生産者と問題意識を共有し、信頼関係を構築
磯山:ここまで消費者の体験のお話を伺ってきましたが、生産者の方々とのコミュニケーションはどのようにしていますか?

青栁:まずは取引先や農家を訪問して、直接お話をさせていただきました。生産者さんの多くは何代か続いていて、大体3代目あたりが僕らと同年代くらいなんですよね。
お茶以外の飲み物の選択肢が増えたことで、昔に比べて市場の中でお茶の価値が下がってきていると感じ、このままでは子供世代にバトンを渡すのが厳しいと考える方もいるようです。危機感の入口は違っても、問題意識としては我々と近いものがあったので、それをポジティブに捉えていただきました。
谷本:皆さんウェルカムでしたね。大抵産地に足を運ぶのは買い付けをする茶問屋なので、我々のような東京でブランドをやっている人間が来たのは初めてだとも言われました。
そういうフェイストゥフェイスのコミュニケーションがあったからこそ、良いものを安定供給できているというのはあると思います。
青栁:生産者の方が東京にいらした際は、三軒茶屋や銀座の店舗に来ていただけることも多いです。いい関係性ができているからこそだと思いますし、生産者の方々からすれば自分たちのお茶に対する反応が気になる部分もあるのでしょう。
ペットボトルのお茶だと、たとえば「静岡茶」のような広い範囲の産地表示がされます。これがワインだったら、もっと詳細な地方名や、場合によってはどこの畑かも表示されますよね。やはり生産地や生産者の名前が出るのと出ないのでは、モチベーションが違うと思います。
磯山:どうしても流通過程で生産者と消費者の間に隔たりができてしまいがちですが、そこをつなげてダイレクトに生産者の思いを届けていけるのはおもしろいですね。
次世代にバトンをつなぐため、丁寧に誠実に進む
磯山:保育園での子供向けワークショップなども行っていらっしゃいます。こうした取り組みはどのような意図があるのでしょうか?
谷本:次の世代にお茶のバトンをつなげるための種まきですね。子供たちが将来、「小さい頃においしいお茶を飲んだよね」と言える原体験を作ってあげたい。また、ワークショップに関わる大人にとっても「改めて自分で淹れて飲んでみる」という体験にもなります。
直接的な売上にはつながりませんが、そこに感動があるということが大切なんです。
磯山:そういう取り組みをしているブランドなんだ、ということ自体も価値になりますね。
青栁:次の世代にバトンをつなごうと考えたら、当然10年から20年、それ以上かけてやっていかなくてはいけないものです。そのためには一般的な生産活動と消費活動だけではなく、お金が発生しないもので生態系を作らないといけない側面もありますよね。我々のようなメーカーとしては悩ましいところではありますが。
磯山:最後に、ブランドを通じて作っていきたい世界観や未来のビジョンを聞かせてください。
青栁:我々が創業当初から掲げてきたものは、作れてきているという手応えがあります。その上で、今度は無理をせずスケールさせていくことが重要なフェーズです。
時代がどうであろうが、絶対にお茶はなくならないと思っています。焦らず、周囲に左右されず、丁寧に誠実に向き合う心を持ち続けられるかが今後のテーマになります。丁寧にやることが重要なので、急がば回れという感じですね。

編集後記
子供の頃、おばあちゃんの家に行くといつも急須でお茶を淹れてくれました。それをとても鮮明に覚えています。現在、コンビニで手軽にペットボトルのお茶が飲めるようになりました。それでも子供の頃におばあちゃんの家で飲んだお茶のおいしさは忘れられません。まさにブランド体験、急須で淹れたおいしいお茶の香り、味を覚えています。
ビジネスは文化作りとおっしゃるお二人の取り組みは、短期の利益を追いかけるのではなく長期視点で取り組むこと、洗礼されたデザインで煎茶堂東京という強いブランドを作り日本人が長く付き合ってきたお茶の文化をアップデートしていくのだと感じました。ありがとうございました。