クリエイターだから作れるAIもあるはず
──広告・マーケティング業界におけるクリエイティブ領域の仕事はこれからどう変わっていくでしょうか?
AIとコラボしたほうがよい領域と、人だけでやったほうがよい領域が分かれてきていますよね。前者は短期的な成果や効率が求められる、具体的にはデジタル広告の領域です。効率よく性能のよいクリエイティブを大量に作っていく必要があるデジタル広告は、AI向きだなと見ています。一方で、ブランドをじわじわ好きになってもらう、ブランドと一緒に世の中を変化させていくというように、より長期的な視点が必要になるところは人がやるべきだと思います。今ここで広告をクリックさせるなどの単純な行動ではなく、人間のより深い心理に関わるものだからです。
もしかしたら、この先、長期的な視点でブランドの成長を助けるAIが出てくるかもしれません。ですが、恐らくそういったAIはエンジニアだけでは作れないと思うんです。人間の心理に詳しいクリエイターとエンジニアが一緒にAIを作る、みたいなことまでできると、おもしろいですね。
実際に、電通は現在東京大学のAIセンターと共同研究をしています。「いかに性能のよい広告を生成AIで作るか」というテーマに加えて、「そもそも人間が“おもしろいと思う”とはどういうことか」など人間の心理を深掘りする研究も進めています。AIがなかったら、僕らはただ表現を作り続けるだけで、このようなことを理論として考えることもなかったでしょう。
人が動くというクリエイティビティのゴールはこれからも変わりません。AI×クリエイティビティで、人が動き、世の中が変化する強くておもしろいソリューションを創れるとしたら、クリエイターにとってはとても楽しい時代になっているのではないでしょうか。

株式会社電通 執行役員/CCO
(チーフ・クリエーティブ・オフィサー) 佐々木康晴氏
コンピュータサイエンスを学び、入社後はコピーライターに。電通のインタラクティブ・クリエイティブ部門の創設メンバーとなり、電通アメリカのエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、第4CRプランニング局長などを経て現職。テクノロジーとクリエイティビティのかけ合わせによる新価値創 造を追求する。国際賞の審査委員長や国際会議のキーノートスピーカーなどを多く経験。日本でいちばんヘタで過激なカヌーイスト集団「サラリーマン転覆隊」隊員。