マーケターに求められる「マーケティングアーキテクト」とは
そんなAdobe Summit 2023には、日本からも複数のマーケターが参加した。Adobe Experience ユーザー会のリーダーを務める東京海上日動火災保険の吉村氏は、ビデオメッセージで現地の様子を紹介する。
吉村氏は「Adobe Summitには様々なセッションが用意されており、深いインプットにつながった。また他の参加者との意見交換の場でも、アウトプットを通じて有益な気づきが得られた」と話す。
その気づきというのが、マーケターの今後のスキルセットについてだ。吉村氏は「『Adobe Firefly(※)』など、AIでテキストのみならずクリエイティブも制作できる昨今。マーケターは今後、マーケティング業務を単にこなすのみでは継続的なバリューを発揮できない」と感じたという。
※アドビの画像生成機能およびテキストエフェクトを中心としたジェネレーティブAIモデル。Adobe Summit 2023で発表された
吉村氏は今後のマーケターの提供価値について他のSummit参加者と話をした結果「マーケティングアーキテクト」というロールを果たすことが今後のマーケターには求められるとの結論に至ったそうだ。マーケティングアーキテクトとは吉村氏の造語で、自社ビジネスのメカニズムを深く理解した上で、マーケティングをドライバーにした価値創造プロセスを設計する役割のことを指す。
「マーケティングアーキテクトという発想は、一人でオンラインのセッションを聞いているだけでは気づかなかったでしょう。業界や会社は異なれど、似たような課題感を抱えたマーケター仲間と対面で意見交換することで、初めて生まれるケミストリー(化学反応)があるのだと感じました」(吉村氏)
短期的なROIが求められる時代に
吉村氏のビデオメッセージに続いて、Adobe Summit 2023の別の参加者三人によるパネルディスカッションがスタート。登壇するのはカシオ計算機の村岡氏、日商エレクトロニクスの近藤氏、マクニカの堀野氏だ。モデレーターとしてアドビのプラブネ氏が場を仕切る。
三人はまず、Adobe Summit 2023の感想を語る。堀野氏は「世界一のマーケティングテクノロジー事例が集まる場だった」と評価。近藤氏は「Chat GPTなど、AIのマーケティング活用に注目していた中、SummitでAdobe Fireflyが発表されたことが印象的だった」と語り、村岡氏は「参加者が皆学ぶ意欲にあふれていて、非常に楽しかった」と振り返る。
続いてプラブネ氏が、アドビが2023年2月に日本を含む計14ヵ国に対して行った調査の結果を紹介。各国の消費者に「景気がより悪化した場合、顧客体験への期待値はどう変化するか」と聞いたところ、約半数が「高くなる」と回答したのだという。
この調査結果からプラブネ氏は「多くの企業が今後『体験価値を上げないとマーケットから排除されてしまう』と懸念し、短期的なROIを重視し始めるのではないか」と推測。この仮説を踏まえ、各社における実態をパネラーの三人に聞く。
堀野氏によると、これまでマクニカでは半導体のディストリビューション事業が主な事業だったため、特定の製造業の顧客との取引が中心でマーケティングがそれほど重要視されていなかった。しかし、半導体やソフトウェアを活用したソリューションビジネスを展開し始めたことで潮目が変わったそうだ。積極的なマーケティング活動が求められる上、ROIもしっかりとトラッキングする流れになってきているという。
近藤氏は「日商エレクトロニクスでも短期的にリターンを求める風潮は高まっている」と指摘。「マーケティング組織は、他部署からややもするとコストセンターと見られかねない。それゆえ、我々の取り組みを数字で営業組織や役員にしっかりと示し、納得してもらう環境になってきている」と続ける。