ChatGPTから実用的な回答を得る プロンプト作りの三つの基本
シャノンでは、メールマガジンに掲載するコンテンツの企画において、ChatGPTを活用している。同社によるとChatGPTで実用性のある結果を出力するには、指示文であるプロンプトの入力方法にポイントがあるという。ChatGPTを活用したメールマガジンコンテンツの作成方法について、同社のマーケティング部の藤井里名氏が、同部で部長を務める村尾慶尚氏を聞き手に迎え、そのノウハウを紹介した。
ChatGPTで実用的な答えが得られないという問い合わせをもらうことがよくあるが、それは入力する情報が不足していることが原因だと藤井氏は語る。たとえば、メルマガのタイトルをChatGPTに考えてもらう際には、「プロのマーケターが登壇するウェビナーで集客できるタイトルを三つ考えよ」といった程度の情報量のみで指示を与えてしまうと、実用可能な回答を得るのは難しい。
では、プロンプトに求められる内容はどういったものだろうか。
「メルマガのタイトルを考えるにあたってのプロンプトに必要な三つの要素として、『(1)集客の対象となるものの内容』『(2)ターゲットの感情・課題』『(3)出力したいコンテンツ形式の指示』が挙げられます。(1)(2)のような前提情報もきちんと伝えることが重要です」(藤井氏)
藤井氏は、実際に同社が配信したウェビナーへの集客メルマガを例として取り上げ、作成プロセスを紹介した。
同社は、ターゲットの課題や感情を探る「コンテンツ+ターゲット分析」から「訴求タイトルの企画」「A/Bテストの設計」「メルマガ本文の作成」までプロセスごとにChatGPTを使って複数案を出力。その案を基にチーム内での確認・フィードバックを実施している。MAでメールを送信後、結果の振り返りもChatGPTで行い、そこから得られた知見をチームで共有・蓄積していると藤井氏は語る。タイトル付けに向けた、課題分析と感情分析のプロンプト
先述の通り、最初に行うべきは「コンテンツ+ターゲット分析」だ。たとえば、ウェビナー告知のメルマガのタイトルを考えたい時、参加するメリットを訴求する必要性があるが、そのためには、ターゲットが抱える課題を考えなければならない。この課題分析にChatGPTを活用すると藤井氏は述べる。
では、課題を抽出してくれるようなプロンプトをどう作成しているのだろうか。
「最初に『潜在的な課題を教えてください』という指示を記入します。次に前提条件としてウェビナーのタイトルや説明文をランディングページからコピー&ペースト、さらにターゲットの属性情報であるチームの規模や、役職などを箇条書きで入力します。最後には回答の出力形式として、課題の理由も答えてもらうように入力するのがポイントです」(藤井氏)
そして、この課題分析を出力した後には、ターゲットの感情分析を行う必要があると藤井氏は説明している。なぜなら、課題だけの訴求だと人の心を動かすことが難しいため、どのような感情を刺激するのかを考える必要があるからだという。
感情分析を行う際のプロンプトについて藤井氏は次のように説明する。
「今回は、最初にターゲットになりきるように指示を出し、前提条件として、集客したいセミナーの内容と先ほど行った課題分析をコピー&ペーストします。最後に出力形式を指定するのですが、その際にターゲットのセリフなども一緒に出してもらうのがポイントになります」(藤井氏)
感情分析のプロンプトでは、出力するターゲットの感情として「好奇心」「納得感」「希望」「緊急感」「不安」「恐れ」を指定することで、ターゲットがそれぞれの感情についてどのようなセリフを言うかといった出力もChatGPTが行ってくれる。
このようにプロセスを考えてChatGPTを活用することで、速く簡単に複数のアイデアを出せるようになったと藤井氏は説明した。
訴求ポイントを反映 複数案のタイトルでチームからのフィードバックを促進
次にメルマガのタイトルを考える工程に入る。ここでは「ターゲットに刺さる的確な訴求ポイントを考え、表現されているか」が重要だと藤井氏は述べる。
「タイトルを単体で考えてしまうと、言葉の表現としての良し悪しばかりに目がいきがちになってしまいます。しかし、そもそもタイトルで訴求する内容がターゲットにとって刺さる内容かどうかの吟味が必要です」(藤井氏)
そしてこの訴求ポイントもChatGPTを活用して列挙すると良いという。五つほど訴求ポイントを挙げてもらい、一つの訴求ポイントにつき三つずつタイトル案を出す。これにより、タイトルに対するチーム内の確認・フィードバックもより的確なものになりやすいと語る。
ただ、ここまでのプロセスを経て出てきたタイトルでも、出力された結果が微妙に使いづらいものであることも少なくない。藤井氏は、そのような場合に自己批判・改善のプロンプトを使用すると良いと語る。
「このプロンプトでは、ChatGPT自身に、訴求ポイントがターゲットに響かない理由を考えて批判するように指示します。そして、その批判を踏まえた訴求ポイント五つとタイトルの改善案を出すように指示を出すことで、新たな視点でのアイデアを得ることができます」(藤井氏)
そのような工程を踏まえて出てきたタイトルの中に気に入ったものがあれば、そこからChatGPTを活用して表現のバリエーションを展開することもできる。
たとえば「少人数でも大丈夫!ChatGPTとのコンテンツ共創で質と量を両立する方法」というタイトルがあった時に、「リアルイメージ型」「ターゲット絞り込み型」「指摘型」「比較型」というように、様々な型のバリエーションを三つずつ出してもらう。こうして刺さりやすい表現の比較が可能になる。
このようにChatGPTを活用することで、自分で考えると毎回似たような文言になってしまう課題を解決することができる。
ChatGPTを活用したA/Bテスト設計
タイトル案がある程度絞り込めたら、次はChatGPTを活用したA/Bテストを設計する。まずは、どのタイトルを組み合わせてA/Bテストを行えばいいかという組み合わせのパターンを複数案出すように指示を出す。なお、この際は組み合わせを選んだ理由や想定し得る示唆についても答えてもらうようにするとチーム内の話し合いが捗ると藤井氏は語る。
また、この段階では気に入ったタイトルが一つか二つに絞り込めている場合も少なくない。そういった場合は、一つは固定でもう一方の組み合わせを選んだ理由やそこから想定して得られる示唆を考えてもらうか、A/Bテストをする組み合わせは固定し、それを選んだ理由と想定して得られる示唆について考えてもらうようにすると良いと藤井氏は述べる。
タイトルに合った本文作り 新PASONAの法則を活用
メルマガのタイトルが決まった後は、タイトルに合った本文もChatGPTを使って構成する。藤井氏は、本文を考える際に「新PASONAの法則」というフレームワークを使って改善すると良いと説明する。このフレームワークは、「問題(Problem)」「親近感(Affinity)」「解決策(Solution)」「提案(Offer)」「絞り込み(Narrowing Down)」「行動(Action)」の英語の頭文字から名付けられたもので、これらの項目に沿って内容を考えていくことでターゲットの気持ちをより反映していくことができる。
ChatGPTに対して、この新PASONAの法則を活用してメール本文を考えるように指示出しを行うと、それぞれの項目に合わせた本文が出力されるという。
藤井氏は、この新PASONAの法則を使用することで気づいたChatGPTとの共創の良さを次のように語った。
「従来は、こうしたフレームワークを使おうとしても、その中身を埋めるのが大変だという課題がありました。しかし、ChatGPTの使用により取り入れやすくなりました。私自身は以前、メルマガの本文はランディングページの内容をそのまま送っていただけでしたが、ChatGPTを使って書き換えることでCVRが約10%改善した事例もあります」(藤井氏)
メルマガのタイトルと本文が完成したら、いよいよメールの送付だ。ここではChatGPTの出番はなく、シャノンのようなMAツールを使って内容に応じたセグメントを設定して送ることを推奨している。
過去に送信したメルマガをChatGPTが分析・改善案の提案を実施
本講演で紹介してきたケーススタディのメルマガは、次のスライドにあるA・Bの2種類のタイトルで実際に配信が行われた。その結果、両方ともCTRは平均よりやや良く、CVRはかなり良くなったという。なお、AとBのタイトルでは大きな差異は見られないという結果になった。
ただ、A・Bのタイトルで大きな差異がなくても、過去にMAで配信したメルマガのデータをChatGPTに読み込むことで、それぞれのメルマガがどういう結果だったのかという振り返りができると藤井氏は語った。
「まずはタイトルや配信日のほか、CTR、CVR、停止率といったMAで計測できる過去のデータをChatGPTに読み込ませ、理解してもらいます」(藤井氏)
Excelファイルのような項目別のデータは、ChatGPTの「Advanced Data Analysis」という有料版の機能で読み込むことができる。
「過去のデータからクリック率が高いメールのタイトルに共通する要素をChatGPTに考えてもらい、成功しやすいパターンを出します。たとえば「疑問形・尖った表現」「期限や年度を明示」といった特定の要素のあるタイトルのメルマガが、クリック率が良い傾向にあるなどの分析結果を出してくれます」(藤井氏)
こうした過去の配信の分析を踏まえ、今回のタイトルAとBそれぞれの分析や改善点、次のステップ、改善点を踏まえた訴求ポイント、新たなタイトル案を出してもらうよう指示出しを行うことも可能だ。
ここまでの工程を踏まえ、村尾氏は次のように感想を述べてセッションを締めくくった。
「実際にChatGPTを活用して仕事をしていくと、企画・作成術が大きく変わっていくと感じます。今後は、AIの進化でマーケターの仕事がAIに代わるのではなく、AIを使うマーケターとAIを使わないマーケターで差が開いていくと感じます。本日説明したようなプロンプトを活用すれば、従来のマーケティングで課題となってきた『コンテンツがなかなか作れない』という課題が解消され、ますますMAを活用するシーンが広がってゆくでしょう」(村尾氏)