目に見えないものを観測する意義
「Macromill Weekly Index」はマクロミルが実施している定点観測調査だ。2013年4月から10年間、日本に住む生活者の消費動向や景況感、生活気分を毎週調査し、結果を無料で公開してきた。同調査プロジェクトを立ち上げたマクロミル総合研究所所長の萩原氏は、これらのデータを「この10年の状況を見た上で、どんなふうに日本が変わっていくのかを議論するための出発になる」と語る。
では、データからどのようなことがわかるだろうか? 本稿では議論のスタートラインになり得る生活者の変化について、10年分のデータから読み解いていきたい。
本題に入る前に、簡単にMacromill Weekly Index開始の背景と概要を紹介しよう。同調査の出発点は「世の中の空気や民意といった流動的に変化するものを、インターネットを利用して観測できないか?」という疑問からだったという。たとえば景気や経済、気象は実態がない一方で、数値化され生活において重要な指標になっている。
景気ならば、国企業短期経済観測調査(短観)や産業データを総合して、景気の良し悪しを判断する。気象の場合は、地域気象観測システム(アメダス)などの地道な測定をベースに天気予報が成立している。どちらも国民生活に欠かせないものだ。世論や国民感情も観測を続け、データを蓄積することで景気や気象のように予測できるのではないかとの考えから、実験的なデイリー調査を経て、2013年よりウィークリーでの観測調査が始まった。
Macromill Weekly Indexでは、マクロミルの事業ドメインに合わせて消費をメインに質問票が設計されている。たとえば「1週間の消費金額」「購入品目」「実店舗への支出割合」などだ。
なお、調査はマクロミルモニターの中から毎回ランダムサンプリングによって1,000人を抽出して実施している。また回答結果が安定している点も特徴だ。国が実施する統計調査などともシンクロし、同様の傾向が見られるという。そのため、萩原氏も「信頼性の高いデータだと考えています」と胸を張る。実際に、調査データは公共機関や大学などで活用されているという。
新型コロナで“様変わり”した生活気分
ここからは、実際に10年間のデータからロナが変えた生活者意識について紹介していきたい。なお、記事で触れるビフォーコロナ、コロナ流行期、アフターコロナは次の時期を指す。
- ビフォーコロナ:~2019年12月
- コロナ流行期:2020年1月~2023年4月
- アフターコロナ:2023年5月以降
コロナの流行によって、大きな変化が起きたものは何か? 萩原氏はその1つとして感情・生活気分を挙げる。Macromill Weekly Indexでは、1週間の生活気分を「楽しかった」「うれしかった」「わくわくした」「落ち着いた」のポジティブ4項目と、「不安だった」「腹が立った」「悲しかった」「憂鬱だった」のネガティブ4項目でたずねてきた(複数選択可能/提示グラフでは6項目)。10年分のデータが下の図だ。
コロナ流行期とそれ以前で構造的な変化が起きていることが一目瞭然だろう。ビフォーコロナの7年は年末年始の季節性の変動はあるものの、喜怒哀楽がほぼ同一の割合で推移し、極めて安定していた。それがコロナ流行期である2020年に入ると一変し、ネガティブな感情とポジティブな感情が交錯している様子が見られる。具体的には常に約4割を維持していた「楽しかった」が1度目の緊急事態宣言のタイミングで1割をきった。さらに、不安や悲しかったといったネガティブな感情が急上昇している。
感情を個別に見ると「うれしかった」は一度大きく下落したものの落ち着きを示している。一方で、イベント時に跳ね上がりはしても、2023年現在も元の水準には戻っていない。WBCの決勝があった時期の「うれしかった」は過去最高の数値を記録したが、その後は10%台近くまで落ちている。「わくわくした」「楽しかった」についても、同様にベースラインがビフォーコロナに比べると低くなっている。そのため、グラフを見る限り、コロナのような気分が続いているとも考えられる。