企業にとっては、本人確認済みの良質な個人ユーザーにアクセスしてリサーチとプロモーションが可能になるメリットがある。
個人ユーザーは属性情報などのパーソナルデータをDprimeに預けることでポイントなどの対価を受け取ることができる。一方、企業は個人が提供を応諾したデータをもとにリサーチやプロモーションが行える。
個人ユーザーはオファーが届くと、利用目的に同意した上で参加ができる。つまり、個人にとって透明性の高い状況でデータを渡すことができる。そして、企業もユーザーが能動的に提供したデータを使えるメリットが生まれる。
Dprimeが抱えるユーザー属性は、関東を中心とした会社員が多い構成になっている。また世帯年収800万円以上が3割、金融資産1,000万円以上が2割というのも大きな特徴だ。会員登録数は約25万人※、その中で約13万人が属性に関するパーソナルデータを登録している(※2023年5月現在)。
そしてDprimeでは、市場ニーズの調査や商品コンセプト調査、プロモーションや効果検証などのメニューを用意しており、商品・サービスの上市(市場に出す)前から上市後まで対応することが可能だ。
第三者が客観的に語る、情報銀行の価値とは?
情報銀行ビジネスはまだこれからというのが現状。その中でDprimeにはどのような価値があるのだろうか。このDprimeの価値に関して、第三者の立場から村岡氏が語った。
「Dprimeユーザーの満足度は高く、7割以上のユーザーが満足しています。利用理由を見ても金銭的な理由だけでなく、信頼できる会社が運営していることも評価につながっていることがわかりました。安心安全のデータ管理には、銀行で養ってきた知見が使われていることが信頼につながっています」(村岡氏)
属性をさらに細かく見てみると、消費者庁の基本調査と比較しても消費に前向きといった特徴がある。
Dprimeの会員属性は、年収帯や食や購買についても前向きな点からも、高付加価値な顧客理解の調査に適していることが判明した。
「今後の期待として、アンケート機能の拡張や三菱UFJ信託銀行ならではのソリューションの拡充、情報銀行のリーディングカンパニーとして、本業へのインパクトも含めた情報銀行サービスの在り方の模索が期待されます」(村岡氏)
九州電力がブランド力向上に向けて定めた3つのサイクル
続いて、いち早くDprimeを活用している企業事例として、九州電力の事例が紹介された。九州電力グループは電力を主軸の事業として、ICTサービス、都市開発や新規事業、インフラサービスなどを行っている。本セッションに登壇した矢野氏は、都市開発事業本部に所属し、不動産、住宅の領域を担当している。
今後九州電力では、新築マンションの高付加価値化を目指す予定だ。そのためにはブランド力の向上が必要になる。
このブランド力を上げるために九州電力は、土地や資材の仕入れ力の強化、販売力の強化、入居後の価値向上という3つのサイクルを回そうとしている。しかし、そこにはあらゆる課題がつきまとう。たとえば立地一つとっても、良い土地であるかどうかが集客力や販売単価、購入率などの販売力に影響してくる。また、仮に良い土地で良い設備のマンションが建てられたとしても、その分高額になり、購入できる生活者も限られてくる。
そして重要なのは、これらの付加価値によって発生するメリット・デメリットを理解し、ターゲットが真に求めている価値を適切に取捨選択することだ。九州電力はこの取捨選択の精度を上げるため、顧客分析に取り組むことを決断。そして、あらゆるリサーチサービスの中から、Dprimeの活用を決めたという。
九州電力が顧客分析にDprimeを活用した理由とは?
では、なぜ様々なリサーチサービスの中から、情報銀行サービスのDprimeを選択したのだろうか。サービスの決め手について矢野氏は「自社の目的に合ったユーザーが多いこと、データの信頼性の高さ」を挙げた。
「Dprimeには高所得のユーザーが多く、高付加価値を追求する調査テーマに向いていると判断しました。また、顧客が応諾した安心・安全のデータが使えることも決め手となりました」(矢野氏)
実際にDprimeを活用した調査により、信頼性の高いユーザーの声を聞くことができ、高付加価値に向けたキーファクターを定められたという。
Dprimeの今後
すでに個人・企業それぞれの利用が進むDprimeだが、今後はどのような展開を予定しているのだろうか。森本氏は、強化していきたい取り組みの一つとして「Dprime Lab」を紹介した。Dprime Labは、社会課題を解決したい企業とユーザーをつなぎ、社会課題の解決につながる商品・サービスの開発に取り組む共創プロジェクトだ。
その先駆けとして、2022年4月から10月にかけて、企業とユーザーをつなぐ橋渡し役として、ビールの製造会社と一緒に開発し「あなたのデータ」×「廃棄食材」で作るビール開発プロジェクトを実施した。
フードロスへの課題解決の取り組みとして実施したこのプロジェクトでは、試飲前と試飲後でアンケートを実施。その結果、フードロス防止食品を積極的に選びたいという人は24%から50%へと26%アップし、関心度は93%となった。
最後に森本氏は、今後のDprimeの展望を語りセッションを締めくくった。
「データという企業支援があります。データを通じてお客様のビジネスを前に進めるお手伝いをしていきたいと考えています」(森本氏)