「ついやりたくなる」3つの内的要因とは
次に、内発的な動機付けがなされる3つの要因を見ていきます。

1つ目は、社会通念上やらないといけない「社会規範」です。他の人の行動が見えることで自分の評価を気にする、変な人と思われたくないという、人間の特性を活かした要素です。透明な募金ケースの中に入っている硬貨がほとんど10円玉だった場合、1円玉や5円玉を入れる人はあまりいないと思います。道徳や文化など根付いている行動を取り入れ、内発的な動機付けを喚起します。
2つ目は、何が起こるかわからない「好奇心」。人間は、不確定性を少しでも小さくしたがる傾向があります。そのため、何が起こるかわからない事象に遭遇した際に、何が起こるかを確かめたいと感じます。
テレビのリモコンにある用途不明のボタンをつい押してみたくなるように、わからないことを減らしたいという人間の本能的な成長欲求を活用します。一般的なUIの考え方であるわかりやすさとは真逆ですが、あえて「何かが起きそうだけどわからない」要素を入れることで、内発的な動機付けを喚起します。
3つ目は、〇〇しないと気持ちが悪いという「不協和」です。心理学の領域で、自分の思考や行動に矛盾がある時に生じる不快感・ストレスを認知的不協和と呼びます。
たとえば、行列のできる飲食店に長時間並んで食事をしたが「あまりおいしくない」と感じるケースでは、この時「長時間待った」ことと「おいしくない」の間に矛盾が生じます。そこで人間は「人気のお店だったから、やっぱり美味しかったのかもしれない」と矛盾を解消しようとする心の動きが挙げられます。この考え方をもう少し広義に「あるべき状態でないと嫌な気持ちになる」と解釈し、活用します。
事例で学ぶ、行動を喚起するアイデア発想
意識的な瞬間UXでは、これら2つの外的要因と3つの内的要因の要因を組み合わせて、やりたくなるアイデアを考えていきます。
外的要因(類推)×内的要因(好奇心)
投票箱に見立てた灰皿を設置することで、煙草のポイ捨てを減らす取り組みがあります。投票箱のテーマは「プロ野球で日本一になるチームはどこか」「目玉焼きにかけるのはしょうゆかソースか」など、時事的なものや普遍的なものなどが使われます。
この事例ではテーマが書かれている投票箱という、見た瞬間に投票できそうだと予想できる「類推」が外的要因として設定されています。また、結果がどうなるかがわからない「好奇心」が内的要因となります。これらの要因が組み合わさることで「煙草の吸い殻をポイ捨てするのではなく投票したくなる(灰皿に捨てたくなる)」という行動が喚起されます。
外的要因(期待)×内的要因(不協和)
第2回で紹介した、駐輪場に白線を引くことで利用者はつい整列駐車をしてしまう例があります。これをより効果的にするために、予めいくつかの自転車を整列駐輪しておく方法があります。
まず並行に引かれた白線を見た瞬間、この線に沿って駐輪するのだろうと予想できる「期待」が外的要因として設定されます。さらに、他の人と同じように並べるべきという「不協和」が内的要因となります。この組み合わせによって「駐輪場で整列駐車をしたくなる」という行動が喚起されます。