小売が持つデータの現状と課題とは?
簗島:今回はリテールメディアに関するビジネスに一緒に取り組んでいるD&Sソリューションズの望月さんに話をうかがいます。昨今、リテールメディアというキーワードが注目されている一方、ターゲティング広告に使用するためのメディアとして展開しても、あまり事業インパクトは生まれないと考えています。
それよりも、リテールメディアを通じて得られたファーストパーティデータを活かしてビジネスを展開していくことが重要だと考えているのですが、POSデータなど小売に関するデータを取り扱う望月さんから見て、小売企業のファーストパーティデータ活用はどうなっているとお考えですか。
望月:一番わかりやすいのは、POSデータの販売です。メーカーに対し商品が何個売れたか、どのカテゴリが売れているか、売り場全体のトレンドなどを提供しています。
しかし、POSデータだけでは買った時点しか見えず、ユーザーではなくモノの動きしか把握できません。ポイントカードや会員サービスが登場したことで、誰が何を買ったかまでは把握できますが、Webでの検討など買う前のプロセスはいまだにつかめていないのです。
そのため、小売業やメーカーが顧客のことを解像度高く理解するためのデータ活用、特にオンライン接点の Web IDの仕組みが必要になってきます。
コンテンツのない場所に人は集まらない
簗島:国内小売企業もリテールメディアの活用に乗り出すケースが増えていますが、現時点での課題はなんだと思いますか。
望月:いくつかありますが、まずユーザーに合った広告が出せていないことですね。国内小売企業が展開するメディアの多くが一般的なWebサイトもしくはECサイトの構造になっており、そこに適した広告が配信できていない印象です。
また、YouTubeやFacebookなどのプラットフォームと連携したオフサイト(サイト外広告)が中心になっているのも気になります。海外では、オフサイトとオンサイト(サイト内広告)を上手く組み合わせているのに対し、国内ではオフサイトに偏っている傾向が見られます。
簗島:オンサイト、オフサイトを切り替えて考えられている方も少なく、リテールメディアというものを解像度高く理解していかないといけないフェーズなんですかね。
また、リテールメディアがメディアになれていないのではないかと感じます。本当であれば、企業は毎日アプリやWebサイトにログインしたくなる仕組みを作って、ユーザーに楽しんでもらいながらデータを蓄積し、分析・活用していくべきだと思うのですが、望月さんはどう思いますか。
望月:リテールメディアというよりはリテールアドになってしまっているのが現状です。ただ、そうなるのも仕方ない部分があって、小売企業の多くはメディア事業をしたことがありません。一般的なメディアは、良質なコンテンツを揃えてユーザーを集め、広告や課金で稼ぎます。しかし、現在の国内リテールメディアはコンテンツがないのに広告が出せる状態になっているケースが見られます。
簗島:メディア化していかないとデータが貯まっていかないので、死活問題ですよね。