人間は無意識にユースケースからデータを定義している
とはいえ、ユースケースから必要なデータを定義することは難しい。ここがデータのプロの腕の見せ所ともいえる。「しかし、個人レベルならば無意識に同様のことをしています」と語り、白井氏はユニークな例でユースケースからデータを定義するための思考プロセスを説明する。
恋人からのLINEの返信が遅いと、「愛されていないのではないか、愛されていないなら別れよう」と考えたとする。「愛されているかどうか」が意思決定に必要な情報であり、「別れる」は意思決定だ。この場合は「LINEの返信速度」がデータとなる。「LINEの返信速度」という計測可能なデータによって「愛されているかどうか」という評価しづらいものを評価し、意思決定に役立てるのがデータ分析だ。
これができると、LINEの返信が遅いたびに「愛されていないのか、別れたほうがいいのか」と悩まなくても、たとえば「5回連続でLINEの返信が1日以上かかった場合は別れる」といったトリガー設定をすることができる。つまり、意思決定にかかるコスト、揺らぎを圧縮することができる。
実務では意思決定に必要な情報の定義が難しい場合も多い。白井氏によると、意思決定者が決めることもあれば、データ分析者が意思決定者と話をしながら定義を作ることもあるという。定義を策定するためのコミュニケーションも、データ活用から成果を生むための肝になる部分だ。
データ基盤をユースケースとともに運用することが必要
以上の話をまとめると、成果に紐づくユースケースからデータ基盤を作ること、つまり使い道から逆算してデータを取得・蓄積することが、データを成果につなげるために大事なことだといえる。
そして、ユースケースは、考え得る限り多数作る必要がある。ケースの数=使い道となり、データから成果を生み出せる可能性の数になるからだ。1つのユースケースに複数の使い方を代用させるのではなく、具体的な1つずつの使い方に対してユースケースがそれぞれあるという状態が理想だ。
しかし、変化の激しい環境では、すべてのユースケースを最初から抜け漏れなく定義するのは不可能だ。データを成果につなげるためには、ユースケースなきデータ基盤を作らないこと、成果から逆算してデータを取得することが大事だが、ユースケースの改廃をし続ける、つまりデータ基盤をユースケースとともに運用することも必要になってくる。データの取り直しが起きないよう努力しつつ、ビジネス環境の変化に即応し、データ基盤を運用し続けることが大事なわけだ。
しかし、ユースケースとともにデータ基盤を運用するのはデータエンジニアリングと分析の専門知識が必要であり、片手間で行うのは非常に難しい。
「メンバーズ データ アドベンチャーなら常駐でデータ活用を運用していくので、データのプロがデータ活用・運用やスキルトランスファーによる内製化支援まで一貫して対応します」と白井氏。自社や自部門にデータに詳しい人材がいない、多忙でリソースが避けない、データ基盤の保守運用ができない、といった課題に寄り添うことが可能だという。
白井氏は「データ活用について相談したい方や事例が知りたい方、今日の内容についてもっと聞きたいことがある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください」と呼びかけ、講演を終えた。