きぬた歯科やミウラタクヤ商店はグレイトカンパニー
歯科医院の平均年商が5,000万円と言われる中、そのおよそ32倍にあたる16億円以上の年商を叩き出すきぬた歯科をご存知だろうか。西八王子駅にあるこの歯科医院は看板戦略の緻密さが秀逸であり、多くの店舗型ビジネスは模倣できる点が多いはずだ。

モノリスが運営するECサイト「ミウラタクヤ商店」も独創的で面白い。ダイエット食品を販売する同商店は、その名の通りオーナーの三浦さんが一人で運営している。サイトには「会いに来る店長を目指しています」と記載があり、店長によるLINEの即レスが熱心なユーザーを生んで強固なビジネス基盤を築いている。

本連載ではきぬた歯科やミウラタクヤ商店のように、大きな仕掛けによってちょうど良い経営を体現している企業・起業家・経営者たちにインタビューを行う。連載名の通り「小さな会社、大きな仕掛け」を実行している方々だ。端から見て彼らの幸福度は高い。私は彼ら/彼女らの企業をリスペクトの意味を込めて「グレイトカンパニー」と呼んでいる。
多くのマーケティング関連書籍には、最大公約数を求める手法、つまり売上などの数字を最大化する手法が書かれているが、本連載が指向するのはその逆だ。サービスを本当に求めている顧客だけを集め、その顧客に満足してもらい、満足した顧客の声を聞いて従業員たちも喜ぶ──そんな誰も損をしない構造をつくり上げている企業のみを紹介する。
大きな仕掛けでラットレースは回避できる
私は近江商人の「三方よし」を心の拠り所にしながら会社を経営している。これからも「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」を目指すつもりだ。現代の資本主義は、この三方のどれかが我慢することによって成り立っているケースが多いように感じる。売り手、すなわち働き手が我慢することによって成り立つブラック企業や、買い手が我慢することによって台頭する詐欺的なビジネス、世間が我慢することによって成り立つアンサステナブルな企業活動など。
ところが資本主義はよくできたシステムで、長期的な視点で見ると他人を幸せにしなければ自分も幸せになれない仕組みになっている。なぜなら、限られたマーケットの中では誰かに支持されなければビジネスが成り立たないためだ。他人の幸せを誰よりも解像度高く考えた企業こそが、グレイトカンパニーたり得る。逆に誰かが我慢を強いられる企業活動はサステナブルからほど遠く、長く続くことはないだろう。
社会は私たち一人ひとりの仕事や消費の累積でできているはずだ。一過性の繁栄を追い求めるのではなく、長期的な視点で顧客に価値を提供し続けることで、得られるリターンは非常に大きい。三方よしの観点でも望ましく、価値のある営みだと私は信じている。小さな会社でも、大きな仕掛けによってラットレースを回避し、グレイトカンパニーになることはできる。本連載がそのきっかけになれば幸いだ。