3.新たな分断に備えたデータマネジメントの必要性
データ分析環境の進化は、統合マーケティングにおいて大きな変革点だ。反面、プラットフォーム事業者ごとにDCRが存在することで、分析に必要な仕様などが異なり、結果、プラットフォームごとにマーケティング施策が分断されてしまう面もある。
この点に関して、たとえば電通は、複数のDCRを一元管理するシステム基盤「TOBIRAS」を開発。データ転送や集計、各DCRにおける分析結果が、プラットフォーム横断で比較・評価できるようにしている。
4.需要の「刈り取り」発想から、需要の「創造」へ
では、具体的に「自社外のデータがマーケティングに使える」とどのようなことが起こりうるのか?
これまでデジタルマーケティングでは、既に顕在化した需要を捉え購入に導く、いわゆる「刈り取り型」とよばれるアプローチが多く行われてきた。たとえば過去の購入履歴に基づいて配信するリターゲティング広告などで、いわば「買いそうな人を見つけるためのデータ利用(需要の消費)」と言えるかもしれない。
一方で上流の、たとえば「車が欲しい」という需要を喚起する部分にデジタルで着手する企業は少なかった。自社が創出した需要が、上記の「需要の消費型マーケティング」を実施する他社に刈り取られる可能性も高く、投資対効果が見えづらいためだ。
しかし、外部データを上手く活用することで、需要創造型のアプローチが可能になる。
まずは「潜在的な需要を顧客視点で見つけること」が第一ステップだ。行動ベースの外部データから、たとえば「自動車はこれまで検討していないが、アウトドア好きかつ屋外で1人でリモート会議をすることが多いビジネスパーソン」など自動車業界の外にいる潜在顧客を抽出し、IDベースのアプローチにより「その人の志向性にあったニーズや価値」を提示することで、需要を喚起していく。
必然的に、生活者をしっかりと見つめ、その志向性に合う形で需要を喚起するため、生活者に寄り添った、プロダクトアウトではないマーケティング発想になっていく点も、この「需要創造型マーケティング」のメリットだと言える。
5.喚起した需要を自社に導くための、データドリブンの顧客体験デザイン
これまでは、需要創造型アプローチの後の行動は“お客様任せ”になっていた。自動車のCMを見たらお客様が来店してくれるだろう、という希望的観測でキャンペーンを組み立て、店頭の演出などで「待ち構える」しかなかった。
しかし、IDベースでのマーケティングでは、「需要喚起された人」に直接かつ継続的にアプローチができる。「CMで欲しい気持ちが高まった人に、その人の志向性に合わせたWEBコンテンツを届ける」ことや、「デジタル広告で、その人が求める絞り込まれた情報がランディングページとして表示される」おもてなしを実現し、また「SNSで商品の話題にコメントしたIDを捉えて、より詳しい情報をお届けする」ような動線づくりをも可能にする。
喚起した需要を基点に、より生活者のニーズに合わせた情報構造設計、結果としてのマーケティング目標の達成という、寄り添い型のアプローチに大きく変化していくのだ。
6.企業発想ではなく、真に「生活者に寄り添う」マーケティングへ
このようなIDベースのマーケティングの進展に伴い、特に、改正個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)、Cookieの規制など、法的・技術的にも個人情報の取り扱いには注意が必要だ。
合法でも、生活者が忌避感を示す使い方は決してできない。生活者にメリットがないような企業視点での使い方はもちろん、メリットがあったとしても、受容されるかどうかはまた別の話だ。生活者に近い所にデジタル接点が入ってくれば来るほど、どれだけ情報を届ける人に寄り添い、ポジティブな変化を促せるかという、本質的な課題に向き合わなくてはならない。
これまでの企業発想のマーケティングから脱却し、顧客に寄り添うPeople-Driven(人基点)のマーケティングを組み立てること。つまり、幅広い人のデータを扱うことを前提にした、本当の意味での生活者中心のマーケティングが企業に求められているのだ。
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