利益目標の達成に最適な価格とは
引き続き、24の価格戦略について見ていく。
ダイナミック・プライシング
ダイナミック・プライシングは価値基準のフレームワークで、需要と供給の状況をモニタリングし、需要が高い時期は価格も高くして収益を拡大させ、需要が低い時期は価格を安くして需要を喚起する方法。「変動価格制」または「動的価格設定」とも呼ばれる。
このフレームワークは航空券やホテルの宿泊料のほか、コンサートやスポーツ観戦のチケット、タクシー料金などに適用されている。供給可能な量に制限がある商品・サービスでは、売れ残りや安売りを防止する観点で特に有効だ。

プライスカスタマイゼーション
これもダイナミック・プライシングと同様、買い手と売り手の需給ニーズをマッチングさせる手法。ダイナミック・プライシングと比べ、価格変動のスパンが長いのが特徴だ。
たとえば、富士山の山頂において飲み物の価格が高いのは、ほかに手軽な購入場所がなく供給が需要を下回るためである。このように供給が需要を下回る状況では、価格を高めに設定しても商品が売れる──この作用を利用したのがプライスカスタマイゼーションだ。
価格弾性値
価格弾性値も価値基準のフレームワークで、価格が消費に与える影響を数値化したものだ。「価格が1%上下することで、販売量は何%変化するか」の絶対値で表される。算出方法は「需要の変化率÷価格の変化率」で、たとえば価格を10%上げて需要が3%下がった場合、価格弾性値は0.3となる。
厳しい競争市場下では、価格の上昇が途端に顧客離れを引き起こすだろう。この現象を「価格弾性が高い状態」という。たとえば、トイレットペーパーの価格は競争に敏感で、数十円値上がりしただけで購入されづらくなる。
一方、競争が緩い場合、価格弾性は低下する。高級車であるポルシェ911は、価格が1,500万円でも1,600万円でも買う人は買うのだ。
価格弾性値の活用メリットは、利益最大化のために最適な価格をシミュレーションできる点だ。たとえば、販売数量を5%増やしたい(=利益を増やしたい)と考えており、その商品の価格弾性値が0.5であるならば、価格を10%下げれば良い。つまり、販売目標・利益目標を達成するための価格の最適解を科学的にシミュレーションできるため、他の手法よりも説得力・合理性が高い。ぜひ積極的に活用してもらいたい。
アンケートに基づき理想価格を算出
入札
入札も価値基準のフレームワークで、消費者が自分で価格を提案し、それに基づいて販売価格が決まる手法。主に「競争入札」と「オークション」の二つの形式があり、どちらも買い手と売り手間の需給バランスを適応させるために用いられる。
知覚価値価格
知覚価値価格も価値基準のフレームワークで、顧客調査を用いて商品の支払意向額や市場で許容される上限価格、下限価格などを模索する方法だ。具体的な調査方法としては、「PSM分析」や「コンジョイント分析」「FGI」「シェルフ調査」「モニター調査」などがある。
最もメジャーな価格調査がPSM分析だ。PSMとはPrice Sensitivity Measurementの略で、日本語では「価格感度分析」と呼ばれる。消費者に商品の価格イメージや相場観を質問するアンケート調査だ。対象者に「どの価格から高いと感じるか」「どの価格から安いと感じるか」「どの価格が高すぎると感じるか」「どの価格が安すぎると感じるか」を質問。それぞれの回答結果の累積分布をとり、図表4のような「上限価格」「下限価格」「理想価格」「妥協価格」を導く。

なお、理想価格は消費者が最も抵抗なく購入できるライン、妥協価格は消費者が納得して購入できる限界のラインを指す。新商品など過去の販売実績がない場合には特に有効な手法だ。
ただし、回答者がアンケートで回答した通りの値段で実際に商品を購入するとは限らない。そのため、PSM分析の結果はあくまで価格の幅を狭める目的や、ターゲットとする顧客層が受け入れやすい価格帯を探すためのツールとして活用してもらいたい。
第3回は一旦、ここまで。次回は「心理効果型」と「ブランディング型」の価格戦略フレームワークについて解説する。