『伊右衛門』を作った沖中直人氏を取材
テレビやオンラインで健康食品の広告を目にしない日はない。このような激戦区の市場において、サントリーウエルネスは、市場シェアNo.1企業として業績を着実に伸長させてきた。同社の社長を務めているのは沖中直人氏。沖中氏は、かつて『伊右衛門』を立ち上げ、そのブランドの基礎を作り、サントリー食品インターナショナルの基幹ブランドとして大きく成長させた実績を持つ。名実ともに日本のトップマーケターである。
私は2005年に沖中氏に『伊右衛門』について取材したことがあるが、今回、以来18年ぶりに沖中氏にインタビューする機会を得た。なぜサントリーウエルネスはこの市場で飛躍することができたのか、また沖中流のマーケティングの考え方とはどんなものか、それを学ぶことが今回のインタビューの狙いである。
本記事のポイント
1.沖中社長の言う「“個客”原理主義」とはどのようなことか
2.ユーザーとの新たな接点になる、サントリーウエルネスのサービスプラットフォームとは。
3.人生100年時代にサントリーウエルネスが得たシニアのインサイトとは何か
4.人生100年時代のマーケティングはどうあるべきか
団塊の世代をターゲットに成長してきた、サントリーウエルネス
田中洋(以下、田中):サントリーウエルネスさんは、20期連続の増収増益、現在、国内健康食品市場で1位の地位を築かれています。なぜ、そうしたことが可能だったのでしょうか。通販ビジネスでは、コアになるリピート顧客を掴むことが重要と言われていますが、サントリーウエルネスさんの場合はどうでしたか?
沖中社長(以下、沖中):2000年代、健康食品という世界は、必ずしも信頼性が高くなかったのではないかと思っています。我々の場合、幸いにも「サントリー」の信用力を活用できるというアドバンテージがありました。サントリーという企業への信頼は、車はTOYOTA、家電はPanasonicというように、ブランドネームを重視する団塊の世代の期待に応えるものでもあったわけです。
また、サントリーウエルネスがビジネスを開始したのは、団塊の世代が「老い」を意識し始めた時期です。我々のコア製品のひとつ『サントリーセサミンEX』は、セサミンで取り組んできたエイジングに対する研究を活用した製品です。このサイエンスに裏付けられた製品が、いつまでも若々しくいたいという団塊の世代のニーズに、ドンピシャで合っていたんですね。
田中:サントリーウエルネスの事業は、最初からダイレクトでの販売を志向されていたのでしょうか?
沖中:当初は、ドラッグストアなどの流通チャネルも活用していました。実は、店舗での値引きなども経験してきています。そこから、2001年にダイレクトビジネスに方向転換して、資源を集中させてきました。
田中:メディアの使い方に、これまで変化はありましたか?
沖中:過去にはテレビ広告を中心に商品訴求をした時期もありました。しかし、現在はその手段をテレビ広告以外にも広げています。我々は、“ブランドを創る会社”と自分たちを捉えています。抗酸化作用などサイエンスに基づいた製品を世の中に送り込んでいる会社ですので、本当に良い製品であれば、広告だけに依存しなくてもよいはずです。また、サントリーウエルネスには営業パーソンがいません。ユーザーの中にアンバサダーを作り出していくのが理想的な姿なのだと思っています。