最適な体験でファン化を促す 軸足の置き方
次に力点についてです。力点は具体的にファン化を促す(作用点を動かす)体験の部分になるのですが、前回お話ししたように、体験のレイヤーは大きく3つあります。(1)仕組み体験(商品・サービス体験)、(2)対話体験(顧客体験)、(3)世界観体験(ブランド体験)です。
実際の商品やサービスにおいては、それぞれが複合的に合わさっていたり、包含されたりして、1つの体験になっていることがほとんどになります。
したがって、目的(提供価値)に合わせて3つの体験から一番特徴が近いものを見定めて、その時に必要な体験の軸足を決めることになります。

具体的には、次のように考えるとわかりやすいです。
- 商品やサービス体験のコア部分を発想したい場合には仕組み体験に軸足を置き、「行動メタファー」で考える
- 顧客体験全般を見渡して体験を発想したい場合には対話体験に軸足を置き、「擬人メタファー」で考える
- ブランド体験を発想したい場合には世界観体験に軸足を置き、「舞台メタファー」で考える
このように体験の方向性を定めていきます。
【事例】生活者の心を動かすallbirds、ビジネスの力で気候変動を解決
社会の気持ちと生活者の気持ちに寄り添い明確な目的を打ち出し、支持されているブランドの事例として、allbirdsという靴のメーカーがあります。
同ブランドは、数多くの生活者が将来を案じている、深刻な気候変動/地球温暖化問題に対して、「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」という意志をパーパスとして表明しています。実際に、サステナブルな商品づくりと仕組みづくりを徹底しており、多くの共感と支持を得ています。
これは、気候変動問題という数多くの生活者が身近に抱えているイヤ(不安・不満)に正面から立ち向かい、ブランドの使命としてビジネスの力で気候変動を逆転させるという明確な意思表示をすることにより、自らの存在意義を生活者の心に意味づけしている好例だと言えます。
テコの原理のイメージで説明すると、このallbirdsの支点は、生活者の気持ちに寄り添って、非常に近い状態(支点が左に寄っている状態)です。つまり、テコによるレバレッジを効かせやすく、ファンになる気持ちを誘発しやすいという状態になります。
逆に、この支点が生活者の気持ちから離れている状態(支点が右に離れている)。すなわち、企業側によるひとりよがりの意思であったり、あまり意味のない価値を提供する目的であったりすると、たとえどんなに良い活動や体験を提供してもファンになる気持ちを起こさせることは非常に難しいと言えます。