AIによって広告産業に生まれる「新たな仕事」
藤平:浅井さんのここまでの話を聞いて思ったのは、広告産業でのプロセスやアウトプットにAIをどう活用するかという視点も必要ですが、よりメタ的な視点を持つと、バリューチェーン全体のどこにAIを掛け算していけるか? という広い視野を持つことが大事だなということです。さらに言えば、バリューチェーンにAIを組み込んで終わりではなく、そこにどうクリエイティビティを掛け算するかまで見据えられるか否か――
たしかに、いま自分の周りで語られているAIの話は、およそ9割が「広告/コミュニケーション」です。ゆえに、バナーを1,000個作ってABテストをしてみるとか、モデルの顔を合成してみるとか、アウトプットの“手口”としてAIを見ることが多くなっているわけで。領域を限定せず、むしろ領域を拡張するチャンスとしてAIと向き合うことが重要だなと思いました。

浅井:そうですね。そこ(AI活用の構想)には、ブランディングの観点からクリエイティブが入っていく余地が大いにあると思っています。
この領域は何と呼べばいいのでしょうか。僕もまだ答えを見つけられていませんが、これから必要性が増してくる新しい領域だと思います。もっとチャレンジしていきたい領域です。
藤平:たしかに。「新しい技術」ほど「生活者目線のアイデア」が求められる場面は多いと思います。AIやXRなどは、そのまま世の中に実装すると生活者目線に立てていない使い方になってしまうケースが多い気がしています。「AIの使い方」そのものをクリエイティブ・ディレクションしていくところに、新しいビジネスチャンスがたくさんありそうです。
私の普段の業務は、サービス/プロダクト開発やインターナル・プログラムの設計など、いわゆる「広告」ではないものが大半です。その際、サービスであればUX/UIデザイナー、インターナル・プログラムであれば組織支援コンサルなど「その道のプロ」とタッグを組むことは重要だと思っていて。
AIの場合は、やっぱりテクノロジストだと思うんです。いまのエージェンシーは、もっとテクノロジストとクリエイターの距離を近づけていかなければならないなと。会話するのがフィジビリティのチェックだけ、みたいになってしまうと、真におもしろいアイデアは生まれにくそうです。また、テクノロジストのみならず、最終的にはファイナンスのプロやリテールのプロなどともチームを組むことが求められてくるだろうと思いました。
浅井:そうなると、テクノロジストとクリエイターの2人ではなく、プレーヤーは3人、4人になるかもしれないですね。
藤平:Business×Technology×Creativeの頭文字をとって「BTC」が重要だと言われていますが、AIをハブにこれが本当に完成する日が来るかもしれない。これをどう実現させるか? ここにコミットしていくのは、とてもおもしろそうだと思いました。
浅井:僕もそう思います。テクノロジー×ビジネスだけだと、藤平さんが「生活者を置き去りにする」とおっしゃったように、どうしてもドライな方向性に進んでいってしまう。はたまた、AI(テクノロジー)×クリエイティブだと手法に閉じてしまいがちなので、より大きくAIで変革を起こすには、その3つを連携させなければならないですね。

藤平:そう考えると、意外とクリエイターの未来は明るそうです。
浅井:まだ何もない領域をどう開拓していくか? という大きな可能性がここにあると思っています。AIの活用でクリエイターのフィールドは大きく広がり、「クリエイティブ・ディレクター」という肩書では収まらなくなるかもしれません。
藤平:まったく同意です。ちなみに、アクセンチュアソングやDroga5は、テクノロジストとクリエイターの距離が既に近いのではと見ているのですが、いかがですか?
浅井:そうですね。アクセンチュアは、人と人や、テーマとテーマの交差点を作っていくように組織が構成されており、様々な部門のメンバーとコラボする機会が多いですね。僕はDroga5 TokyoのCOOを務めながら、アクセンチュア ソングの日本でのクリエイティブ領域を統括しているのですが、社内のミーティングでもAIはとてもホットなテーマです。「広告」に限らず、コマースやサービスなど色々な領域のケイパビリティを持つ人が集まる中でAIを見ると、「ここにも取り入れられるかも」と気づくポイントが多々あります。
人とAIが協働することでサービスや製品が変わり、それらの提供方法が変わり、ブランドの在り方も大きく変わっていきます。クリエイターが果たすべき役割もこれからますます大きくなりそうでワクワクします。
藤平:あっという間でしたが、本日はありがとうございました。既存の業務にAIを組み込んでいるだけでは全然まだまだで、ビジネスにおけるAIの使い方をクリエイティブ・ディレクションするべき、という視点はハッとしました。そして、なかなか繋がらなかった、AIとブランディングもつながってきた気がします。
シンプルにためになったポイント
・「傑作」になるパーパスは人間にしか作れない(はず):AIにはWHYがないけど、人間やブランドにはWHYがある
・for AIという向き合い方:バリューチェーンの中に数多埋め込まれるAIをどうブランデッドにするのか
・by AIという向き合い方:これまで諦めていた/見てこなかった広告表現“以外”の領域をAIでクオリティアップできないか
・AIをハブに完成するBusiness×Technology×Creativeの真ん中にクリエイティブ・ディレクターがいるために、ディレクション型からファシリテーション型に役割のシフトが起こる(かも)