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J1昇格の裏で築いたファン・サポーターとの絆。ジュビロ磐田が取り組むコミュニティマーケティング

 2023年11月にJ1復帰を決めたプロサッカークラブのジュビロ磐田は、Jリーグ昇格30周年を記念し、「クラブとサポーターが共に創り出すコミュニティサービス」として今年2月に共創型コミュニティ「JubiROOM」を立ち上げた。本記事ではコミュニティ立ち上げの背景、そしてファン・サポーターと共創で行ってきた取り組み、得られた成果をプロジェクト発起人の江端大介氏に聞いた。

ファン・サポーターとジュビロ磐田の距離を近づける

――ジュビロ磐田は、Jリーグ昇格30周年を記念して共創型コミュニティを立ち上げました。その背景を教えてください。

ジュビロ磐田 江端 大介氏
ジュビロ磐田 江端 大介氏

 ジュビロ磐田は2023年に新たなクラブ理念を発表し、Purpose(存在意義)を「夢と感動を 共に」としました。また、クラブとして大切にしていくDNAとValue(価値観)も刷新しており、特にDNAの中には「繋がりを創り育てる」という文言を入れています。

 ジュビロ磐田はファン・サポーター、パートナー企業、行政など、様々なステークホルダーとの繋がりがあったからこそ、これまで運営することができました。理念の刷新に合わせ、これまで以上にファン・サポーターとジュビロ磐田の距離を近づけ、双方向でコミュニケーションできる場が必要だと感じ、共創型コミュニティ「JubiROOM」の立ち上げを決めました。

 また、コミュニティの運営を通じて、フロントスタッフがポジティブに働ける環境作りに繋げる狙いもありました。直接ファン・サポーターとフロントスタッフが交流できる場を作ることで、自分たちの仕事の価値や意義を実感してほしいと考えていました。

アンケートでは見えない生の声を拾う

――ジュビロ磐田にはすでにサポーターズクラブ(ファンクラブ)が存在すると思います。そことの差別化に関してはどのように考えていますか。

 「共創型」であることが一番の差別化になっています。サポーターズクラブを通じてファン・サポーターの方と交流することもありますが、こちらは基本的には会員の皆さんにジュビロ磐田が様々なサービスを提供するためのものです。

 一方、JubiROOMでは「今後のジュビロ磐田について共に考え、新しい価値を創りたい」ファン・サポーターの方を募集していたので、ご入会いただく方も「クラブと何か新しいことをしたい」というモチベーションで入ってくださりました。

 また、JubiROOMは様々な部署の若手が中心となって運営しています。若手メンバーも「ジュビロ磐田を良い方向に変えたい」という想いが強く、双方が高い熱量で取り組めると考えました。

ファン・サポーターと新しいサービスを作る上で大事なこととは?

――共創型コミュニティ「JubiROOM」ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

 JubiROOMでは、「プロジェクト」と「コンテンツ」の2つに分けてサービスを提供してきました。プロジェクトはメンバーの皆さんと一緒に実際の企画を行うもので、コンテンツはジュビロ磐田の事業の裏側や他クラブの参考となる情報についてなど、今後のジュビロ磐田を考える上で役立つ情報を共有するものです。立ち上げ時には11のプロジェクト、15のコンテンツを準備していました。

江端氏画像2

――プロジェクトにはどのようなものがあったのでしょうか。

 プロジェクトでは、最初に浜松市出身の芸人さんであるEXITのりんたろー。さんをMCに迎えた「キックオフミーティング」を実施し、クラブの強化責任者である藤田俊哉スポーツダイレクターとジュビロ磐田の未来について語り合える「ジュビロ磐田未来会議」などを行いました。また、「YouTube企画会議」と題してジュビロ磐田公式YouTubeチャンネルの企画動画を一緒に考え、実際の収録まで立ち会っていただきました。

キックオフミーティングの様子(提供可能であれば)
キックオフミーティングの様子

――クラブのコンテンツ作りに直接関われるのは貴重な体験ですね。とはいえ、どこまでファン・サポーターの声を反映した企画にするかのバランスが難しいと思うのですが、どのように対応したのでしょうか。

 「YouTube企画会議」では、企画・制作を担当する広報にも協力してもらい、最初に動画制作の目的などをブリーフィングさせていただきました。できること・できないことを最初に明確にお伝えすることで、メンバーの皆さんからも実現性が高く、かつ新規性のあるアイデアを数多く頂けました。

――ブリーフィングを丁寧に行うことで、ファン・サポーターの皆さんがアイデアを出しやすい環境を作ったんですね。実際にはどのような企画ができたのでしょうか。

 最終的に完成した企画は、「選手がホームタウンで(名物の)うなぎつかみ&かば焼き体験をする」というものでした。ホームタウン紹介に加え、選手の普段見られない姿が見られる内容に仕上がりましたし、メンバーの皆さんからも動画の再生数を気にする声が上がるなど、自分ごととして捉えていただけていると感じました。

掲示板を中心にファン・サポーターの生の声を拾い上げる

――コンテンツに関しては、どのようなものを用意していたのでしょうか。

 今回、株式会社スタジアムの提供するオンラインサロンプラットフォーム「FANTS」でコミュニティを運営しており、同プラットフォームの掲示板機能を活用して、双方向でコンテンツを発信できる環境を構築しました。

 たとえば、「ジュビロ磐田特命リサーチ部」というコンテンツでは、他クラブ・他業界のスタジアム・スタジアムグルメ・イベントなどをコミュニティの皆さんに発信していただきました。

 私たちフロントスタッフは一部を除いてアウェイの試合に出向くことがあまり無いため、他クラブの情報をキャッチアップしきれていないと感じていました。メンバーの皆さんの中にはアウェイにもほぼ全試合観戦に行くほど熱量が高い方もおり、様々なスタジアムでの観戦経験があります。現地に行ったからこその生の声を拾い上げる取り組みとして、特命リサーチ部をスタートしました。

 また、私たちも「フロントスタッフの日常」と題し、各部門の何気ない風景や業務の裏側などを発信させていただきました。フロントスタッフも一部は顔出しでJubiROOMに参加しており、メンバーの方に「この人たちが運営に携わっているんだ」と知っていただければ、と考えていました。

半数は県外から参加。クラブの価値、資産が見えた1年

――コミュニティを立ち上げた後、活性化させるのが大変な印象があるのですが、コミュニティを活性化させるために何か意識していたことはありますか。

 意識していたことは2つで、1つは頂いた意見を出来る限りきちんと形にすること。もう1つは、温かみのあるコミュニティ運営をすることです。

 事前に用意していたプロジェクトやコンテンツ以外にも、メンバーの皆さんから様々なプロジェクトやコンテンツの要望を頂きました。その中で、「3月に卒業生向けのイベントを開催してほしい」というご意見がありました。「コロナ禍の影響もあり、今年の卒業生の多くは学校行事の多くが延期・中止になっているから」と。そこで、ジュビロ磐田としても何か楽しめるものを作れないかと早急に検討し、3月25日(土)のホームゲームにて卒業生向けのイベントを行いました。

卒業イベントの様子
卒業イベントの様子

 イベントでは、卒業生向けのフォトスポットや選手サイン会、ピッチに入って記念撮影ができる体験などをご用意しました。ご提案いただいた方からも感謝の声を頂きましたし、クラブ内外で反響がありました。頂いたご要望すべてに応えることはどうしても難しいのですが、可能な限り形にしていきたいと考えています。

 2つ目の温かみのあるコミュニティ運営については、自分自身が顔出ししてコミュニケーションを取るようにしているのも取り組みの1つです。「キックオフミーティング」の際にりんたろー。さんに「江端さんは委員長だね!」と言っていただいたことをきっかけに、自分のユーザー名を「委員長」に変え、定例会を「学級会」と名称変更するなど、できるだけ親しみを持って接してもらえることを意識しました。試合日にスタジアムで「委員長!」と声をかけていただくことも増えましたね。

――ここまで取り組みの内容についてうかがってきましたが、共創型コミュニティによって得られた成果を教えてください。

 今回のコミュニティには100名以上の方にご入会いただいたのですが、半数以上が県外在住の方でした。「FANTS」がアプリでも提供されていたことで、遠隔で参加しやすかったというのもあると思いますが、県外にも熱量の高いファン・サポーターの方がいることを改めて知ることができ、今後のクラブの価値・資産になると実感できました。

 また、メンバーの皆さんから声を集めるだけでなく、フロントスタッフも一緒になって頂いたご意見を掘り下げていったことで、具体的な施策や企画に落とし込むことができたのは非常に良かったと思います。

 元々の目的の一つであった「フロントスタッフがポジティブに働ける環境作り」という観点でも、スタッフがメンバーの皆さんの反応を肌で感じる中で、自分たちの仕事が生んでいる価値を実感できたと思っています。

共創はクラブの資産として今後も活かす

――今回の取り組みを通じて、得られた気づきや改善点はありますか。

 先程もお伝えしましたが、コアなファン・サポーターの皆さんの熱量が可視化でき、それが県外含めて広がっていると分かったことが大きな気づきでした。今後のクラブの大きな武器になり得ると思っています。

 一方改善点は、コミュニティを立ち上げる目的を最初に明示しきれていなかった点ですね。開始後に入会した目的を伺うと様々な声があり、その目的の違いの幅が広いことで、運営の方向性が難しいと感じることもありました。「共創」に関わる施策については、事前に実施目的を丁寧に明示することが大切だと感じています。

江端氏画像3

――最後に今後の展望を教えてください。

 ファン・サポーターの皆さんの熱量が非常に高く、「運営に携わってみたい」とまで思っていただけるのは、プロスポーツクラブならでは、そしてジュビロ磐田の大きな強みだと考えています。今後もファン・サポーターの皆さんとの「共創」を積極的に活かして、クラブの施策に反映していきたいです。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社スタジアム

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/12/20 10:00 https://markezine.jp/article/detail/44130